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■■■ 「古事記」解釈 [2023.5.22] ■■■
[697] 「古事記」仮名脱拍音 波婆幣閇弁倍富煩
はバへheベbeほボハ行の、う段📖(無声母音) い段📖(勝手音)を見たので、残りを。
ようやく、一番書きたかった箇所に到達した。

突然だが、「古事記」712年成立後である、736年の遣新羅使 秦間満の妻に一目会いたいとの作歌[巻十五#3589]の前半を引用しよう。
 由布佐礼婆夕されば 比具良之伎奈久蜩来鳴く 伊故麻山生駒山・・・

ここの仮名文字<布>は<pɯ̟ᵝ>とされるので、当時としての音は"ゆぷされば"になる。
そんなものか、と思うべきかも知れないが、小生は語感的に好きになれない。現代語で言うなら、「私は」と書いてある文章を、「わた(く)しぱ」と読むようなものだから。そんなこともあって、この音は弱音と考えたとも言える。

その発想には、実は裏がある。少しは、シラブル読みも試してみる必要があるのでは、という想い。もちろん、突拍子もない意見ではあるし、それとどう繋がるのか皆目見当がつかなくて当たり前。しかし、そこらを一寸書いてみたくなった。
(シラブルの訳は音節とされているが、そう書くと真意が伝わらなくなるのでご容赦の程。)

英語を学ぶと、最初に習うのがシラブル。そして、日本語との違いに愕然とさせられる。そのため、倭語には無関係な概念とみなしがち。
  pa・tt・er・nパターン[4拍]pat-ternpætərn[2シラブル(2母音)]
(倭人は、独立子音・二重子音の発声能力を欠いているし、二重母音や曖昧母音はほとんど認識できなかったと見てよいだろう。そのため、発声音の最小単位は、ママか子音的音に修飾された5(〜8)母音、つまり50音図的音群になる。この限られた数の基本音で単語を作ることになる。このため、音素として、母音多数・子音多数を抱え、それを順次発声する音節を形成して語彙とする言語と同列に扱うのはもともと無理がありすぎる。・・・にもかかわらず、雑炊言語の本領発揮で、渡来語もお茶の子済々で<訓>化してしまうのである。)

しかし、倭歌の五七拍概念に、倭的なシラブル表現があってもおかしくないのでは。
もちろん、すでに文字読み歌集として編纂された「萬葉集」から読み取ろうとしても無理。文字化してしまえば、1音1字的仮名文字が持ち込まれる。当然ながら、拍=仮名文字との、今に迄繋がる大原則が貫徹されてしまうことに。
しかし、無文字社会でも、その様な拍が意識されていたと考えてよいのかは、なんとも。
・・・つまり、文字無し時代の倭歌に対して、五七の字足らず/字余りという見方が通用しない可能性も考えておくべき、ということ。
|♩♩♩𝄽|♩♩♩♩|♩♩♩♩|・・・・・_・・・・・・・・・・・・・・表記文字の数と歌謡的に実感できる拍の数は違っているのが普通なのだから。従って、口誦語の「古事記」歌は、その様な文化を残していてもなんらおかしくなかろう。
このような歌謡の世界に、破裂音は向かない。母音言語の奥深い響きを突然にさえぎることになるからだ。口腔位置が似ている母音の子音化とか、摩擦音化で弱音化するのは当然の姿勢のような気がする。

太安万侶の地文表記に一貫性が欠けているように映る箇所は少なくないし、ヘンテコ漢文的な文章も見受けられるが、そこらはシラブル的発声がなされていたことを意味している可能性があろう。稗田阿礼の能力は、現代であれば天才と呼ばれてもおかしくないレベルと見ているからだが。(現代のような、ドングリの背比べ的な優秀人材と同列に考えるべきではない。オリンピックで圧倒的な力を見せつける金メダル選手と思った方がよい。)

