■■■ 今昔物語集の由来 [2020.6.22] ■■■
[358] 観音霊場参詣譚の巻[巻十六]
16巻十六はすでに「観音ノ寺参詣」としてとりあげた。[→]現代でも続く観音霊場巡礼のハシリが記載されている巻だが、読み方によっては、安置されている菩薩像参拝ではなく、その場所に参詣することに第一義的意義があるととれないこともない。仏像礼拝というより、読経功徳で果を得た話もある訳だし。
そんなこともあって、霊山信仰が都会文化に取り込まれた現象を記載しているようにも思えてくる。
観音信仰の肝は、菩薩が祈願に応えてくれる点にあり、菩薩の化身が出現して救済してくれるというのが霊験譚の基本パターンと考えるが、長谷寺や清水寺参詣譚では、それにママ則っているとも言い難い。
そもそも、霊験譚というジャンルに入れてよいのか疑問な悪報話も収録されている訳だし。
それに、一読、観音と無関係な、読経功徳の果を描いているように映るモノもある。これは、「法華経」普門品(観音経)を意味しているのだろう。
このことは、法華経一途の姿勢と、観音菩薩信仰が一体化していることを示しているのだろう。
こんな具合。・・・
巻十六
＃1〜10 化身援助
＃1〜_6 九死に一生
＃7〜10 貧女救済
＃11〜13 観音像霊威
＃14〜15 至富
＃16〜21 男女関係 婚姻成就
＃22〜23 病気治癒
＃24〜26 生命危機回避…読経であり仏像拝礼ではない。
＃27〜34 貧困救済
＃35〜36 神祇
＃37 現報
＃38 悪報
＃39〜40 後半欠文, 欠文
全体を眺めると、ここでも４書を原典とする姿勢が見えてくる。
ガイドブック的な「三宝絵詞」には特段観音を云々しようとしているとは思えないが、それがかえって観音霊場信仰の特徴を示す必要性を際立てているとも言える。
都の貴人階層からすれば、限定した霊場への参詣習慣が出来上がっていたことになろう。「今昔物語集」では、それは清水、長谷、石山ということになる。
絵詞「三宝絵詞」
中_1△聖徳太子…救世観世音菩薩
下20△長谷(寺)菩薩戒⇒巻十一#31…十一面観音
下22△東大寺千花會⇒巻十一#13…如意輪観音＠石山
観音菩薩と言えば、阿弥陀如来の脇侍としての来迎役を想起してしまうが、この巻にはそれを示唆する話は全くない。実に徹底している。ここでの観音信仰は極楽往生とは無関係なのだ。
往生「日本往生極楽記」
[_1]△聖徳太子
[17]＿弘也/空也沙門
[18]△傳燈阿闍梨(大法師)/千観
上述したように、観音信仰は法華経一途の姿勢を示すといことでもある。法華経の霊験で、観音が登場する譚はほとんど引用されている点が、それを如実に示していると言ってよいだろう。どうしてか、1譚のみ採用していない。
験記「大日本国法華経験記」
…ほとんどご利益祈願
上_26△黒色の沙門安勝⇒巻十三20…無目的祈念
上_28△源尊法師⇒巻十三#35
上_31△醍醐の僧・恵増法師⇒巻十四#12…無目的祈念
中_70○蓮秀法師
中_75＿斉遠法師
下_85○仏師感世法師
下107○大隅掾紀某
下110△肥後国の官人某⇒巻十二#28
下113○奥州の鷹取の男
下114○赤穂郡の盗人多々寸丸
下115○周防国の判官代某
下116○筑前国の優婆塞
下123○山城国久世郡の女人
下124△越中国立山の女人⇒巻十四#7
…●熊野、●長谷、書写山、●石山、六波羅蜜寺、●清水、●三井観音、大和高尾寺、立山、白山、金峯山
そして、霊異あるとされた地への観音霊場巡礼が人々の心を捉えたことを、伝えている訳だ。
霊異記「日本国現報善悪霊異記」
上_6○憑念観音菩薩得現報
上17○遭兵災信敬観音菩薩像得現報
上18＿憶持法花経現報示奇異表
上31○慇懃帰信観音願福分現得福
中_3＿逆子愛妻謀母現悪死
中_7＿智者誹変化聖人現至閻闕受苦
中11○罵僧婬得悪死
中12＿贖蟹蝦命報蟹助
中13＿愛恋吉祥天女像感応
中17○観音像化鷺示奇
中30＿行基大徳攜子女人視過去怨令投淵
中34○女敬観音像示奇表
中36○観音木像示神力
中37○観音木像不燒火
中42○窮女敬千手観音像願福分
下_3○沙門憑願十一面観音像得現報
下_7＿被観音木像之助脱王難
下12○盲男敬稱千手観音得明眼
下13△将写法華経建願人断日暗穴頼願力得全命
⇒巻十四#9(法華経書写祈願)
下18＿奉写法華経経師為邪婬以現得悪死
下20＿奉写法華経女人誹過失以現口唱斜報
…●興福寺、●三井寺、●殖槻寺、●穂積寺、●下毛野寺、●珍努ノ山寺、●岡本寺、●唐招(提)寺、●狭屋寺、泊瀬、向積寺、金峯山
この４種の原本を読み込んで、そらに、寺社縁起を加えたのが巻十六と見てよいだろう。
