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■■■ 「古事記」解釈 [2021.2.5] ■■■
[35] 遠近飛鳥地名譚に注目したい
普通飛鳥と言えば、飛鳥宮・飛鳥寺の地、大和国高市郡/明日香を指すが、河内国安宿郡/羽曳野も同名。そこで、遠飛鳥と近飛鳥として区別することになる。もちろん、遠・近飛鳥宮もある。しかし、難波宮から見ての遠近だから、奈良盆地の石上神宮から見れば真逆になる。
現代では明日香は観光地イメージができあがっており、2つあると言われてもピンとこないかも。

ついでながら、明日香という地名は「万葉集」では使われるが、「古事記」には全く登場しない。
・・・太安万侶は実にイイところに目をつけ、この遠近称譚を収録したと言えよう。

ここらの話を、で取り上げようかとも思ったが、全体のストーリ―では同じで、せいぜいが細かな点での違いでしかないように映りそうなので、別途とりあげることにした。もちろん、この地名譚は収載されていないが。
📖"紀"との混淆は無意味だが比較には意義あり

話は以下の系譜に係わってくる。・・・
[16]大雀命/仁徳天皇📖難波之高津宮
└┬△石之日売命(葛城之曽都毘古の娘)
├○[17]大江之伊邪本和気命/履中天皇📖伊波禮若櫻宮
│└┬△黒比売命(葛城之曽都毘古の子 葦田宿祢の娘)

├○墨江之中津王
├○[18]蝮之水歯別命/反正天皇📖多治比柴垣宮
└○[19]男浅津間若子宿祢命/允恭天皇📖遠飛鳥宮
└┬△髪長比売(日向之諸県の君 牛諸の娘)
├○波多毘能大郎子/大日下王
└△波多毘能若郎女/長日比売命/若日下部命
└┬△八田若郎女(庶妹)
《無》
└┬△宇遅能若郎女(庶妹)
《無》

粗筋はこんな具合。・・・
 16代天皇崩御。皇子が継承。黒比売命を娶る。
 難波宮で大嘗祭。酔って熟睡中を狙って、弟 墨江中王が放火。
 しかし、臣下が密かに倭に運んだので、難を逃れた。
 目が覚めたのは多遅比野で、石上神宮に入った。
 そこに、弟 伊呂弟水歯別命が参上したが、グルと見て会見拒否。
 邪心無しと主張するので、墨江中王誅殺後なら会うと伝えた。
 水歯別命は戻って、墨江中王の近習を騙し殺害を狙う。
 隼人の曽婆加理は大臣に取り立てるとの甘言に乗り、
 厠に入った君を矛で刺殺。
 そこで、水歯別命は曽婆加理を連れ倭方面へと進む。
 その途中の大坂山口に行宮を建て大臣位授与の宴を開催。
 乾杯の時に、隠してあった剣で曽婆加理を斬首。
 大功あるものの、己の君殺害は不義殿、との理屈である。
 そして、明日、倭に上った。
  ・・・そこで、近飛鳥という地名に。
 倭に到着し、禊をして、明日、神宮参詣となった。
  ・・・そこで、遠飛鳥という地名に。
 水歯別命は天皇に召されることに。


「紀」の編年はこうなっている。・・・
 16代大鷦鷯天皇
  [31年] 去來穗別天皇立太子
  [87年] 崩御
 17代去來穗別天皇
  [2年] 瑞齒別天皇立太子
  [6年] 崩御
 18代瑞齒別天皇


