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■■■ 「古事記」解釈 [2021.1.27] ■■■
[26] 道教国的"天"との指摘は正しいか
「古事記」序文の"日本は道教信仰の国"との太安万侶の提起と、それとはかなり祖語を感じさせる本文について眺めてきたが、小生からすれば、どちらの見方も正しくもあり、正しくもなしというところ。
  📖序文要約部冒頭は解題的   📖太安万侶の立ち位置を考えるべし
鵺的だが、"天"の扱いからすれば、そうとしか言いようがないからだ。

本文での神名・天皇名を見ると、限定的にしか"天"が含まれていない。
道教的と見なすだけのことはあり、初元の宇宙神と、天界=高天原の神に"天"の称号が付くが、それ以外は天照大御神だけ。
もちろん。降臨から、日向3代には、高天原の天孫ということで、尊称としてついてはいるが、天皇名には原則用いない。例外は、皇統断絶の危機を乗り越えた継体天皇の御子だけ。即位後、その系譜が天武天皇まで続くので、"天"が付くようになったのかもしれない。
--- 古事記収載 ---
[別天津神五柱/造化三神初]御中主神
 :
[別天津神五柱5]之常立神
 :
[神世七代7]伊邪那岐命+伊邪那美命
[皇祖神@高天原]照大御神
[誓約五皇子長男]正勝吾勝勝速日之忍穂耳命
[日向1]津日高日子番能邇邇芸命
[日向2]津日高日子穂穂手見命/火遠理命/山幸彦
[日向3]津日高日子波限建鵜葺草葺不合命
    《註》天津=高天原所属 日高=男性 日子=太陽の子
[初]神倭伊波礼毘古命[神武(始馭天下之)]天皇📖畝火 白檮原宮
 :
[29]国押波流岐広庭[欽明]天皇📖師木島大宮
  (26継体天皇[+手白香皇女]皇子)
  (30〜33=子 34=孫 35/37,36=曾孫)
  (38,40=34+35/37子)
 :
[33]豊御食炊屋比売[推古]天皇📖小治田宮
   (593年即位 628年崩御)
   豐御食炊屋比賣命。坐小治田宮。
   治天下參拾漆歲。御陵在大野岡上。後遷科長大陵也。 [完]

ただ、「古事記」は33代で完了。但し、34代にも触れてはいるが。📖稗田阿礼登場の意義

しかるに、34代からの、「日本書紀」に於ける天皇名を見ると、"天"を含めることにしているように映る。2文字名にしても、天智・天武となっており、"天"信仰の真っただ中とみてよいだろう。なかでも、天武天皇の名前は、道教用語の真人なのだから、道教が国教とされているかのようである。
太安万侶が序文で指摘している道教一色との見方は当たっている。
道教教団の派遣者や、道士の渡来を示す話は一切ないものの、皇極/齊明天皇から"天"孫による統治の貫徹ということで、道教的な信仰が一気に高まったのであろうか。多武峰に観と両槻宮を建造したとされているから、その信仰は本格的なものであったことは間違いなさそう。
--- 古事記成立前後 ---
[34]息長足日広額[舒明]天皇/田村皇子
[35/37]豊財重日足姫[皇極/齊明]天皇/宝皇女(天智・天武両天皇の母)
[36]万豊日[孝コ]天皇/軽皇子
   (645年初年号"大化元年")
[38]命開別[智]天皇/中大兄皇子
  …"大化の改新"(with 中臣鎌足)
[39]大友皇子[弘文]天皇 (母:伊賀采女宅子娘)
[40]渟中原瀛真人[武]天皇/大海人皇子
   (661年即位 "国号「日本」に" 671年崩御)
  …663年白村江敗戦 668年高句麗滅亡
[41]大倭根子之廣野日女[持統]天皇/高原廣野姫
   曁飛鳥C原大宮[40-41代] 御大八洲天皇御世・・・
   道軼軒后[黄帝] コ跨周王 握乾符[天命]而ハ六合[天地四方]・・・
   史不絶書・・・
   可謂名高文命[夏創祖] コ冠天乙[殷/商創祖]矣・・・

[42]倭根子(之真宗)豊祖父[文武]天皇
[43]日本根子津御代豊国成姫[元明]天皇
   (707年即位 平城京遷都 "風土記"編纂詔勅)
   和銅四年[711年]・・・詔臣安萬侶撰錄・・・
[44]日本根子高瑞浄足姫[元正]天皇
   (715年即位 独身 724年譲位 748年崩御)
  …720年初正史「日本書紀」成立(神代〜持統天皇)
[45]璽国押開豊桜彦[聖武]天皇/勝宝感神皇帝

"天"の一文字の有無だけで単運に判断するのは乱暴そのものだが、叙事詩としての「古事記」からすれば、"天"という文字に道教的観念が被さっているか否かは、結構重要な視点ではないかと思う。

ただ、残念ながら簡単にはわからない。
思ったほどには、使われていないからである。
しかも、表記上は、"天"を使わずに"阿米"を用いていることもある。・・・
 ○速総別王の妻 女鳥王の歌。
 雲雀は 阿米[天]に翔る 高行くや 速總別 鷦鷯獲らさね
   [「古事記 下巻]…空高く飛翔する鳥の情景
 ○阿治志貴高日子根~が飛び去った時
   同母妹の高比賣命[天若日子妻]が御名を顯そうと歌を詠んだ。

