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2014.6.2

中国の料理文化圏

[四川]

中国の3大料理圏とその代表料理について書いてみた。
 (1)<北方民族料理圏[→] 北京(京)料理
 (2)<江南料理圏[→] 上海(滬)料理
 (3)<亜熱帯モンスーン料理圏[→] [→] [→] 香港(港)料理

上記のような分類をする人はいないようだ。
普通は以下を4大菜として紹介することになる。しかしながら、選定理由の解説は見かけないから、それを事実として認めよとのお達しがあるのだろう。そこで、その心はということで、考え方の一例として対応軍区を示してみた。
 (1)山東料理(魯菜) [含:北京,宮廷,東北,山西,西北]・・・済南軍区
          & 北京軍区+瀋陽軍区[非漢民族]
 (2)江蘇料理(蘇菜) [含:上海,淮揚]・・・蘭州軍区
 (3)広東料理(菜) [含:潮州,客家,順徳]・・・広州軍区
 (4)四川料理(川菜) [含:雲南料理,貴州料理]・・・四川軍区

さらに8大となると以下が追加されたりする。
 (2')浙江料理(浙菜)
 (3')福建料理(菜) [含:海南,台湾]
 (4')湖南料理(湘菜)・・・首脳出身地
 (5)安徽料理(徽菜)

3大料理圏で終わりにしようかと思っていたが、どうもそういう訳にもいきそうにないので、4つ目を追加しておくことにした。

 (4)<高湿灼熱台地料理圏四川(川)料理
盆地気候の特徴ともいえる、夏に耐え難き暑さに見舞われる地域ということで命名。

ここの名物料理は日本ではえらく有名。以下は、知らぬ人なき状態。多くは、日本に合うようにレシピは大きく変えられているらしいが、「麻辣」なる四川料理イメージは出来上がっていると言ってよかろう。
 麻婆豆腐
 担担麺
 回鍋肉
 青椒肉絲
 麻婆茄子
 棒棒鶏
 乾焼蝦仁
 エビチリ

そんなこともあり、日本でも中華料理と言えば、お馴染みの広東に、激辛人気で四川が迫るといった感じ。代表的料理として採択するのは当たり前と考えがち。
しかし、どうなのだろうか。

四川辺りは、元、明、清、人民中国と、北京官僚の支配下にあった地域の筈。北方民族の食文化が濃厚ということはないのだろうか。唐辛子好きが特徴の民とされているが、それは北京官僚が持ち込んだ流行食以外のなにものでもなかろう。四川が発信した食文化とは思えないのだが。
唐辛子が矢鱈に好まれた理由は、一般には、高湿灼熱の盆地気候のせいとされるが、どうかネ。唐辛子好きの朝鮮半島の気候とはおよそかけ離れている訳だから。
極く自然に考えれば、もともと山椒好みの地域だったから、唐辛子人気もすぐに沸騰したということでは。

ともあれ、北京食文化の流入は否めないところ。
例えば、ゴマ味料理の棒棒鶏とは、北京の羊肉の代替ではなかろうか。羊が入手難なら、単純な水煮やシャブシャブでは。もともとの形態も、蒸し鶏を紅油につけて食べていたのでは。
「川菜之王」たる回鍋肉は、甜麺醤を使うが、この味が一番引き立つのは北京ダックでは。とはいえ、明らかに、豚肉調理方法の妙を示す料理である。しかし、独自というよりは、北京官僚が食べていた牛肉と蒜苗の甜麺醤炒めを家常菜化した可能性を感じてしまう。
北京ダック的な料理も家常菜レベルで存在するから尚更。手撕鴨である。もちろん香りの出来は料理人の腕で決まる訳だが、奇怪味らしい。流石に、この手の味は四川から出れば通用しまい。
しかし、ここでの肉の主流たる豚では、そのような味つけはしないのでは。
・・・こうした見方どんなものか。

小生は、四川料理の「麻辣」の根底にある山椒/花椒志向は牧畜からきていると見る。
そ支配層が牛肉を多用したと想定するのだ。ところが、ここら一帯には野原が広がっている訳ではない。そうなると、牛の食性上食べられることが無い植物利用に長けてくる筈だ。山椒は、そういう意味で注目されてしかるべき作物だったのだと思う。

そんな観点で特徴的な料理を選べば、以下のようなものになろう。実に素朴な料理である。
 炒空心菜
 椒塩花生
 辣子鶏


これらは、農家が疏菜と家畜で作る家常菜そのもの。
上記の料理にしても、厳選素材で高級化する気にもなれない、大衆的なもの。日本では、家庭のお惣菜にピッタリの料理ということになろう。
その手の料理を、中華料理の代表とするのはどんなもんだろう。

そうそう、雲南料理や貴州料理も四川料理の範疇に包含されたりするようだが、誰も違和感を覚えないのだろうか。
ここらは雲貴高原と呼ばれ、気候的に全く違うからだ。四川の漢族の支配下にあるという点では、政治的に同一グループとされるのは致し方なかろうが、文化的な共通性があるとはとても思えないのだが。なにせ、ここらは非漢民族だらけなのだから。
しかも、山がち。食材も大きく変わる。雲南など、茸や山菜を多用する訳で、その味を重視したものになっており、四川とは食の嗜好は全く違うと見るべきだろう。
貴州の場合も、塩が不足していた故の唐辛子の辣好みの可能性が高く、四川とは似て非なる嗜好だと思うが。

それでも、ここら辺りを広く眺めれば、「辣」という共通項で料理圏をくくりたくなるかも。それなら、東北の少数民族の朝鮮系も入れるのかネということになってしまうが、その辺りは無視しようか。

 (4)<西南「辣」料理圏

しかし、そうなると、代表を四川料理とすべきか気になるところ。
 四川人不怕辣、 [辣を恐れず]
 湖南人辣不怕、 [辣だが恐れず]
 貴州人怕不辣。 [不辣を恐れる]
  [四川通志]
貴州人凄しである。

この場合、湖南(湘)の解説が必要だろう。ここは、酢漬唐辛子が発酵調味料の主体となっている。酸味が決め手だが、それは辛子に旨みありと考えているから。辛さに微妙な違いありと考えているに違いないのだ。温暖で多雨の地域であり、魚と米は豊富だから、料理はいくら辛くてもよいが、辛さが旨味を弱めてしまうのは大いにこまるのである。
一方、四川は味噌に唐辛子を加えただけのような豆板醤味が好まれる。実に荒っぽいやり方である。しかも、「花椒」を多用する。味覚が麻痺するような刺激を好んでいる訳だ。
両者が追求している辣の質は全く違うと言ってよかろう。

従って、湖南の対抗馬は四川ではなく、貴州なのである。
ここは刺激ではなく、唐辛子そのものの味を楽しみたいのだ。その結果、超辣になるのは当然と言う訳。

上記は四川で言われている話なので、属国化に熱をあげていた雲南は登場しないが、ここも辣料理は少なくない。それは四川の流れと見なされているが、大挙して強引に入植した漢人には当てはまるが、非漢人は貴州に似た唐辛子文化を維持しているのでは。じっくりと時間をかけて、唐辛子の旨さを引き出そうとしているものが多いからだ。おそらく、重慶から入ってきた食文化である。

と言うことで、四川を辣料理圏の代表には推挙できない。
そもそも、成都辺りが文化的な力を発揮していたのは、「蜀」のころ。その当時、唐辛子食で一世風靡していたとは思えまい。そして現在はといえば、胡麻で大いに名をあげた訳だ。
麻の花椒の間違いではないので念のため。言うまでもないが、ケ小平同志へのゴマすり。

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