話が長くなってしまった。

小生から見ると、シラブル感がうっすらとのっかていそうな箇所は、少なくない。・・・波都[4拍]だと拍表現であることがはっきりしているし、助詞でも、吾[2拍][2拍]にしても、そこにはシラブル感など感じさせる点はない。しかし、はたして、見_[3拍]もそう考えてよいのか、少し気にならないか。歌なら活用語尾は拍だから文字記載すべきなのに。
助詞にしても"〜の〜"を恣意的に入れていないように見える箇所もある。一貫性を追求しない理由が見当たらないないので、なんらかの読み方が決められているのでは。

素人談義なので、この辺りにしておこう。

(八)(波) [萬]…波
波  波都迩波:はつには
者  吾者:あは
羽  羽山津見神:はやまつみのかみ
歯  水歯別命:みづはわけのみこと
葉  竹葉:たけのは
婆  伊麻許曽婆:いまこそは
石  1例のみ(堅石王:かたしはのみこ)
土  1例のみ(土師部:はにしべ)
刃  1例のみ(御刀之刃毀:みはかしのはかけき)
芳  1例のみ(周芳国造:すはのくにのみやつこ)
具  1例のみ(阿具知:あはぢ)
バ [萬]…婆 @呉音
婆  和何多多勢礼婆:わがたたせれば
者  見者五十隠:みればいかくる
羽  稲羽:いなば
葉  青葉山:あをばのやま
之  又詔如何泥疑之:またいかにかねぎつるとのりたまへば
波  伊毛登能爐礼波:いもとのぼれば
刃  1例のみ(剣刃つるぎば)
(⻏:部の旁)(〃) [萬]…幣【甲】 @漢音
幣  幣具理能夜麻能:へぐりのやまの
辺  河辺:かはのへ
重  八重言代主神:やへことしろぬしのかみ
方  匍匐御枕方:みまくらへにはらばひ
平  平群臣:へぐりのおみ
弊  久羅下那州多陀用弊流之時:くらげなすただよへるとき
he [萬]…閇【乙】 @漢音
閇  閇蘇:へそ
上  高山尾上:たかやまのをのへ
戸  吾者為黄泉戸喫:あはよもつへぐひしつ
経  経浪速之渡而:なみはやのわたりをへて
倍  阿倍郎女:あへのいらつめ
頭  1例のみ(船頭:ふねのへ
べ [萬]便…弁【甲】 @呉音
弁  登許能弁尓:とこのべに
部  刑部:おさかべ
辺  置於床辺:とこのべにおけば
be [萬]…倍【乙】 @呉音
倍  宇倍志許曽:うべしこそ
瓮  玖訶瓮:くかべ
戸  1例のみ(大戸比売神 おほべひめのかみ)
(木:保の終画)(〃) [萬]…富
富  登富登富斯:とほとほし
本  本牟多能:ほむだの
穂  高千穂宮:たかちほのみや
百  八百万神:やほよろづのかみ
火  火須勢理命:ほすせりのみこと
番  日子番能迩迩芸命:ひこほのににぎのみこと
菩  加牟菩岐:かむほき
太  間人穴太部王:はしひとのあなほべのみこ
大  出雲之御大之御前:いづものみほのみさき
品  1例のみ(品牟都和気命:ほむつわけのみこと)
歩  1例のみ(歩驟:ほしう)
ボ [萬]…煩 @呉音  📖富と菩は音仮名ホ
煩  能煩野:のぼの
粒  1例のみ(飯粒:いひぼ)
爐  1例のみ(伊毛登能爐礼波:いもとのぼれば)

【付記】音韻解説でよくみかけるポイントは単純化すればこういうこと。・・・
[清音]k_       ⇔ [濁音]g_
[清音]s_       ⇔ [濁音]z_
[清音]t_       ⇔ [濁音]d_
[清音]pa pi pu pe po ⇔ [濁音]ba bi bu be bo
    ⇩
   fa fi fu fe fo
    ⇩
   ha hi fu he ho


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