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2010.9.14
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和食の味覚を知るための洋食作り…

 洋食の基本は塩・バター味だと思う。
 バタートーストさえあればの世界ではなかろうか。

(C) Hitoshi Nomura “NOM's FOODS iLLUSTRATED”

 ご飯の美味しさを引き立たせる“お数”とは“塩”。だが、塩だけでは強すぎるので、出汁の旨味で緩和するというのが和の基本という話をした。実は、わざわざ言うほどのことではなく、誰でも知っていること。塩だけの握り飯や、軽い塩味の出汁をご飯にかけたことがあれば実感としてわかることだからだ。ただ、それを表立って言わないだけである。
 それを、今更ながら確認するというか、官能の鍛錬レシピをご提案した訳である。
  → 「和食の原点を考える」  (2010.9.3)

 この感覚がおわかりになるなら、和食で、お数の素材の質に矢鱈こだわる理由も肌で納得して頂けた筈。出汁は油脂分が無く、香りも薄いから、料理全体が淡白になる。そのため、素材そのものの味がわかるのだ。素材の質の悪さを隠そうとすると、塩をきつくするしかないが、そうなると不味くなってしまうのである。この点では、和食は難しいといえなくもない。
 しかし、素材の質がそう悪くないなら、旨味成分と塩味のバランスを合わせることさえできれば、ご飯は美味しく頂ける。そう言う点では、結構お気楽な料理とも言えるのである。

 こんな考え方にご賛同頂けたら、次の段階に進むことにしよう。
 和風料理と西洋料理では、味がどのように違うか試してみることをお勧めしたい。これだけで、料理の腕は格段にあがること請け合い。言ってみれば、官能の鍛錬、第二弾である。
 おことわりしておくが、前回同様、美味しく感じる料理になるとは限らない。従って、素材はできる限り廉価品とし、少量購入の少量料理に徹しよう。

 早速、レシピ。

■田舎パン■
ここが一番重要。
小麦粉、塩、イースト、水だけで作ったパンを購入して、小麦の風味を感じようという算段。このパンと、ご飯を比較し、和が追求している美味しさを肌感覚で覚えようという企画。
当然ながら、添加物無しのパンだから、普段食べているようなパンの美味しさは全く期待できない。 だが、そのため、市販品はこだわり素材をウリにしがち。それはそれで結構な話であり、美味しいものもあるのだが、問題は、上質素材を用いているので高額になってしまう点。廉価品を使おうと言っておきながら、それができないのである。パンだけ高級品で、はなはだアンバランスだが、こればかりは致し方ない。
尚、こうしたパンは、“パン・ド・カンパーニュ(Pain de campagne)”と呼ばれているが、余計な素材を加えている店もあるらしいので要確認。それと、小麦以外の粉やナッツを混ぜた製品もあったりする。これは美味しいものがあるのだが、今回は願い下げ。小麦風味がわからなくなるからだ。
食べ方だが、手でちぎろうが、ナイフで切ろうが、どうでもよい。ただ、室温のままで食べることをお勧めする。その場合、バター(有塩・非醗酵)をつけてもかまわないが、他(マーガリン、クリーム、ジャム、スプレッド類、蜂蜜、シロップ、等々)のものを塗ったりしないこと。

■赤ワイン■
気軽なテーブルワインで。
先ずは、パンとワイン。チーズやナッツなど、欲しくても止めておこう。折角の官能の鍛錬ができなくなってしまうから。

■蕪のスープ■
・蕪の皮を剥いて、縦に8等分。(葉は使わない。)
・玉葱と薄切り牛肉脂身部分の微塵切りをバターでじっくり炒める。
  (大蒜は使わないこと。スープの素や出汁類も一切入れない。)
・水を入れ、蕪を煮る。どろどろになったら塩・胡椒で味を調整する。
・パセリの微塵切りを浮かせる。

■牛肉のバター炒め■ [メイン]
・廉価な牛の薄切り肉を購入する。
・脂部分を取り去る。(上記のスープに使う分。)
・ハーブソルトを振ってしばらく放置。
  (ハーブソルトが無い場合はタイム、オレガノ辺りと胡椒。塩は岩塩系が望ましい。)
・多めの バターを溶かしたフライパンで炒める。
・暖めた皿にもり、レモン汁をかける。
・パセリの微塵切りをふりかける。

■人参のグラッセ■ [つけ合わせ1]
・人参の皮を剥いて輪切り。
  (ミニキャロットでもよい。)
・ひたひたの水で柔らかくなるまで煮る。
・塩とたっぷりのバターを加え弱火で適当なところまで煮詰める。
  (砂糖は絶対に入れないこと。)
・オレガノを入れ風味をつける。
  (好みのハーブでよい。)

■コーンとセロリのバター炒め■ [つけ合わせ2]
・小さい水煮缶詰からコーンを出し、水をよく切る。
・セロリをコーンと同じ位の大きさに微塵切り。
・フライパンにバターを溶かしコーンとセロリを軽く炒め、塩・胡椒で味付け。

■クレソンのバター炒め■ [つけ合わせ3]
芥子菜の独特な刺激を、バターと塩・胡椒で味わうだけ。茎を炒めて熱が通ったら、葉を加えること。
  → 「Cressonの話」 (2009.5.12)

 おわかりになるかと思うが、塩のきつさをバターで弱めて食べる料理のオンパレード。パンは、ご飯とは違い、料理と交互に食べる必要性が無いことが実感できるのではないか。肉料理を先にすべて食べ尽くしてもよいのである。途中で飽きたら、つけ合わせに移るとか、あるいはパンでもという具合になる訳。
 どれもこれも濃厚なバター味なので、そのままでは単調すぎ、げんなりしてくる。それを抑えるのがハーブの香り。これがあると、塩の強さも余り感じなくなる。日本では、この香りが嫌い人も少なくないが、慣れるしかない。
  → 「素人が教授するハーブ入門[1:紫蘇系]」 (2009.5.20)  ・・・タイム、オレガノ、バジル
  → 「素人が教授するハーブ入門[3:芹葉系]」 2009.6.3)  ・・・セロリ、パセリ

 ここを肌感覚で理解できれば、和のテーストの牛肉炒めとの違いもわかるだろう。
 誤解を恐れず指摘すれば、バターギタギタの調理方法をとれば、肉質の差はよくわからなくなるということ。しかし、ハーブ味が軽やかに感じられて、それはそれで美味しいのだ。
 つまり、和風にしたいなら、油脂を抑えればよいのである。
 上質な薄切り牛肉を購入し、軽く塩・胡椒してから、サラダオイルで軽く炒めるとよい。ただ、最後に風味付けとしてバターを少量加えるのである。ほとんどの方は美味しく感じる筈。従って、“やはり素材だ”との感想に繋がるのである。
 これは、油脂ではなく、肉の旨味で塩味を楽しんでいるだけのこと。旨味で塩辛さを抑えているだけなので、肉質は直接的に美味しさに響いてくるのだ。廉価品牛肉と、上質ものを比べれば、雲泥の差となる。高級肉だと、こんな簡単な調理でもというか、簡単な調理だからこそ、肉の旨味の素晴らしさを堪能できるのである。良い肉だと、ご飯が進みすぎるかも。その場合、ご飯と料理を交互に食べることになる。


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