 阿米[天]在るや 弟織機の 項[うな]がける 玉の御統[みすまる] 御統に
  あな玉はや 御谷 二渡らす 阿治志貴多迦比古泥の神ぞや
  この歌は鄙ぶり也

   [「古事記」上巻 天若日子葬儀]…天の川的情景

それに、大陸での"天"の観念自体が様々存在するので、太安万侶がどのように見ていたかは、残念ながらつかみようがない。

<𠕹(㕦)⇒天>=一[頭]+大[大きな人の形]
 あめ/あま-[訓]=【神祇】高天原たかまがはら
    《註》 厡(厂[石]+泉)⇒原=石の隙間から水が湧く場所
 _テングリ[騰格里]=【シャーマニズム@北方遊牧民族[チュルク〜モンゴル]】
   地上創造の天上男神@青空
 テン=【俗】天空テンクウ sky
 テン=【夏王朝】至上神[上帝]居地…天意の元
 テン=【儒教】崑崙山最高層の庭…宇宙の理法の元
 テン=【中国仏教】輪廻六道の1つの界(28天)
 _deva[提婆]=【サンスクリット語♂】輝きを発する者⇒神
 _ṛta[天則]=【ベーダ教】自然界の秩序を決める原理
 テン=【道教】神仙境(六界三十六天)
マ、日本体質を揶揄する、「Q:"Yes or No.?"-A:"Or."」的に、混淆と考えることもできないではないが、中華帝国にしてもゴチャゴチャで、道教にしても、仏教の天構造を真似、儒教の天帝を囲い込んだような概念と言わざるをえず、混淆してナニガナニヤラである。
しかしながら、わかることもある。文字的には、確かに、"天"は男大神の形象のようで、ヒトの遥か上方を指す形而上の概念ではなさそう。そうなると、その由来は北方遊牧民族臭い。・・・星座文字を標章とした天skyの神々を取りまとめる大神を尊崇していたのだろう。
遊牧民系は、海とは縁遠いし、地母神が入る余地もなさそうな上、血肉供犠の祭祀は不可欠なので、本朝の神々の地である"あま"概念とは相当に異なっている。南方の土着道教にしても、溝は深かった筈だが。覇権者の宗旨を取り入れる体質から、すぐに習合した可能性も高い。信仰護持のためならなんなりと厭わずに推進という、儒教的合理主義を道教も取り入れていると言ってもよかろう。
日本列島の習合はそれとは違い、もともと雑種的環境を是として、貴種や超人・知識人の来訪に前向きで、土着信仰ベースでの異なる信仰併存型の混淆を好む体質からでていそう。

従って、神々の地は"テン"ではなく、あくまでも"あま"の原ということになろう。

農耕民としてのアイデンティティから、その原義は雨だった可能性もあろう。
<雨>
 あめ/あま-/-さめ[訓]
 ウ[呉/漢] rain
  <有名例>  同じ字を雨雨雨と雨るなり [「誹風柳多留」]
   俄雨にわかあめ
   春雨はるさめ
   五月雨さみだれ
   時雨しぐれ
  <熟字訓/当て字読み>
   梅雨つゆ (バイウ)
   暴風雨あら

それより気になるのが、海人としての"あま"という言葉の由来の方だ。・・・
<海>=氵[水]+每[屮+母]
 うみ/-うな[訓]…海原うなはら/うのはら/うなばら
 わた/わだ[n.a.]…海原わたのはら
   [参考]
      海神=わたッ霊[ミ]
      山神=やまッ霊[ミ]
      野神=野椎のッ霊[チ] 野原のはら
      木神=久久能智くくの霊[チ] (樹神=コ霊/魂[タマ/ダマ])

   [参考]サンスクリット語水udakam(水で浄化する。)
   [参考]サンスクリット語綿badara/vadara
 カイ[呉/漢]
 アマ[阿摩:パーリ語母ammā/サンスクリット語女性ambammā]
  …塰[国字]/海人/海士/海女/蜑あま⇒"海部"
 <海棲生物名> 海月/水母クラゲ 海老エビ 海馬タツノオトシゴ 海星ヒトデ 海蛆フナムシ 海鰻アナゴ 海扇ホタテ貝 海螺ツブ貝 海鏡ツキヒ貝 海鞘ホヤ 海苔ノリ 海蘊モズク 海髪オゴ 海松ミル 海布メ 海蘿フノリ 海人草マクリ 海鼠ナマコ 海鼠腸コノワタ 海鼠子コノコ 海胆ウニ 海参イリコ 海鷂魚エイ 海豹アザラシ 海牛ジュゴン 海豚イルカ 海獺ラッコ 海驢アシカ 海象セイウチ

<空>=穴+工
 そら[訓]=人頭上の方角…虚空
 から≒殻
 あく≒開く/明く
 むなし≒虚し
 クウ[呉] vacant
 コウ[漢]
火遠理命/天津日高日子穗穗手見命/山幸彦を、鹽椎~は虛空津日高、海神は天津日高之御子の虛空津日高と呼ぶが、別称として紹介されておらず、意味深。
あまつひこ=そらつひこと言うことは、天孫系では"あま"だが、アマという語彙があるので、skyの意味の用語としては、海神系では"そら"と呼んでいたのではあるまいか。海においての、"うみ"と"わた"も同様な違いを意味しているのではなかろうか。

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