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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.9.29 ■■■

奇怪な蚯蚓

蚯蚓/ミミズは環形フォルムの生物。
蟲本草的な扱いをされてもよさそうだが、蜈蚣は登場しても、蚓は省略されている。[→「蟲本草」] 虫そのものとしても、特段の関心を呼ばない姿態なのかも。[→「ミミズ型蛭か」]

鱗虫の蛇のように、足が退化して見えなくなっている訳ではない。
従って、ミミズに似ていると言っても、足が生えていたら、それは全くの別種。

それは、そう習ったから言えること。動物を外皮の姿で大分類する以上、ミミズ的な皮膚なら、同類と考えるのは可笑しなことではない。

ただ、そのような生物にお目にかかったことが無いから、確かに、遭遇すれば奇怪としか言いようがあるまい。
そういう手の奇譚は色々あったに違いない。
 長安の奇譚【東02 大寧坊】[續集卷二 支諾皋中]
さらに2つの話を取り上げよう。・・・

廬州舒城縣蚓,
成式三從房伯父,太和三年廬州某官,
庭前忽有蚓出,
大如食指,長三尺,白項下有兩足。
足正如雀,歩於垣下。
經數日方死。
 [續集卷三 支諾皋下]
廬州舒城県の蚓の話。
成式の三從房伯父が太和三年に廬州で某官僚に就任。
その邸宅の庭の前に、忽然として、蚓が出現した。
その大きさは薬指位で、長さは3尺。
白い項で、その下に2本の足があった。
その足は、正に、雀の脚のよう。
垣の下を歩いていたのである。
数日を経て、とうとう死んだ。


荊州百姓孔謙蚓,
成式女乳母阿史,本荊州人,
嘗言小兒時,見鄰居百姓孔謙籬下有蚓,
口露雙齒,肚下足如,長尺五,行疾於常蚓。
謙惡,遽殺之。
其年謙喪母及兄,謙亦不得活。
 [續集卷三 支諾皋下]
荊州の百姓である孔謙の蚓の話。
成式の女の乳母をしていた阿史は、もともとは荊州人である。
かつて子供だった時のことをこう言っていた。
隣に住んでいる百姓の孔謙の籬の下で蚓を見た。
口から2本の歯が露出しており、肝の下には足があった。
それはの様で、長さにして1尺5寸、
通常の蚓と比べると疾走するように進んでいた。
孔謙は気味悪がり、直ちにこれを殺した。
その年のことである。
母と兄への服喪が発生。
孔謙も又生きる活力を得ることができなくなってしまった。


突然変異の個体や、皮膚が弱い幼体は、種によっては滅多に見かけることはない。そのため、初めて見たりすれば、確かにビックリする。普通はさっさとその場から離れるもの。どんな危険があるのかわからない訳で。

ところが、それに関心を示す人々がいる。上奏して、覚え目出度き、を狙うからである。
そのような発想だと、山海経の怪のどれかに当て嵌めることになろう。説明し易いからである。従って、奇怪な蚯蚓も、多少は誇張もあるものの、創作話というほどではなかろう。

ともあれ、奇怪なモノは、一般には凶兆である。
そこで、なにはともあれ奇怪な者は殺せという発想が生まれる。
そんなことを考えると、この収録譚のエッセンスは、殺せば、えらい目にあうぜ、というところか。
 「一行禪師伝【僧侶斬殺】」
(「私には罪は無い。ただ、前生に沙弥だった時に、誤って蚓を鋤で殺したことがある。帝はその時の蚓である。今、その報いを受けているのだ。」)

成式だと、奇怪な生物に遭遇したりすれば、時の立つのを忘れ、じっくり観察しそう。誰にも言わず密かに。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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