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■■■ 「古事記」解釈 [2021.4.1] ■■■
[90]  「常世長鳴鳥」こそ南方信仰そのもの
🐓大国主命を助けて統治を進めた来たものの、結局は常世國へ"度"することになった少名毘古那神を取り上げて来た。この語彙"常世"だが、この時代以前に使用されている。
ともすれば、当然の話として、なにも考えずに通り過ぎる箇所。ところが、この表現は思っている以上に重要。
❶㊤常世の長鳴鳥
 令思金神 而 集常世長鳴鳥。令 鳴 而・・・

日本人でニワトリのコケコッコーという擬音表記を知らぬ人無しであるため、夜明け前の鶏鳴は常識的。従って、天照大御神が天の岩戸にお隠れになって真っ暗闇になったところで、鳴き声を耳にすれば太陽お出ましの時ということになり、磐戸内の太陽神からすればどういうことかと気にかかったのだろうと解釈することになる。それば、思金神の計略。
この見方で間違いはないが、この即断だけで済ませては拙いのである。
(姿見に映った自分の像に驚いたという方を重視するのは如何なものかと思う。太陽神はこの時点迄、鏡の存在を知らなかったということになりかねないから。道教とは違うということでもなかろうし。)

鶏鳴を当たり前のことと見なすべきだはないからだ。

「酉陽雑俎」では、上流貴族嗜好の飼鷹に蘊蓄を傾けており、シャモ系を除けば鶏に興味を示していない。その理由は単純で、一般層で見れば、唐代の鳥としては闘鶏が大流行していたから。仏教徒の著者としては唾棄すべき風習と見ていたに違いない。
このことは、唐代社会では、暁の鶏鳴現象は、遍く知られていたと言うことでもある。従って、「古事記」の鶏鳴も極く普通に思いつく算段と思いがち。

しかし、それを昔からのことと考えてはいけないのだ。中原の人々はもともと鶏など全く知らなかったからだ。

従って、常世の長鳴鳥という概念が存在していた筈がない。夜明けの鶏鳴きを知っていても、それが常世に繋がる必然性などどこにも無いからだ。太陽神と長鳴鳥の関係が、中華帝国には存在していなかったという"事実"を無視すべきではないということ。

つまり、太安万侶は、そこらを考えた上で鶏鳴を表現していると考えるべきであり、常世の長鳴鳥とは、常世"國"の長鳴鳥を意味していることになろう。

少名毘古那神の出自は済州島である可能性を指摘したが、実は、済州島とはスンダ文化圏という意味である。東南アジア島嶼を意味すると見て間違いない。
そこが、地理的な常世"國"を指す。
❷㊤少名毘古那神
 其少名毘古那神者。度于常世國也。

「山海経」から見るに、鶏は南山経の世界に棲むと言ってよいが、鳥信仰自体はバラバラで太陽信仰と鶏が結びついてはいない。
📖鳥崇拝時代のノスタルジー[5]−庭つ鳥への想い−

このことは、黎明の鶏鳴は中華帝国ではほとんど知られていなかったことを意味している。どう考えても、ニワトリはヒトに付いて南方スンダ域から中原にまでやって来た渡来した鳥なのだ。

"鶏鳴"が書に登場するのは、かなり新しいのである。と言っても漢代には知られていたのではあるが。
成帝時,交趾[紅河中下流域地域]、越嶲[四川〜雲南]獻長鳴雞,伺雞晨,即下漏驗之, 晷刻無差,雞長鳴則一食頃不絕,長距善鬬。 [「西京雜記」卷四一百零八 長鳴雞]
東南有桃都山,上有大樹,名曰桃都,枝相去三千里。上有一天雞,日初出,光照此木,天雞則鳴,群雞皆隨之鳴。 [郭璞:「玄中記」]
「歸空城兮,狗不吠,雞不鳴,術何廣廣兮,固知國中之無人!」 [班固:「漢書」卷六十三列傳#33武五子傳 5昌邑哀王髆]

