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■■■■■ 2017.7.20 ■■■■■


"五果"考
🍑桃栗三年 柿八年 (柚子の大馬鹿十八年[→])

五行思想では五果が設定されている。

この選定だが、小生は、違和感を覚える。果物だというのに、ナッツ的な栗が入っているからだ。
中国語で検索してみると、栗を梨としている場合もあり、本来はこちらではなかろうか。(ただ、五果の出典はどの道当てにならないのでは。)
なにせ、五果に五味を当てると、栗が水に当たり塩からいとなるのだ。いかにも、無理矢理。尤も、そんなことを気にかける人はいないようだ。(アンズはプラムという点で苦でもおかしくはないし、非園芸品種の桃にはイガイガ感、梨は砂の様なジャリジャリ食感があるので、なんとか認めるにしても。ただ、別な適用もあるようだ。)
【五行】 木 火 土 金 水
【五臓】 肝 心 脾 肺 腎
【五菜】 韭 薤 葵 葱 
【五果】 李 杏   (【別説】)
【五味】 酸 苦 甘 辛 鹹 [「黄帝内経」"五果為助", 「靈樞經五味」]

【別説】 棗 李 栗 杏 桃
   [「 図説東洋医学 用語編」学習研究社 1988年@リファレンスサービス]

日本で5ツ選ぶとなれば、冒頭の俗話のように、桃、栗、柿が必ず入るから、栗も果実と同じように扱っているのかも知れないが、このような樹木栽培の諺の元ネタと思わる中国版だと、桃、杏、梨、棗、胡桃(核桃)であり、栗はでてこない。・・・
 桃三杏四梨五年,棗樹當年就還銭。(核桃結果十二年。)

ここには、李が登場しないが、桃、杏、李は中華帝国果樹の定番と見て間違いないと思う。・・・
 桃養人、杏傷人、李子樹下抬死人。

柑橘系を除外して果実というのだから、ドングリ的な栗やナッツの胡桃も外すのが順当だろう。・・・
(単純に樹木栽培の観点なら、「史記」のような安邑千樹の棗、燕秦千樹の栗、蜀漢江陵千樹の橘…といった選び方になっておかしくなかろう。五果の選定はその発想とは違うのである。)
┼┼薔薇系
┌┤
│└桃系
   梅,桜,,,,…
   ,花梨,枇杷,林檎/苹果,海棠,山,…
┌┤
││┌…
│││   黒梅擬/鼠李/Buckthorn,
│││   ,玄圃梨/枳 or 拐棗/Japanese raisin-tree,…
│└┤
└…

│┌─瓜系
└┤
└─
┼┼┼   ,櫟,椎,…
┼┼┼   胡桃,山桃/楊梅,…

要するに、上記の植物学的分類から言えば、"桃系"ということ。桃の霊的力を信じていたからでもあろう。
  → 「桃信仰の変遷」[2016.4.19]
ただ、棗だけば、その仲間ではないのにもかかわらず、特別に選ばれたのである。
文字の由来は「棗=朿x2(棘)」だろうが、"棗"という字は、"來"が重なっており、重来なので魄を呼ぶことの象と見なしたりするところから見て、一目おかれていた果実だったのは間違いなさそう。桃と並んで、仙人食と見なされていた様だ。
  → 「解夢のコツ」[2016.9.20]

但し、それは中華帝国での話で、日本では人気薄だったようである。(ナツメ/棗/Jujube or Chinese dateの和語の語源は"夏芽"とされているが、出芽は春であり時期的に合わないから"夏実"と考えるべきだろう。
日本では、杏は加良毛々[唐桃]と呼ばれていた位だから、棗に比して、かなり関心が高かったようだ。後世の寺島良安棗:「和漢三才図絵」@1712年]でも品種的違いが記載されている。)

なにせ、棗は戯歌として登場する位で、霊的な樹木として扱っていたとは、とうてい思えない。・・・
  お題:梨 棗 胡桃 @「古今和歌集」巻十物名#455
  詠み人:(藤原高経の娘)兵衛, "ただふさがもとに侍りける"

  味気なし 嘆きな詰めそ 憂きことに
   合ひ来る身をば 捨てぬものから


  詠み人:長意吉麿@「万葉集」第十六巻雑歌#3830
  玉掃 苅り来鎌麿 室の木と
   棗が本と 掻き掃かむため

   右の一首は、玉掃、鎌、天木香、棗を詠める歌。

中華帝国の体質から見て、果実の代表として5ッ選ぶとしたら、それは帝所有の庭に植わっていて食に登場していたということだろうし、それが一般に受け入れられるようになったのは、仏教寺院が広大な果樹園を持っていたからだろう。言うまでもないが、それは甘粛〜西域から移植した品種ということになろう。乾燥し、日中の寒暖差が激しい地域で栽培した産品と比べれば、糖度という観点では質が落ちるものの工夫すれば美味しく育てることも可能だったに違いないから、栽培はすぐに広がったであろう。(現代の果樹農業でも、敦煌産は美味しいと評判。…李広杏、鳴山大棗、陽関葡萄、香水梨、紫烟桃、敦煌瓜。ただ、河北〜山東には"金絲小棗"があり、和田や哈密辺りの"大棗"とは質が違うがそれなりに愛されているようだ。)
そのような候補としては、例えば、こんな具合ではなかったか。いい加減な推定にすぎぬが。・・・
  吐魯番(姑師)/トルファン葡萄
  和田(于)/ホータン新疆梨
  若羌/チャルクリク
  疏勒(喀什/カシュガル)石榴
  哈密/ハミ
  甘粛天水林檎
  西
  甘粛
  大宛/フェルガナ
  突厥之地/トルキスタンネクタリン/油桃 or 椿桃

ただ、ユーラシアではなく、中華帝国の代表として選ぶとなると、西の欧州〜アラブ/アフリカの角〜ペルシア方面発祥の果物(葡萄, 石榴, 無花果, マルメロ, メドラー, 胡桃, アーモンド, 等)は選定から除外されたに違いない。そういう観点で西にはない、桃、杏、梅、棗、山査子、柿(江南)、枇杷(江南)から選ぶのは妥当であろう。さらに、西と東では、質的にかなり違うと思われる、梨、李、林檎、桜桃もこれに加えてもよいかも。

と言うことで、本来の中華帝国の五果とは、桃、杏、李、梨に棗と判定。

栗樹精霊信仰が残っていたので、梨を代替して無理に入れただけだと思う。
  → 「王清本」[2016.10.3]

(参考) 西晋 潘岳安仁:「閑居賦」@296年には、洛陽南郭の庭で育てている、由緒ある作物として、張公が大谷の梨、梁侯が烏檸 の柿、周の文王が弱枝の棗、房陵の朱仲の李があがっている。もちろん、3種類の桃(種類毎)、2種類(赤と白)の(杏)、"珍"なる石榴(柘榴)や蒲陶(葡萄)も植わっていたのである。ここで繁殖していない果樹なしという風情で。・・・
爰定我居,築室穿池。…竹木蓊藹,靈果參差。
張公大谷之【梨】,梁侯烏之【柿】,周文弱枝之【棗】,房陵朱仲之【李】,靡不畢殖。
三【桃】表櫻胡之別,二【】曜丹白之色。【石榴】【蒲陶】之珍,磊落蔓衍乎其側。梅杏郁棣之屬,繁榮麗藻之飾。華實照爛,言所不能極也。


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