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■■■ 「古事記」解釈 [2021.1.16] ■■■
[15] "神生み"構成の解釈は丁寧に
"古事記の「神生み」は熟考すべし"@太安万侶史観を探る[2014.2]と書いてから、7年もたってしまった。どう見ていたか確認ということで再掲しておこう。

マ、読むといっても、神名ズラズラであり、この箇所に興味を覚えるのは限られた人しかいまい。小生にしたところで、サッと目を通して早く通りすぎたくなる。何がなにやらの名称が延々と続き、退屈であり、その目的もよくわからないからだ。
〇〇神は、臣・部・連・直・国造、等々の氏族の祖であるという記載同様に映るからでもある。しかし、考えてみれば、当時はそういうことではなかった筈。
名前が並んでいるだけで、"アハァー!そうなのか。"という感じに通じる話だった可能性が高かろう。ボゥ〜としてはいるものの、大きな流れが見えてくるのである。と言うか。そんな知的レベルの人々しか対象読者として想定していないというに過ぎないが。
"神生み"で記載されている名称もそういうことだろう。
ということで、再掲。"神生み"は【第4期】。・・・

【第1期】 📖  ・・・日本列島に未だヒトの影無し。
  しかしながら、胎動あり。
  「天地初発之時」「別~五柱」「成りまする。」
【第2期】 📖  ・・・ついに、日本列島にヒトの営み始まる。
  海人そこかしこ渡来。
  海人先端文化勢力も本格的進出決定。
  「天ッ~」、「~代七代」目に「国生み」を命ず。
  先ずは、瀬戸内海の小さな孤島を拠点化。
  「天ノ沼矛」で「淤能碁呂島」。
  「八尋殿」と「天之御柱を見立て」。
【第3期】 📖  ・・・日本列島に海人文化圏ができあがる。
  当初、進出で、様々な文化的齟齬も生じた。
  「水蛭子」「葦船で流しすてつ。」
  瀬戸内から日本側へと影響力を広げた。
  先進勢力主導で交流が進み、領域が定まった。
  「大八島國と謂う。」
【第4期】 📖  ・・・社会が徐々に発展した。
登場の順番はおそらく、社会の発展の筋道を示しているのだと思う。
○先ずは住居建造で大きな進歩があった。
大事忍男ノ~(大いなる事業)、石土毘古ノ~(住居の土台)、石巣比賣ノ~(土台の石砂)、大戸日別ノ~(出入口の扉)、天之吹男ノ~(屋根葺)、大屋毘古ノ~(大屋根)、
○同時に、
海の経済も大いに発展した。
風木津別之忍男ノ~(風と木)、大綿津見ノ~(大海)、速秋津日子ノ~/速秋津比賣ノ~(河口、あるいは、瀬や湊)
○河や海に関係する
水文化としての社会的規範も次第にできあがる。
沫那藝ノ~/沫那美ノ~(泡の波/凪)、頬那藝ノ~/頬那美ノ~(水面の波/凪)、天之水分ノ~/國之水分ノ~(水の配分)、天之久比奢母ノ~/國之久比奢母ノ~(柄杓で小口配分)
山野生活圏が組み込まれる。
志那都比古ノ~(風)、久久能智ノ~(木)、大山津見ノ~(山)、鹿屋野比賣ノ~/野椎ノ~(野:屋根葺用萱)
山野生活文化も高度化。
天之狭土ノ~/國之狭土ノ~、天之狭霧ノ~/國之狭霧ノ~、天之闇戸ノ~/國之闇戸ノ~、大戸惑子ノ~/大戸惑女ノ~
水上交通技術も進展。
鳥之石楠船ノ~/天ノ鳥船(後に高天原に伝授)
食文化が大きく変わる。
大宜都比賣ノ~(食:粟国名と同じ。後に高天原でも活動。)
火力を用いた生産技術が広がる。
火之夜藝速男ノ~/火之R毘古ノ~/火之迦具土ノ~
ここで転換期に入ったことがわかるが、その引き金はイノベーションだった。


この流れ、決して悪くはない見方と思っているが、太安万侶にしてみれば不快かも。
中華帝国向け皇統譜編纂書「王年代紀」983年以前の構成と「古事記」を比較していて、ふとそう思ったのである。 📖
その中身は道教的に映るが、全体構成は極めて合理的で、儒教的発想だからだ。「古事記」の方針とはほぼ水と油に近い。
  (天)⇒(地)⇒(國神)⇒(祖神)⇒(天孫系譜)