上記でもわかるが、"鶏鳴"で知られるニワトリは、ベトナム北部から、有史になって渡来したと見なされていたのである。

それでは、実態はどうか。
📖庭鶏の出自が気になる

「古事記」のトーンからすれば、日本列島にはスンダ方面からやって来たと見るべきかも知れない。南島渡来ルートということになり、それは済州島経由ということになろう。

ここまで、いかにも珍奇説であるかのように、超古代スンダ大陸の名称を使っているが、奇をてらっている訳ではない。東南アジア島嶼という表現だと概念が曖昧で、大陸との関係がある一方で、海続きの南インドとの繋がりが薄れがちになりかねないから。
(母系的な紐帯の存在をはっきりさせる要あり。…パプア・ニューギニア系は大陸とは一線を画しており、同様に大陸間で壁が認められる台湾〜日本列島と繋がっている。[日沼頼夫:"ウイルスから日本人の起源を探る"日農医誌4(6)1998]母乳感染成人発症疾病なので、皇子乳母制度や天皇短命譚に係わっている可能性もある。)
もちろん、日本語も南インド⇒スンダ⇒黒潮島嶼という流れを基層に抱えていると見るからでもある。
(祖語から分岐したとか、クレオールではなく、雑種民族特有の重層雑炊的言語であるから、印欧語族の分析手法で眺めれば孤立した訳のわからぬ言語になる。この考え方だと、重層性でアイヌ語と日本語はかなり対立的であっておかしくないし、朝鮮語とはほぼ別言語と見てもかまわないと言うことになろう。)📖訓読みへの執着が示唆する日本語ルーツ

要するに、日本列島へのニワトリの流れと、ヒトの流れは同じかも知れず、ヒトは南インドが大元かもしれないし、鶏の方は、古代地理から言えばスンダ大陸跡に住む人々のオーストロネシア系東南アジア島嶼語地域が源との見方。母系ルーツ≒常世国なら、ココとなろう。
(ニワトリ類が飛翔によって新たな棲息地を見つけたのではなく、ヒトが連れまわした可能性も。現代野鶏とは家鶏の逃亡タイプと言えないでもない。)
【再掲】📖庭鶏の原種を考える@2014年
  ─・─・─ 語族と野鶏の対応関係 ─・─・─
<ドラヴィダ>
 ドラヴィダ(土着印度)系・・・灰色野鶏
 タミル(ヒンドゥー教習合仏教)系・・・セイロン野鶏
<オーストロネシア>
 東南アジア島嶼語・・・緑襟野鶏
<印欧>
 ヒンディー/ベンガル(インド)系・・・赤色野鶏インド亜種
<シナ・チベット>
 チベット-ビルマ(仏教)系・・・赤色野鶏ビルマ亜種
<タイ-カダイ>
 タイ-カダイ(越大移動)系・・・赤色野鶏コーチシナ亜種
<オーストロアジア>
 モン-クメール(土着東南アジア)系・・・赤色野鶏コーチシナ亜種
 アンナン(越南)系・・・赤色野鶏トンキン亜種
<オーストロネシア>
 タガログ系・・・赤色野鶏コーチシナ亜種

  ─・─・─ 野鶏と家鶏の類縁関係 ─・─・─
┌───────────鶉

│┌──────────緑襟野鶏
└┤┌────────灰色野鶏
│┌┤
└┤└────────セイロン野鶏
│┌────────赤色野鶏ジャワ亜種
└┤┌───────赤色野鶏コーチシナ亜種[スマトラ]
└┤┌──────赤色野鶏コーチシナ亜種
└┤┌────アヤム・チェマニ[ジャワ島]
│┌┤
││└────アヤム・プルーン[ジャワ島]
└┤名古屋[バフコーチン/中+日]
┌┤
┌┤└白色レグホーン
│└─タイの在来種(チャボ)
┌┤┌─白色レグホーン[伊]
│└┤
│┌┤└─黄斑プリマスロック[米]
││└───赤色野鶏ビルマ亜種[タイ]
└┤┌───アヤム・ココッ・バレンゲッ[スマトラ島]
└┤
└───赤色野鶏コーチシナ亜種[タイ]
(source) 秋篠宮文仁[編著]:「鶏と人 民族生物学の視点から」 小学館 2000

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