骨子は同じと言ってもよいが、細かくは違っており、「古事記」のように突き放した書き方になっていない。

○弟による皇位簒奪のクーデター発生だが、理由がある。婚約が成立した兄に成りすまして黒媛を騙して姦淫。鈴を置き忘れて、兄に知られてしまったので、大事になることを恐れて襲うことに。
・・・弟にはもともと悪意ありとし、止むを得ず兄殺害に至ったということで、両者の殺意を了承すべしということか。
○太子は寝入っておらず、兵に囲まれ脱出。臣下は仲皇子の仕業と申し上げるものの信じてもらえず。一方、仲皇子は宮を夜通し焼き尽くし、クーデター成功と考えてしまった。
・・・間抜けなクーデターと言わざるを得ないが、臣下達は百も承知で対策済だったのだろう。
このことは、権力闘争もされことながら、難波地区と倭地区で外交方針に齟齬が生まれていたことを示唆しているのかも。「古事記」はもともと国外の話は避ける傾向があるものの、史書でありながら事績は国内のみなのが腑に落ちない。儒教型は、官僚の権力闘争=政策大転換であり、敗者は無惨に消滅していく仕組みだが、本朝ではそれは嫌われているだろうし。
○河内国埴生坂で目覚めた太子は宮が燃えているのを見て驚き出立。飛鳥山で、少女から、山中に展開する武装集団を避けるために迂回するようにとアドバイスを受け、龍田山越え。仲皇子の大勢の手兵に遭遇するものの戦乱を回避し石上振神宮に到着。
・・・何故に、山中でもたもたするのか、ということになるが、仲皇子側の兵が太子に寝返ったというに過ぎまい。
○瑞歯別皇子、太子不在の報で太子訪詣するも、意図を疑われ召喚されず。汚れた心無しと言うが、信用しかねるから、異心無きなら難波の仲皇子を殺すように、と。それに対し、両者ともに兄であるが、道理の加勢することで、疑いも晴れよう、と。
・・・瑞歯別皇子は世渡り上手との印象を与えるが、どういう方針での描き方なのだろうか。
○瑞歯別皇子は仲皇子近習の隼人 刺領巾に恩賞を与えるから殺害せよとそそのかし成功。木菟宿祢は皇子に君殺しを生かしておくべきでないと奏上したので、殺害した。そして、急いで石上に復命。召されて、村と屯倉を頂戴することに。・・・恩賞あればなんでも受けるのが隼人と言うのが、両書のポイント。中央の指示に諾々従うことを嫌っていたのが一転している訳で、そこには祖としての威厳もなにもない。隼人の価値は失せたのであろう。
遠近明日来の地名譚はカットされ、夜半に石上に入る話になっているのは、明日香イメージを落としかねないので止めたのであろうか。
そう考えると、この地名譚は意味深かも。次の時代は飛鳥宮の外交方針に染まって行くということで。
○元年:即位。
○反逆した阿雲連濱子を召して、刑罰を言い渡す。死罪相当だが恩赦。入墨の科とした。濱子に従った野嶋海人等も免罪とし、屯倉役務のみに。
・・・いかにも、臣下が用意していた、一種の出来レースに映る。もともと文身慣習の安曇にもとに戻れということか。

【参考】
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼ ←大川
┌──────────┴────
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┌┐ ←大阪城
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼└┘
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼ ←難波宮
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼∴  ←難波之高津宮
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼◎大阪上本町駅@近鉄──
┼┼◎難波駅┼┼┼┼┼┼
┼┼○今宮戎駅┼┼┼┼ ←四天王寺
┼┼○新今宮
┼┼┼┼┼┼┼┼┼◎──┐JR阪和線
┼┼○萩ノ 茶屋駅天王寺駅│
┼┼○天下茶屋駅┼┼┼┼┼○美章園駅
┌○┤岸里玉出駅┼┼┼┼┼
○帝塚山駅┼┼┼┼┼┌○南田辺駅
│粉浜駅┼┼┼┼┼┌○鶴ヶ丘駅
○住吉東駅┼┼┼┌┘ ←住吉大社
│住吉大社駅┼┼
○沢ノ 町駅┼┼┼○長居駅
│住ノ 江駅┼┼┼
○我孫子前駅┼┼○我孫子町駅
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│七道駅┼┼┼┼
○浅香山駅┼┼┼○浅香駅
○境東駅┼┼┼┼○堺市駅
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○堺駅┼┼┼┼┼┼ ←《百舌鳥古墳群》
○湊駅┼┼┼┼┼┼┼○百舌鳥駅

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