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■■■"思いつき的"十二支論攷 2015.7.12■■■

十二支論の考察

「十二支薀蓄本を読んで」[→]に引き続き、十二生肖(獣)について考えてみたい。

この問題は、すでに、何回か取り上げたてことがある。ヒトの世界に棲む動物を当てたにすぎないということで。
   「十二支文字考」 [2014.7.11]  「十二支生肖仮説」 [2014.8.2]

そこらを、まとめておこう。
12の生肖を細かく見れば、主体は「六畜」と呼ばれる家畜群[馬,牛,羊(含山羊),鶏,狗(犬),猪] 。それにペット的な「家動物」 [兎,猫(虎代替),鼠]。虎も室内で飼われていたらしいから、猫は飼い虎の象徴ということ。古代、鼠飼育があったとは思えないが、人の生活域に棲んでいるから「家鼠」として扱ってもよかろう。
猿と蛇は半自由な活動が許容される「家動物」とは言い難いが、「飼育可能動物」[猿,蛇.鰐(龍の原形)]であるのは間違いない。
猿の子供はペットになっていたに違いなく、成猿になって食材にされたりもしていたに違いない。蛇に関しても、専門家にるコブラ調教や薬食用蝮飼育が古くから行われていたと思われる。鰐の庭池飼育は簡単であり、食用動物であったかも。ただ、それが龍であるという証拠はないが、この動物だけが特殊ということはなかろう。
   「竜と龍」 [2015.1.5]

これらを書いていて気になってはいた点を整理してみたい。
家畜や、勝手に家棲動物、飼育可能動物ということなら、12の生肖だけでおさまらない。少なくとも、鹿、象、獅子が入っていておかしくなかろう。どのように取捨選択したのか考えてみたい。
先ず、候補の方だが、どのようなものがあがるかは、道教の【二十八宿】リストがほぼ網羅的と言えるのではなかろうか。水牛やヤクは牛に含まれ、騾馬は馬として。
   「神道視点での道教考(星信仰)」 [2015.6.15]

東方青龍
 角-(仮想)[す星] 亢-(仮想)[網星] -[とも星] 房-[添星]
   心-
[中子星] 尾-[足垂れ星] 箕-[箕星]
●北方玄武
 斗-(仮想)[ひきつ星] 牛-[稲見星] 女-[うるき星] 虚-[とみて星]
   危-
[うみやめ星] 室-[はつい星] 壁-(仮想)[なまめ星]
〇西方白虎
 奎-[斗掻き星] 婁-[たたら星] 胃-[えきえ星] 昴-[すばる星]
   畢-
[あめふり星] 觜-[とろき星] 参-[唐鋤星]
南方朱雀
 井-(仮想)[ちちり星] 鬼-[たまをの星] 柳-(のろじか)[ぬりこ星]
   星-
[ほとおり星] 張-鹿[ちりこ星] 翼-[襷星] 軫-(みみず)[みつかけ星]

ただ、象、熊、駱駝は漏れている。それと、東西南北の聖獣と、28の禽獣/仮想動物はなんの繋がりもなさそうということも特徴的。
聖獣の方は、生物分類のそれぞれの分野の代表発想濃厚だが、28宿と、それからピックアップしたように見える12生肖にはそのようなセンスはなさそうである。
   「東アジアの民俗的分類」 [2013.5.2]

28宿はおそらく12生肖より新しいものだと思われるが、それは12生肖の候補を並べていると見てよいのではないか。どもかく、後漢の頃には四神-十二獣は「十二辰」として思想的な完成形を示している訳で。
  【寅】木也、其禽也;
  【戍】土也、其禽也;
  【丑】未亦土也、丑禽
  【未】禽也。木勝土、・・・
  【亥】水也、其禽也;
  【巳】火也、其禽也;
  【子】亦水也、其禽也;
  【午】亦火也、其禽也。・・・
  【酉】也、
  【卯】也。・・・
  【申】也。・・・
東方木也、其星《倉龍》也。西方金也、其星《白虎》也。
南方火也、其星《朱鳥》也。北方水也、其星《玄武》也。
・・・以四獸驗之、以十二辰之禽效之、五行之蟲以氣性相刻、則尤不相應。
  (王充:「論衡」巻3物勢篇第十四)