上記の【第4期】の解釈も、これと似たところがある。合理的な流れを追求しているからだ。
「古事記」を読んで自分が感じた結果をまとめたと思いがちだが、"こうなる筈。"という決めつけでもある。自分の頭の引き出しから出してきた知識で整理しただけ。この手の既存概念依存の分析思考で「古事記」を読んでもたいした意味は無いと思っていても、ついついそうなる。

・・・こんな説明では、"何のことやら。"と思うが、ご勘弁のほど。

以下のように考えてはいけない、と書けばなんとなく気分がお分かりいただけるかも。
  ここは、八百万の神を紹介するパート。
  ただ、代表として登場する神々は名称しか記載されていない。
  従って、神名からその特徴を想像する以外に手はない。

"神生み"は"国生み"完了後の話。単なる自然神誕生とは違うのである。まがりなりにも、小規模とはいえ社会的組織が、確立している状態なのだから。
そのどこかの国で、なんらかの"神"が生まれ、国内にとどまらず他国へとその神が行幸することになる。そのようなシーンを想定すべきだろう。

例えば、"住居建造神誕生"であれば、どこかの国で、土着神信仰の場に、依り代と拝殿を造る一大祭事を始めたことを意味している可能性が高い。他国の人々はそれを耳にして驚嘆したとすれば、その時点で住居建造神が誕生したと見てもよかろう。その信仰スタイルは圧倒的尊崇を集めるようになり、その儀式次第が広がっていくことになる。各地域で似たような信仰施設が一気に建立されていくのである。神の祀り方の定式化が進んで行くことを意味しており、この交流を通じて、言語や文化の壁が急速に低くなっていく訳だ。こうした流れは、お社という特別な地に限っている訳ではない。柴を集めに出かける時に、先ずは祈りから始める世界だったろうから、その行儀を大きく変えてしまう動きが生まれたとしたら、そこには必ず新しい称号の神が存在していることになろう。
・・・太安万侶はそんな流れを想定してみたに違いない。

