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■■■ 「古事記」解釈 [2023.5.10] ■■■
[686] 「古事記」仮名8母音 意袁
おを母音8種の最後はオヲ。
(阝:阿の偏)(安) [萬]…阿
(亻:伊の偏)(以) [萬]…伊
(井の変形)(為) [萬]…韋
(宀:宇の冠)(〃) [萬]…宇
𛀀(衣の初画)(衣) [萬]n.a.…愛 @呉音
_(工:江の旁)⇒Y行
(恵の部分画)(〃) [萬]…惠/恵 @呉音
(方:於の偏)(〃) [萬]…意
(乎の初画変形)(遠) [萬]…袁 @呉音
📖"阿〜和"全87音素設定 📖[追記]

(方:於の偏)(〃) [萬]

「古事記」の1音文字としては、どうみても<意>である。この文字は、志=識と同義とされていて、当時のインテリはほぼ仏教徒で漢籍を読める力があるということであり、太安万侶好みの文字ではなかろうか。
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[訓]n.a.(おもい/おもう)・・・意岐キ登理:おきつとり
  【正音】[巻十九#4220]意伊豆久安我未:おいづくあがみ
  意 [呉漢音]イ
[訓]n.a.(おぼえる/おもう)・・・
  【略音】[巻一#41]憶保枳美能:おほきみの
  憶 [呉音]オク [漢音]ヨク
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太安万侶は、僅かな例外使用はあるものの、文章構成の辞として用いる<於>を単純な音素表記に用いるつもりはない。それでも、<於>を使いたい人が多そうな語彙も少なくないだろうし、<意>を用いたくない場合もあろうから、その時は<淤>を用いた方がよいとの姿勢。
ただ<意>は[訓]であるのに対して、<淤>は[呉音]であるから、音素表記としてはこちらの選択の方が正当な気はする。
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[呉音]オ・・・伊毛袁淤母比傳:いもをおもひで 
  淤 [訓]どろ [漢音]ヨ
[呉音]or ウ・・・那尓於波牟登:なにおはむと
  【正音】[巻十四#3535]於能我乎遠:おのがをを
  於 [訓]おいて [漢音]ヲ ヨ
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阿と伊は、バリバリのサンスクリット漢訳文字。アの後の順番は、倭語では、なんとも言い難いものがあるが、ウでは用いない。大陸での文字音が安定していなかったせいも大きそう。<o>はその点では問題を抱える。
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梵語【悉曇 摩多】[オウ or オ ο]…瀑流[ウー/オウ]
 [オウ/アウ or オー]奥/奧…変化・・・
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こうなると<奥>は1音用には使えず、2音<おく>か、その頭音の音便的省略の<く>となる。
<汚>は誰がみても嫌字で音素表記に使うことは考えにくい。そもそも、梵語文字音が<ウ>とも言えそうだし、漢音も本来は<ヲ>だから不適である。
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[訓]おく・・・ 道奧石城国造:みちの_く
  [巻三#396]陸奥之:みちの_くの
   [呉音]アウ ヲク [漢音]アウ ヰク
[慣用音][漢音]・・・汚垢 穢汚
   [呉音]ウ [訓]よご-す けが-す きたな-い
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他に、使用に耐える1音表記文字は無い。
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[慣用訓]おし・・・忍坂大室
  【略訓】[巻十三#3331]忍坂山者:おさかのやまは
  忍 [訓]しの-ぶ [呉音]ニン [漢音]ジン
[呉音]オン・・・隱伎之三子嶋
  隱 [訓]かく-す [漢音]イン
[呉音]オ・・・【正音】[巻四#536]飫宇能海之:おうのうみの
  飫 [訓]あき-る [漢音]ヨ
[呉音]オゥ・・・【略音】[巻十八#4130]應婢キキ氣奈我良:おびつつけながら
  應 [訓]あた-る こた-える [漢音]ヨゥ
[訓]おお・・・【略訓】[巻三#254]明大門尓:あかしおほとに
  
