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■■■ 「日本の樹木」出鱈目解説 2014.12.11 ■■■

何故か仏教が保護した樹木

今回は銀杏。

理由はわからぬが、東京、神奈川、大阪がシンボル樹に選定している。かち合っていても、かまわぬということなのだから余程の魅力があるのだろう。
美しい杉林を持っているから、そこが誇りという話とは違うのである。(春日/吉野杉,秋田杉,立山杉,神宮杉,北山杉,魚梁瀬杉)
それに、日本の古代を彷彿させる巨木があれば、それこそが郷土のアイデンティティというのもわかる。楠を県木にする気分が生まれて当然だと思う。(兵庫,佐賀,熊本,鹿児島)

まさか、都会の空気の汚れに抗し、スクスク成長するからということではないと思うが。
東京の場合は、記念物扱いしている樹木は少なくない。
尚、「首かけ」というのは、見附から移植する時に責任者が首をかけたという意味である。「精子発見」とは、小石川植物園で働いていた平瀬作五郎が1894年に顕微鏡観察し発表したもの。もちろん、世界的な大発見。老木もあるようで、そうなると「乳柱」と呼ばれる気根を生じたりすると、それにちなんだ扱いになったりする。
 千代田区日比谷公園「首かけ銀杏」
 港区芝公園 芝東照宮「家光時代の銀杏」
 港区元麻布 善福寺「逆さ銀杏」
 港区赤坂 氷川神社「大銀杏」
 文京区白山 小石川植物園 「精子発見の木」[→]
 豊島区雑司ヶ谷 鬼子母神「子育て銀杏」
 豊島区南大塚 天祖神社「夫婦銀杏」
 北区王子 王子神社「豊島氏の銀杏」
 台東区浅草 浅草寺「ご神木」
 台東区池之端 旧岩崎邸庭園
 世田谷区九品仏 浄真寺「九品仏の銀杏」


もっとも、たいていの人は、街路樹の黄葉並木景観をあげる。それは当たり前で、東京の国道/都道といった幹線道路の街路樹では一番多い種で、だいたい1割弱と言われている位なのだから。
と言っても、落ち葉掃除の問題もあり、地元民や行政に好かれているとも限らないから、美観の方はピンキリ。無様に剪定されつくしている場所も少なくない訳で。
 明治神宮外苑(青山通りから絵画館正面方向)
 甲州街道(追分町〜高尾町:多摩御陵)
 聖橋-湯島
 日比谷通り
 東大(校章:銀杏) 安田講堂前
 田園調布

神奈川だと、日本大通り-山下公園通り、大阪だと、御堂筋になるのだろうか。

従って、なんといっても圧巻は公園だとおっしゃるのは正当である。都内の公園では定番植木に近いし。
 昭和記念公園(かたらい並木)
 光が丘公園(旧都庁舎前の移植)
 代々木公園(しあわせの像)
 新宿御苑(散策路-千駄ヶ谷門)


ということで、どこにでもある感じで、別に珍しい樹木とは思わないが、武藏野の民家の植栽としては登場しないようだ。実欲しいなら雌、臭くてこまるなら雄を植えればよさそうに思うのだが、鎌倉鶴岡八幡での実朝暗殺場面の大銀杏が気になるのだろうか。

世界的にみれば、この樹木は"ENDANGERED"であるが、日本では、さっぱりそんな気がしない。野生種は無いということだが。
それに、フード・サプリメント原料用途もあるから、実だけでなく葉も商売になっていそうだし。もっとも、本場は中国か。なにせ、欧州ではナンバー1らしいし。
   「欧州の植物由来サプリメントについて」[2014.3.22]

原産地中国と言われているらしいが、どこまで野生種かは、なんとも。日本同様に、といってもほんの僅かでしかない仏教勢力が保護してきたようで、見かけるのは栽培樹木らしい。(「仏指甲」とか「霊眼」とも言われたそうだ。)薬用に植えられたとされるが、湖州十裏古銀杏長廊(浙江省長興)があるほどだから、「白果炒鶏丁」的な料理の美味しさが一番の魅力だった可能性が高かろう。なんでも食べる国なのだから。どこまで本当かわからぬが、銀杏樹輪切り俎板は中華包丁との相性が抜群とか。

樹齢3,000年も現存しているそうだ。それはほとんど寿命ではないかと思うのだが。白髪三千丈の国だから驚きはしないが。そんなこともあってか、共産党が突然にして推挙し「国樹」化。
   The Li Jiawan Grand Ginkgo King by Zhun Xiang, et.al.

ともあれ古樹が存在するのはおかしな話ではない。古代から連綿と生き続けてきた裸子植物の仲間なのだから。
羊歯類樹木絶滅後は繁栄したようだが、被子植物に追いやられてしまい、どうにかこうにか生き残ったという感じ。そういうことで有名なのは、銀杏に限らず、南洋杉、曙杉(メタセコイア)も。それに、「日本の木」の高野槙もお忘れなく。「真木」なのだから。
   「正真正銘の木」[2012.9.6]
「生きている化石」樹木としては、銀杏の他にも、蘇鉄、ウォレミ松(ウォレマイ・パイン/Jurassic Tree)、鎧杉(チリ松/Monkey Tail Tree)、砂漠万年青 or 奇想天外(ウェルウィッチア)がある。もちろん裸子植物である。
   「最古裸子植物を想う」[2014.2.21]

気になるのは、何故、仏教がそうまでして銀杏を重視したか。インド大陸では絶滅していたというのに。

(参考)
十亀好雄:「世界におけるイチョウの分布」甲子園短期大学紀要 No. 4 1984
堀輝三:「イチョウの渡海の歴史」 Tsukuba Journal of Biology (2004) 3: TJB200410TH 2004


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