巻十六 本朝 付仏法(観世音菩薩霊験譚)
[_1] 高麗/唐⇒【奈良】《興福寺》
僧行善依観音音助従震旦帰来語📖観音ノ寺参詣
⇒霊異記上6憑念観音菩薩得現報
[_2] ＠百濟/唐⇒【伊予】《越智氏寺》
伊予国越智直依観音助従震旦返来語📖観音ノ寺参詣
⇒霊異記上17遭兵災信敬観音菩薩像得現報
[_3] 【周防】《三井寺》
周防国判官代依観音助存命語📖観音ノ寺参詣
⇒験記下115周防国の判官代某
[_4] 【丹後】《成合寺》
丹後国成合観音霊験語📖観音ノ寺参詣
出典不詳
[_5] 【丹後】《穴穂寺/穴太寺》
丹波国郡司造観音像語📖観音ノ寺参詣📖紅梅情緒
⇒験記下85仏師感世法師
[_6] 【陸奥】
陸奥国鷹取男依観音助存命語📖観音ノ寺参詣 📖子攫い鷲
⇒験記下113奥州の鷹取の男
[_7] 【越前 敦賀】
越前国敦賀女蒙観音利益語📖観音ノ寺参詣
出典不詳
[_8] 【大和】《殖槻寺》
殖槻寺観音助貧女給語📖観音ノ寺参詣
[後半]⇒霊異記中34女敬観音像示奇表
[_9] 《清水寺》
女人仕清水観音蒙利益語📖観音ノ寺参詣
出典不詳
[10] 【奈良 左京】 《穂積寺》
女人穂積寺観音利益語📖観音ノ寺参詣
⇒霊異記中42窮女敬千手観音像願福分
[11] 【奈良】《下毛野寺》
観音落御頭自然継語📖観音ノ寺参詣
⇒霊異記中36観音木像示神力
[12] 【和泉】《珍努ノ山寺》
観音為遁火難去堂給語📖観音ノ寺参詣
⇒霊異記中37観音木像不燒火
[13] 【大和 平群鵤】《岡本寺》
観音為人被盗後自現給語📖観音ノ寺参詣
⇒霊異記中17観音像化鷺示奇
[14] 【吉野の山】
御手代東人念観音願得富語📖観音ノ寺参詣
⇒霊異記上31慇懃帰信観音願福分現得福
[15] 【京】《百ノ寺》
仕観音人行龍宮得富語📖観音ノ寺参詣
出典不詳
[16] 【山城】《蟹満多寺》
山城国女人依観音助遁蛇難語📖観音ノ寺参詣
⇒験記下123山城国久世郡の女人
[17] 【備中の国賀陽】《吉備津彦神宮寺》
備中国賀陽良藤為狐夫得観音助語📖観音ノ寺参詣
出典不詳
[18] 【近江】《石山寺》
石山観音為利人付和歌末語📖観音ノ寺参詣
出典不詳
[19] 《長谷寺》
新羅后蒙国王咎得長谷観音助語📖観音ノ寺参詣
出典不詳
[20] 《長谷寺》
従鎮西上人依観音助遁賊難持命語📖観音ノ寺参詣
出典不詳
[21]
下鎮西女依観音助遁賊難持命語📖観音ノ寺参詣
出典不詳
[22] 【近江】《石山寺》
唖女依石山観音助得言語📖観音ノ寺参詣
出典不詳
[23] 《薬師寺》
盲人依観音助開眼語📖観音ノ寺参詣
⇒霊異記下12盲男敬稱千手観音得明眼
[24] 【下野】《小さな私寺＠京》
錯入海人依観音助存命語📖観音ノ寺参詣
出典不詳
[25] 【大隅】
島被放人依観音助存命語📖観音ノ寺参詣
⇒験記下107大隅掾紀某
[26] 【播磨赤穂】
盗人負箭依観音助不当存命語📖観音ノ寺参詣
⇒験記下114赤穂郡の盗人多々寸丸
[27] 《長谷寺》
依観音助借寺銭自然償語📖観音ノ寺参詣
⇒霊異記下3沙門憑願十一面観音像得現報
[28] 《長谷寺》
参長谷男依観音助得富語📖観音ノ寺参詣
出典不詳
[29] 《長谷寺》
仕長谷観音貧男得金死人語📖観音ノ寺参詣
出典不詳
[30] 《清水寺》
貧女仕清水観音給御帳語📖観音ノ寺参詣
出典不詳
[31] 《清水寺》
貧女仕清水観音給金語📖観音ノ寺参詣
出典不詳
[32] 【京】《六角堂》
隠形男依六角堂観音助顕身語👹📖観音ノ寺参詣
出典不詳
[33] 《清水寺》
貧女仕清水観音値盗人夫語📖観音ノ寺参詣
出典不詳
[34] 《清水寺》
無縁僧仕清水観音成乞食聟得便語📖観音ノ寺参詣
出典不詳
[35] 【筑前】
筑前国人仕観音生浄土語📖観音ノ寺参詣
⇒験記下116筑前国の優婆塞
[36] 【京】《醍醐寺》
醍醐僧蓮秀仕観音得活語📖観音ノ寺参詣
⇒験記中70蓮秀法師
[37] 《清水寺》
清水二千度詣男打入双六語📖観音ノ寺参詣
出典不詳
[38] 【紀伊】伊都桑原 《狭屋寺》
紀伊国人邪見不信蒙現罸語📖観音ノ寺参詣
⇒霊異記中11罵僧婬得悪死
[39] 【奈良】《唐招(提)寺》
招提寺千手観音値盗人辞不取語📖観音ノ寺参詣語 （後半欠文）
出典不詳
[40] 山崎橋/山崎太郎(淀川に架かる古橋)《宝積寺》
十一面観音変老翁立山崎橋柱語📖観音ノ寺参詣📖架橋📖架橋 （欠文）
出典不詳
[KEY:験記…「大日本国法華経験記」 霊異記…「日本国現報善悪霊異記」]
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