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次は8番目の母音。

(乎の初画変形)(遠) [萬] @呉音

<ヲ>の俯瞰は重要。「古事記」と「萬葉集」の仮名漢字方針の違いが一目瞭然となるからだ。
漢字大好きな「萬葉集」では、ほぼ<乎>である。歌の表記であるから、恰好がつくこともあろうが、そこらじゅうで用いられている。
  📖"矜持を示す音素文字 📖"を/ヲ"の補遺
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[訓]か ああ かな や よ・・・[巻十五#3610]乎等女良我:をとめらが
  乎 [呉音]ヲ ゴ [漢音]コ
["乎"代替文字…文字遊び]・・・[巻八#1629]戀云物呼:こひといふものを
  呼 [訓]よ-ぶ [呉音]ク [漢音]コ
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想像がつくように、太安万侶は、<乎>を音素表記に使うべきでは無いと考える筈で、決してこのような事にはならない。選ばれたのは<ヲン>。(倭語には"ン"音は無い。)現代人には馴染みが薄い文字だが、当時も、ローブ的なロングドレスの民族服を指すから多用されていた文字ではなかろう。だからこそ、単純な音として使えるとされたのでは。
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[呉音]ヲン・・・伊毛袁淤母比傳:いもをおもひで
  【略音】[巻十七#3969]故之乎袁佐米尓:こしををさめに
  袁 [訓]n.a. [漢音]ヱン
[呉音]ヲン・・・倐忽爲遠延及御軍皆遠延:みなをえして
  【略音】[巻五#804]遠等痘ヌ何:をとめらが
  遠 [訓]とお-い [漢音]ヱン
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「古事記」での<を>表記は<袁>として間違いはないが、意味を持つ1文字語彙としては神名でも使うから<男>もかなりの数用いられている。
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[訓]とこ・・・【正訓】[巻二十#4332]麻須良男能:ますらをの
  男 [呉音]ナン [漢音]ダン
[訓]をん をす・・・牡馬
  牡 [呉音]ム モ [漢音]ボウ
[訓]っと・・・[巻九#1800]u荒夫乃:ますらをの
  夫 [呉音]フ [漢音]フウ
[訓]をす・・・[巻四#726]鴨二有益雄:かもにあらましを
  雄 [呉音]ゥ [漢音]ユゥ
漢文(読み下し:"♀♂")@序文・・・陰陽めを_斯開ひら_…後世の政治的読み下し。
  陽 [訓]ひ いつわる [呉漢音]ヤゥ
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「古事記」の他の[訓]1字文字は意味を重視していてわかり易い。
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[訓]を・・・小治田宮
  【正訓】[巻四#489]風小谷:かぜをだに
  小 [他の訓]こ ちい-さい [呉漢音]ショウ
[訓]を・・・ 其長谿八谷峽八尾 謂伊キ之尾鋳」
  【借訓】[巻十六#3791]禁尾迹女蚊:いさめをとめが
  尾 [呉音]ミ [漢音]ビ
[訓]うを・・・堅魚
  [巻九#1740]堅魚釣:かつをつり
  魚 [他の訓]さかな [呉音]ゴ [漢音]ギョ
[訓]を・・・(紡麻貫針刺其衣襴)…をみ
  【正訓・略訓】[巻十#2172]麻花押靡:をばなおしなべ
  麻 [他の訓]あさ [呉音]メ [漢音]バ
[訓]を・・・并五伴緒矣支加
  【正訓・借訓】[巻六#1047]八十伴緒乃:やそとものをの
  緒 [他の訓]いとぐち ほ [呉音]ジョ [漢音]ショ
[不詳]・・・八絃琴
  [巻二#99]キ良絃取波氣:つらをとりはけ
  絃/(弦) [訓]いと [呉漢音]ケン
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[訓]ではないが。
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[助辞]を・・・地矣阿多良斯登許曽