そのような神々の本貫地推測は難しいものの、多少の痕跡が残っているかも。なかには、後世の後付けもあろうから、全くの想像となんらかわらないかも知れないが。 それに、ネット検索でたまたま当たった神社を抜き書きする以上のことはできそうにないので、いい加減な情報を眺めているのは間違いない。しかし、"言語学の"非専門家による、呼び名の勝手な当て嵌めよりはましである。(植物名で懲りたから確信する。…一部の"学者"のたまたまの思いつきと、恣意的な当て嵌めだらけなので驚かされたからだ。)
現実に、以下を俯瞰的に眺めていると、その構成から様々な感慨を覚えることになる。・・・
【住居建造系】
_1大事忍男~
  熊野本宮大社@田辺(主祭神:家都美御子大神/素戔嗚尊)[合祀]事解之男神(熊野結大神)…本居宣長:「古事記伝」では編纂者の誤りと指摘
  熊野速玉大社@新宮(主祭神:熊野速玉大神、熊野夫須美大神)
  熊野那智大社@那智勝浦(主祭神:熊野夫須美大神)
  石神社@鈴鹿(合祀⇒椿大神社@入道ケ嶽(主祭神:猿田彦神))
_2石土毘古~[訓石云伊波亦毘古二字以音下效此也]
  石鎚神社 口之宮本社@伊予 西条西田甲
  石土神社@土佐南国
  岩山神社@備中小田
_3石巢比賣~
  ⛩出水神社@加賀橋立(御祭神:天津日高彦火々出見命)…[氏神]石巣宿彌尊
_4大戸日別~
  田波八幡宮@出雲出雲
_5天之吹上男~
  n.a.
_6大屋毘古~
  伊太祁曽神社@紀伊和歌山伊太祁曽
  那須加美乃金子神社@対馬
【海の経済系】
_7風木津別之忍男~[訓風云加邪訓木以音]
  加世智神社@伊勢飯高
_8海~…大綿津見~
  志加海神社@筑前糟屋
_9水戸~…速秋津日子~
  水神社@壹岐嶋壹岐
  湊口神社@南淡路湊里
  宇太水分神社@大和宇陀菟田野古市場
10[妹]速秋津比賣~
  賣布神社@出雲意宇
【水文化系】…此速秋津日子速秋津比賣二~因河海持別而生~名
_1沫那藝~[那藝二字以音下效此]
_2沫那美~[那美二字以音下效此]
_3頬那藝~
_4頬那美~
_5天之水分~[訓分云久麻理下效此]
  宇太水分神社…大和四所水分東
  葛城水分神社…〃西
  吉野水分神社…〃南
  都祁水分神社…〃北
_6國之水分~
  籠神社@宮津
  建水分神社@千早赤阪
_7天之久比奢母智~[自久以下五字以音下效此]
_8國之久比奢母智~
  奢母智神社@松江美保関諸喰
【山野生活圏系】
_1<風~>志那都比古~[此~名以音]
  龍田大社@生駒三郷立野南
  伊勢神宮風宮(伊勢別宮)
_2<木~>久久能智~[此~名以音]
_3<山~>大山津見~
  大山祇神社@伊予今治大三島
_4<野~>鹿屋野比賣~/野椎~
  千種神社@紀伊海南重根 (草野姫~)
【山野生活文化系】…大山津見~・野椎~二~因山野持別而生~
_1天之狹土~[訓土云豆知下效此]
_2國之狹土~
  駒形神社@水沢
_3天之狹霧~
_4國之狹霧~
_5天之闇戸~
_6國之闇戸~
_7大戸惑子~[訓惑云麻刀比下效此]
_8大戸惑女~
【水上交通技術系】
_1鳥之石楠船神(天鳥船神)
  神崎神社@香取
【食文化系】
_2大宜都比賣神[此~名以音]
  一宮神社@阿波徳島一宮西丁
【火力系】
_3火之夜藝速男~[夜藝二字以音]/火之R毘古~/火之迦具土~[迦具二字以音]
  産田神社@熊野
  花の窟@熊野
  秋葉山本宮秋葉神社
_4<吐瀉物>金山毘古~[訓金云迦那下效此]
_5  金山毘賣~
  中山神社@津山
  南宮大社@美濃垂井
  黄金山神社@石巻金華山
_6<屎>波邇夜須毘古~[此~名以音]
_&  波邇夜須毘賣~[此~名亦以音]
  波爾移麻比禰神社@阿波美馬脇北庄原(埴山姫神)
  畝尾坐健土安神社@橿原(健土安比売命)
  波爾布神社@近江高島(埴山姫神)
  賀茂波爾神社@左京高野上竹屋(波爾安日子神 波爾安日女神)
  榛名神社@高崎(埴山姫神)
_7<尿>彌都波能賣~
  丹生川上神社@吉野
_&  和久産巣日~
  愛宕神社
  竹駒神社@宮城岩沼
  安積国造神社@郡山
  麻賀多神社@成田
_8[子]豐宇氣毘賣~[自宇以下四字以音]
  伊勢皇太神宮外宮/豊受大神宮
・・・順番の数字に&を使っているのは、"神生み"では、このグループだけが記載神数(10)と小計(8)の数字が合っていないから。
対偶神のうち<吐瀉物>以外の最後登場の2対偶神だけは、例外的に1つとみなせということだろうか。いかにも首尾一貫せずだが、さらにそれに輪をかけるが如くに矛盾を打ち出して来る。記載されてきた小計を合計すると、10+8+4+8+8(10)=38(40)となるが、ここで"伊邪那岐伊邪那美二~共所生"は35神とされており、3神の差異が生じてしまうからだ。そうなると、対偶神の例外扱いにした神と、その子神も含めた3(5)神を外して数えろということだろうか。"生~"と"於〇成~"と記述した神の取り扱いは違うとの注意書きと見るしかない。
峻別するようにとの指示はわかるものの、だから何なのだ、とフラストレーションがたまる。

"生~"と"於〇成~"の違いは、土着的発生と渡来受容の違いを示していそうなイメージは与えるものの、そう見てよいのかはなんとも言い難しだ。もともと独神が"成る"ところから始まっているのだから。
しかし、その一方で、峻別したくなる気分よくわかる感もある。確かに連続的ではなく、ここらで時代区分というか、宗教戦争的な大騒乱勃発となっておかしくないからだ。

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