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■■■ 「古事記」解釈 [2023.5.14] ■■■
[690] 「古事記」仮名訓呉音 毛母
もmo<モ-mo>としての、<毛> v.s. <母>に触れた。「古事記」だからこそ見れるのであって、「萬葉集」では甲乙分別がされていないという点で、太安万侶の洞察力が光る記述箇所と言えよう。📖
この指摘は、本居宣長の音韻論に端を発することになるが、古代文献記載の文字から勝手にその音を推定するだけではフィクションでしかないから、(半島では、1100年以前の文献無しにもかかわらず、語音推定可能というのだからほとんどマジック。)ルールを見出して異なる音と確定することは簡単なことではない。<毛> v.s. <母>がルールで見いだされることが確定的になって、初めて甲乙の実在が実感できるようになったことは間違いなかろう。

ただ、そこからすると甲乙ルール発見の先駆者は、<知>にも見出せるとしたようだが、調べた結果は否定的だったようだ。しかし、甲乙が8母音に由来するとなれば、存在してしかるべきであり、少なくとも保 煩 乎については、どうして対偶音が見つからないのか、implicationが必要だろう。(イ・エ列の母音分岐欠落の一番簡単な推論:その様な漢語発音は、子音行サ・ハ・ナにしかなかった。)
サンスクリット音韻学に基づく50音図的に眺めることが、ことの他重要と言うことになろう。以下は、「古事記」成立からずっと後世の、奈良時代を仮想した表だが、再掲しておこう。・・・
阿__伊__宇__衣__於
加__伎紀_久__計気_古許
賀__岐宜_具__下碍_呉期  (下⇔中)
佐__之__須__世__蘇曽
邪__士__受__是__俗叙
多____都__天__斗登
陀__尼__豆__提__度杼
那__尓__奴__弥__怒能
波__比斐_不__幣閉__
婆__毘備_夫__辨倍__
末__美微_牟__売米_毛母
也__−__由__江__用余
良__利__留__礼__漏呂
和__為__−__恵___
     📖"阿〜和"全87音素設定 📖[追記]

音韻学に興味がある訳ではないが、ここらの見方が<倭>の風土を規定する人々の観念を考える上で鍵を握っていそうだから、多少、しつこく見ておくことにならざるを得ない。
尚、上記の表についても、コメントを付けておいたが、太安万侶の音韻論的見方とはあくまでも口誦叙事音表記での視点。奈良朝の上記の音韻論はそれとは180度異なり、漢文原文の発音に不可欠な音素表なので、注意を要する。

前段が長くなった。
 📖「古事記」は母にこだわる

(毛の省画変形)(毛) [萬]【甲】 @呉音
≪毛≫
 毛毛 伊豆毛 久毛/具毛 伊毛 加母/迦毛 毛由etc.  ⇒百雲妹鴨燃
[呉音]モウ [漢音]ボウ [慣用音]モ ブ
[訓]
[推定祖音]maːw
[白川静甲骨解釈]垂れている毛髪の形
[説文解字]=眉髮&獸毛
[現行意味]hair/feather/down/wool(糸状動植物表皮)

mo [萬]…母【乙】 @呉音
≪母≫
 於母陀流神  ⇒共等
[呉音]ム モ [漢音]ボウ [慣用音]
[訓]はは は あも おも かか かあ
[推定祖音]mow
[白川静甲骨解釈]胸に乳房のある女の形
[説文解字]=牧[養牛人]
[現行意味]mother( or 長輩女子・天下母・道教的女師)

上記の記載は、素人にとっては必要であるものの、この手の情報を網羅的に眺めたところで、たいした意味はない。
<ギリシア 印度 中原 倭>という馬鹿話を読まれた方ならわかると思うが、漢字とは、あくまでも呪術文字から発生したもので、交信のための表意機能があるだけ。

従って、どうあがこうと、音と文字の間には深い溝がある。
それを感じさせるのが、この2文字である。特に「説文解字」が母乳があるなかで全く異なる見方をしている点が光る。呪術文字として、繁殖を意味する文字と推測したことになるからだ。
わざわざこんなことを書くのは、我々が文字を見てどう読むかと考える習慣をそのまま当て嵌めて考えては拙いということ。もともと存在しているのは、音としての言葉のみ。言葉ありきである。その音にこそには概念がある訳で、それに呪術用記号が当てはまるということで、使わされたことになろう。これによって、半強制的に概念のイメージとしての統一化が進められたことになる。<中原>文明とは、この文字化で社会を一元管理できる仕組みを作ったことにある。1語彙音に対して、1対1対応で文字が定義されることになる。<倭>はその様な文字社会化を敬遠し続けてきたから、語彙と文字の1対1対応を快く受け入れる訳がなかろう。
毛母は、モ音の意味ある文字であるが、それをわざわざ単なる音として、<印度>文明のサンスクリット表記文字替わりにした訳で完璧な混淆文化である。
この2字使用はまさに傑作。文脈から見て、漢語の意味の倭語対応語彙に当たる(お)も であることが自明なら、その表記でも結構ということになる訳で。
現代日本語の原点ここにありである。

[]橋本進吉:「古代国語の音韻に就いて」@青空文庫(附録:万葉仮名類別表)

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