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2008.4.3 |
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中東のシナリオを考える [3]…イラン・イラクに引き続いて、トルコ、アフガニスタン、パキスタンの状況を眺めてみた。何が言いたいか、おわかりになるだろうか。→ [1] (2008年3月27日)、 [2] (2008年3月31日) 素人の話であるから、ここで指摘した内容の妥当性など考える必要はない。重要なのはこんな見方もできるという点。 つまり、中東諸国は、様々な視点で見つめながら、この先、どのように生きていくか考えているということである。 これを踏まえて、中東戦乱の元でもある、イスラエル・パレスチナ辺りがどうなっているか、想像することになる。 ただ、その前に米国が中東をどう考えていると見なされていそうか考えておくことが必要だろう。 イラクでの米兵死者数も、アウトソーシングしているにもかかわらず、ついに4,000人に到達してしまった。(1)減少傾向にあるので国内での反戦の動きは強まらないようだが、大統領選挙でも民主党は撤退前提との雰囲気濃厚。 これを中東から見れば、ここまで犠牲を払っても、米国は何も実現できないの評価になろう。混乱と無秩序を醸成しただけで、次期政権にお鉢を回すしか無かろうと、考えられている筈だ。 しかも、2008年にアブダビで行ったBush大統領演説のトーンが、以前と違う印象を与えたから、米国は勝利宣言して撤退準備に入っているのではないかと見られていると思う。(2) ヒトとモノの交換なくしては長期戦は成り立たないが、米国は、その限界を超えたとの認識が広まったということ。 それに、イラク戦争とは直接関係ないイラン問題が最優先課題となったことも大きい。 中東諸国からすれば、海上での偶発的な交戦が始まらないことを祈るのみ、といったところか。 ともかく、ここまでくると、米国の力への100%依存は危険だということになるだろう。 実際、トルコやパキスタンの政権の動きを見ていると、短期的な視点でのみ、米国との蜜月状態が保てれば十分と考えてもおかしくない。 (親米・反米を問わず、中東諸国はこれからどうすべきを自ら考える時代に入ったということ。) そんな雰囲気のなかで、「Annapolis meeting」(3)で始まった、イスラエル・パレスチナ和平交渉が進んでいるのだ。 どう見ても、Bush政権は、政権発足時点から、この問題に係わることを避け続けてきたにもかかわらず、始めざるを得なくなったということ。優先順位が低いにもかかわらず、とりあえず手をつけているのだ。ここが一番のポイント。 中東で、米国の弱体化が進むと見られているとすれば、この辺りで一騒動という仕掛けはありえる話。そんな動きを抑えるには、和平交渉を続けているのが一番ということではないかと思う。 そもそも、この和平交渉、両者の代表は当事者能力を欠いている。イスラエル側は、国内が分裂しており、閣内でさえ方針がまとまらない状況で、パレスチナ側と言えば、カリスマ性も人気も欠き、リーダーシップ発揮どころではない。(4) 要するに、米国は仲介というより、弱体な両代表に問題を丸投げし、何とかしろと言っているだけ。確かに、両代表は自分で動くしかないから、「瓢箪から駒」もあるかも、ということかも知れぬが。 ともかく、ここからわかるのが、力関係が大きく変わり始めたこと。 それを端的に示すのが、2008年3月6日の、イスラエルの首府での事件。正統派ユダヤ教の頂点に立つ神学校、Mercaz HaRav(5)が襲撃されたのである。 ハマス(Hamas)に、心臓部を襲う力をがあるという話ではない。ついに、宗教戦争に持ち込む手が打たれたのである。これに火がつけばイスラエルは駆逐される。 エジプトに向かうパレスチナの民衆の動きを見ていたイスラエル軍にとっては衝撃的と言ってよいだろう。宗教戦争化すれば、次に予想されるのは、素手で雪崩れ込む込む民衆を止められず、軍隊が大量虐殺せざるを得ないシーンだからだ。 当然ながら、パレスチナ大統領はすぐにテロとして非難。これでますます民衆から浮いたのは間違いあるまい。 そして、イスラエルの現政権は、報復ではなく、和平交渉続行姿勢を打ち出すしかなかったのである。(6)軍事力による領土拡大政策の続行は、生存が脅かされることになりかねないと感じたということ。 この姿勢は、藁をもつかむ思いの和平交渉との印象を与えてしまったということでもある。 それに輪をかけたのが、国連安保理が動かなかったこと。ロシアが同調しないのである。 こうなると、イスラエル周囲に、エジプト-ヨルダン-(レバノン)-トルコという親欧米ラインを確立し、この枠組みをサウジアラビアが資金的に支えるという、米国型地域安定化構想は頓挫したと言えそうである。 米-サウジアラビアの63年に渡る長い関係(7)が終わりを告げる可能性もないとはいえないのだ。 (もともと反宗教勢力のシリア政権だが、宗教戦争化の流れを利用して、イランとの同盟強化で、権力基盤は強くなった。