  【義訓】[巻三#249]浪矣恐:なみをかしこみ
  矣 [訓]− [呉漢音]イ
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「萬葉集」の[訓]1字文字は無理筋臭いのがさらにいくつか。歌の音数合わせと文字遊び上致し方なし。
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[不詳]・・・【正訓】[巻十二#3061]吾少偲爲:われをしのはせ
  少 [訓]すこ-し わか-い [呉音]セウ [漢音]シャ
[訓]を・・・【正訓】[巻十一#2687]苧原之下草:をふのしたくさ
  苧 [他の訓]からむし [呉音]ヂョ [漢音]チョ
[訓]を・・・【正訓】[巻二#126]遊士跡:みやびをと
  士 [他の訓]ま (さむらい) [呉音]ジ [漢音]シ
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[1字用例不明]・・・【正訓】n.a.
   [訓]をか [呉漢音]カゥ
[訓]・・・[巻七#1359]向岳之:むかつをの
  岳/嶽 [他の訓]たか/たけ [呉漢音]ガク
[訓]・・・[巻十九#4166]八丘飛超:やつをとびこえ
  丘 [呉音]ク [漢音]キウ
[不詳:"尾"代替字の可能背]・・・【義訓】[巻十九#4152]八峯乃海石榴:やつをのつばき
  峯/峰 [訓]みね [呉音]フ [漢音]ホゥ
[不詳:"尾"代替字の可能背]・・・【義訓】[巻七#1099]此向峯:このむかつをに
  岑 [訓]みね [呉音]ジム [漢音]シム
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[不詳]・・・【義訓】[巻六#948]八十友能壯者:やそとものをは
  壯 [訓]さかん たけし [呉音]シャゥ [漢音]サゥ
[訓-音便]あを・・・[巻十六#3889]佐有公之:さをなるきみが
   [音]セイ ショウ
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「萬葉集」の[音]1字文字も同様に無理筋臭い。
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[呉音]ヲン・・・【略音】[巻五#824]知良麻久怨之美:ちらまくをしみ
  怨 [訓]うら-む [漢音]ヱン
[呉音]チ ヱチ・・・【略音】[巻五#865]越等賣良波:をとめらは
  越 [訓]こ-す ご-し [漢音]ヱツ
[不詳]・・・【略音】[巻七#1405]蜻野叫:あきづのを
  叫 [訓]さけ-ぶ [呉漢音]ケウ
[不詳]・・・[巻十一#2671]公𠮧置者:きみをおきては
  𠮧
[用例確認できず]ヲ・・・【正音】n.a.…(烏玉 烏梅 からす 香烏髪)
   [訓]からす くろい [呉音]ウ [漢音]ヲ
[用例確認できず]ヲ・・・【正音】人毛不有(n.a.)
   [訓]わる-い にく-む [呉音]アク ウ [漢音]アク ヲ
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以下、おまけ。(浅学者には皆目理解できない。)
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[助辞]・・・[巻三#462]將吹焉:ふきなむを
  焉 [訓]いずく-んぞ ここに これ すなわち [呉漢音]エン
[不明]・・・[巻十六#3791題詞]於是翁曰唯々:ここにおきなををといひて
  唯 [訓]ただ [呉音]ユイ [漢音]ヰ
[不明]・・・[巻十六#3796]否藻諾藻:いなもをも
  諾 [訓]うべな-う [呉音]ナク [漢音]ダク
[不明]・・・[巻十二#2918]年者近綬:としはちかきを
  綬 [訓]ひも [呉音]ジュ [漢音]シウ
[不明]・・・[巻十二#3162]水咫衝石:みをつくし
  咫 [訓]た [呉漢音]シ
[不明]・・・[巻十#2228]開乃乎再入緒:さきのををりを
  再 [訓]ふたた-び [呉漢音]サイ
[不明]・・・[巻五#904]居礼杼毛:をれども
  居 [訓]い-る お-る ぐ すえ おき [呉音]コ [漢音]キョ
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