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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.5.28 ■■■

馬鹿洞人

亜熱帯東アジアの地質と気候を考えると、ヒト類の古代化石は滅多にみつからないもの。ところが、1979年に広西壯族自治区で化石化した頭蓋骨が発見され、1989年には雲南蒙自の採石場で穴居人の化石が出土。それから随分放置されていたが、ようやく年代測定が行われ、古代遺跡とほとんどかわらぬ時代の、14,500〜11,500年前のものと判定された。大腿骨頸部が現生人類よりかなり長めなので、絶滅種の可能性が指摘されている。
同時に、食物と目される、大型の鹿の化石も発掘されたため、"馬鹿[アカシカ/Red deer]洞人"と命名された。
「中澳学者發現古人類新群 被称為“馬鹿洞人”」 2012年03月15日 15:51 法制晩報@新浪科技
「原始人類、最終氷期末まで存在か 大腿骨化石を分析」AFP 2015年12月18日

小生は、場所と年代から見て、現生人類だと思うが、その場合は鹿狩猟を主とする、異端的少数民族となろう。

それを踏まえて、「卷四境異」の"木耳夷"を読むと、成式のセンスのよさが伝わってくる。・・・

 木耳夷,舊牢西,以鹿角為器。
 其死則屈而燒之,埋其骨。
 後小骨類人,K如漆,
 小寒則沙自處,但出其面。


木耳夷はどう見ても雲貴高原の希少民族。屈葬なのに、火葬であり、東アジアは珍しい風習だからだ。ゴツゴツして黒漆のように黒色で艶がある顔立ちであるから、インド亜大陸系の人々かも。
寒いのは苦手と見え、砂を被って寝ていたようだから、土着ではなさそうだし。

木耳とは、キクラゲを指すが、ここからすると、耳の色の黒っぽさがよく似ていたのだろう。それに、暖かい地域の人種だとすれば、見慣れている北方とは違って、大きな耳が目立った筈。
そこは、白川が言うように、文化の吹き溜まりの地だったのである。

夜郎自大の部族の近くに住んでいたようだ。・・・
"水"出柯夜郎縣,---{水側皆是高山,山水之間
,悉是【木耳夷】居,語言不同,嗜慾亦異。雖曰山居,土差平和,而無瘴毒。}
…夷人大種曰昆,小種曰叟,皆曲頭,木耳,環鐵元豐本作銀。
 :
東北入于鬱。---{鬱水,即夜郎豚水也。…鬱水又東逕高要縣,牢水注之,}

  [「水經注」卷三十六 水]
夷人大種曰昆,小種曰叟。皆曲頭,木耳,環鐵裹結,…
  
[「華陽國志」卷四南中志]

山々と深い谷が襞状になっている広大な地域であるから、"木耳夷"以外にも、様々な呼び名の"夷"が存在したようだ。・・・
 摩沙夷[チベット系イ語+東巴文字]…納西族/ナシ
 哀牢夷[古語]…達光王の部落連合国
舊牢西と記載されているが、居 旧"牢山" 西ということかも知れぬ。・・・
 哀牢夷者,其先有婦人名沙壹,居于牢山。
 [「后漢書」南蠻西南夷列傳 第七十六]

成式は、こうした少数民族には関心があったようである。唐代までに、その様な文化が相当失われてしまったし、そういった伝承を書籍化しようと考える為政者も少なかったであろうから。
おそらく、こうした地域からも奴婢として召し、家人として、色々と質問するのも大きな楽しみだったと思われる。異質な信仰にもかかわらず、真面目で純朴な人々であったろうから。
「酉陽雑俎」には、その辺りが反映されているのだと思う。
「焼畑民的風習」@黔南 黄平
「海南島統治」@耳, 珠崖
「インドシナのK齒國」@西屠国

なにせ、秦は、少数民族の逃亡先にまで侵攻し、統治機構を築いていた訳で。・・・
 (蜀)@四川成都 (巴)@重慶
 黔中,益州[夜郎国→]@雲貴
 (南海)@廣東廣州<百越之地>
 象@廣西壯族崇左<百越之地>
 桂林/鬱林@廣西壯族<百越之地>
 蒼梧@廣西壯族西北〜湖南南部
 廬江@廣西壯族
少数民族がモザイク様に住んでいる地だったから、それ以前の話は極めて乏しいのである。ただ、特徴を示唆するような、その祖が住んでた国の記載は多少なりともみつかるのだが。・・・
 【貫匈國】…海外南経
 【飛頭蛮】 [→]
 【羽民】…海外南経・大荒南経
 【木僕】 [→]…"尾濮國"(出「永昌郡傳」@「太平御覧」卷七九一)
いうなれば、西南之蛮である。

ここらの少数民族は、ミクロ的な民俗調査は多数あるが、マクロ的にはどうなっているのかわからない。もともと、政治的なご都合で急遽種族を決め、それを踏襲しているにすぎないからだ。
ただ、現代人から見れば、かなりの異質な文化が残っており、それは成式の時代でも同じことだったと見てよかろう。
例えば、矯正による曲頭・伸首の類や、折腰や鼻飲という挨拶的文化、巨大な環状装身具とそれに伴う変形、等々は山海経が対象としていた時代感覚をそのまま残していると見て間違いなかろう。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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