しかも、安保理決議(No.1559)でレバノンからシリアを排除したため、シーア派宗教勢力ヒズボラ(Hezbollah)が力を持つようになった。イラクは穏健なシーア派主導国家ではなく、宗教勢力の配下に収まる流れができてしまったから、イラク穏健派の影響力でレバノン内シーア派勢力を治めることはできなくなった。) 2007年10月に不可思議なニュースが続いたが、これが最後の仕掛けだったようである。「イスラエルによるシリアの核施設らしき建築物爆撃」写真が大々的に宣伝された件である。Al Baradei IAEA事務局長インタビューによれば、これはガセネタと見てよいようだ。(8)反応を探るために行ったのだろうが、中東諸国からは、ほとんど黙殺されてしまった。 目的は見抜かれていたということ。 → 「民族紛争から大戦争への道 (附記)」 (2007年11月5日) 中東諸国は、冷静に経緯を眺めているといったところのようだ。 勝ち馬に乗るのは鉄則であり、米国は勝ち馬ではないと見なされた。先を見ながら、準備の動きが始まった訳である。 その発端は、軍事技術である。 ・携帯電話とGPSによるコミュニケーション能力の拡大でゲリラ戦の質が高まった。 ・移動発射ミサイル攻撃に対しては、有効な反撃ができない。 ・安価な可搬ミサイルによる戦車攻撃の有効性が示された。 ・軍艦がミサイル攻撃に極めて弱体であることが判明した。 ・ミサイル価格が低下しコモディティ化した。 米国が地域を治めるモデルは、早晩、成り立たなくなると読んでいる筈である。 問題は、それでは、どんなモデルか、ということ。その探り合いが始まっている筈である。 --- 参照 --- (1) “U.S. military deaths in Iraq hit 4,000, but rate is slowing” Christian Science Monitor [2008.3.25] http://www.csmonitor.com/2008/0325/p04s04-wome.html (2) [Bush大統領演説] “President Bush Discusses Importance of Freedom in the Middle East”@Abu Dhabi/UAE [2008.1.13] http://www.whitehouse.gov/news/releases/2008/01/20080113-1.html (3) “The full story of the joint action plan in Annapolis - November 29, 2007” JMCC http://www.jmcc.org/documents/annapolisdoc.htm (4) Charley Reese: “The Annapolis Conference?What Next? Don't Expect Peace” Washington Report on Middle East Affairs [Jan.-Feb. 2008] http://www.wrmea.com/archives/Jan_Feb_2008/0801010.html (5) http://www.mercazharav.org/ [英語] Torah(口伝)・Talmud(ヘブライ語聖典)教育機関 (6) “Attack won't halt talks - Israel” BBC NEWS [2008.3.7] http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/7282679.stm (7) 1945年、Roosevelt大統領とSaud国王がQuincy compactをまとめた。イスラエル問題やOPECの動きがあっても、協約は続いた。 Lee Kuan Yew: “The Cost Of Retreat In Iraq” Washington Post [2008.3.8] http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/03/07/AR2008030702429.html (8) Al Baradeiインタビュー Dar Al-Hayat[2008.1.11] http://english.daralhayat.com/Spec/01-2008/Article-20080111-696004c1-c0a8-10ed-01ae-81ab74b33e8c/story.html ・・・“Based on satellite photographs, experts believe it is unlikely that the targeted construction was a nuclear facility. I consider the Israeli strike to be a negative precedent.” 政治への発言の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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