かつては、この時代状況を勘案し、紀元前後に生肖が生まれたのではと見られていたのだが、"睡虎地秦簡"@湖北省雲夢県の「日書」(卜占用文章)からその時代は大幅に遡ることに。生肖が部分的に違っていた程度らしい。([巳]蝮 [午]鹿 [未]馬 [酉]鴨 [戌]老羊)

印度辺りからの渡来思想が気になるところだが、仏教は無縁の地平と見てよさそう。
但し、北涼[@甘粛397-439年]の頃の仏教経典、曇無讖 訳:「大方等大集経」第23巻には、ヒトの住む閻浮提の周囲の海の島々に12獣が登場するそうだ。
これは、常識的には、中華12生肖を取り入れたものと見るべきだろう。
と言うのは、仏教の場合、「薬師経」に基づき、十二の大願の薬師如来を12の時・月・方角で守護する12神将が該当する訳で、生肖が登場する必要はない。しかし、すでに生肖が広まっている地域であれば関連付が必要となろう。さらには、習合へと進む可能性もあろう。要するに、教徒の生まれ年の干支動物に相当する神将を守り本尊とした信仰が勃興することになる。
  【子】宮毘羅[くびら]黄色
  【丑】伐折羅[ばさら]白色
  【寅】迷企羅[めきら]黄色
  【卯】安底羅[あんちら]緑色
  【辰】羅[あにら]紅色
  【巳】珊底羅[さんちら]烟色
  【午】因達羅[いんだら]紅色
  【未】波夷羅[はいら]紅色
  【申】摩虎羅[まごら]白色
  【酉】真達羅[しんだら]黄色
  【戌】招杜羅[しょうとら]青色
  【亥】毘羯羅[びから]紅色

なにせ、仏教の場合の方角観は八方なのである。それに、天地と日月を加えた護法12善神が基本形。ここに12方を持ち込むのは無理筋だろう。インドには十二獣も十二支も無いのである。

熊楠先生曰:「支那より印度に侍へしや、印度より支那に侍へしや、どちらとも片付けずに終わられたるは頗る物足りぬ心地ぞする。」

と言うことで、ダラダラと長くなってきそうだから、ここらで一旦終了させて頂こう。

─・─・─ 十二宮との関係 ─・─・─
「子〜亥」自体は「黄道十二宮」とほぼ同じ。その、「黄道十二宮」[星座名:牡羊座,牡牛座,双子座,蟹座,獅子座,乙女座,天秤座,蠍座,射手座,山羊座,水瓶座,魚座 占星術用語:白羊宮,金牛宮,双児宮,巨蟹宮,獅子宮,処女宮,天秤宮,天蝎宮,人馬宮,磨羯宮,宝瓶宮,双魚宮]は、シュメール→バビロニア→アッシリア→ペルシア→ギリシア→インド→中国と伝わったとされる。
中国方式としては十二次[星紀,玄,娵,降婁,大梁,実沈,鶉首,鶉火,鶉尾,寿星,大火,析木}。これは、バビロニアの十二宮に似ているそうだ。
しかし、これらと、生肖「鼠〜猪」的な思想はほぼ無関係と見てよいだろう。基本は星座名なのだから。ただ、春分/夏至の巨大獣(牡牛,獅子)と農耕の冬雨期(山羊-水瓶-魚)には恣意性がありそう。
唯一、生肖的に見えるのはエジプト版だが、どう見ても、王家の信仰対象のスカラベ、ホルス、猫、ライオン等を並べたもので、発想が違っており、中華12生肖とは無縁と見て間違いなかろう。[猫・犬・蛇・甲虫・驢・獅子・山羊・牡牛・鷹・猿・紅鶴・鰐]

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