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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.10.25 ■■■

夏至の行事

【五月[→]】【冬至[→]】【正月[→]】【立春[→]】と見てきたが、最後は【夏至】。

十分に調べた訳ではないし、そのような主張を見かけた訳でもないのだが、ネット検索の印象からすると、夏至の行事はもっぱら民間だったようだ。
そんなこともあって、生活臭ある贈り物になっているのかも。・・・

北朝婦人,常以
 冬至日進履襪及靴;
 正月進箕帚、長生花,
 立春進春書,
  以青繪為幟,刻龍像銜之,或為蝦蟆;
 五月進五時圖、五時花,施帳之上。
  是日又進長命縷、宛轉繩,皆結為人像帶之;
 夏至日進扇及粉脂
皆有辭。
  [卷一 禮異]
南北朝時代の、北朝の夫人の風習はこんなところだと言われている。
【冬至】
  履襪と靴を進呈。
【正月】
  箕帚と長生花を進呈。
【立春】
  春書を進呈。
  青繪で幟を作る。
  この表に、龍像を刻したものを付ける。蝦蟆でも。
【五月】
  五時図と五時花を進呈。これを、帳の上に設置する。
  別途、長命縷と宛轉繩も進呈。皆、人形に結んで携帯する。
【夏至】
  扇と粉脂をを進呈。
すべて、辭句をつけるのが習わし


暑くなれば発汗し気分悪し。パウダーで少しでも"さらり"気分になりたいのは世の常。それに扇の風でも来れば言うこと無し。南方では、その程度で耐えられないので、ソリャいいねということか。
賦香への拘りとか、扇への絵付けの工夫話があってもよさそうに思うが、実に則物的である。長命や富貴に影響しないことにはからきし興味が湧かぬという社会風土なのであろう。

成式の行事説明は、夏至で終わっており、全部で5つに過ぎない。これが、"北方夫人の五時"かも。
1/7[人日]-3/3[上巳]-5/5[端午]-7/7[七夕]-9/9[重陽]と言った五節句を持ち出していないのが肝かも。それは、民間のその季節の行事を官が標準化したものと見ているということではないか。当然のことながら、仏教伝来で重要な節日になった、寒食〜清明は登場しない。
そういえば、秋の宴を欠くが、そこでは夫人の出番無しだったのだろうか。

この辺りが成式流のものの見方かも。
所謂、春夏秋冬感からいえば、中華帝国的文化では五時=立春+立夏+大暑+立秋+立冬となる。四季=盛春+盛夏+盛暑+盛秋ではないのである。そして、節日とは、基本はこの1年の切れ目ということになる。
従って、新旧あわせればそれは、冬至、元旦、立春ということになろう。
生活上から言えば、立春が本来の正月で、自然に生まれる宗教観からすれば冬至となり、官の暦で決まるのが元旦である。
仏教が入ると、清明が加わるが、成式は入れていない。遠からず、仏教は駆逐されると見ていたからだろう。
この4つに加えるとしたら、冬至に対応する夏至であろう。1年の折り返し地点だからだ。
一方、春を寿ぐというのは、生産活動に入ることを意味しており、そのような観点から言えば、本格的に生物が成長する頃と、収穫の頃に節日も加えたくなるだろう。その前者が5月ということであろう。
成式が、収穫期を寿ぐ節日として書いていないのは、痛烈な皮肉だろう。それは、収奪開始の日だから。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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