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■■■ 「古事記」解釈 [2022.4.14] ■■■
[468]"もののふ"について
一般に〈もののふ〉とは、武勇で主人に仕える戦士(武士/武者)とされているが、それは院政期ごろから定着した言葉らしく、侍を指す用語でもあったようだ。「今昔物語集」的表現では兵となるが。
・・・たけ[] ものゝふ[武士] こゝろ[]をも
   なぐさ[]むるは うた[]なり  [古今和歌集仮名序]
一方、「万葉集」では、<もの-の-ふ-の>は枕詞と化している。多くの表記文字は、物部[もののふ]だが、100%音素文字の母能乃布[もののふ]といった例もある。
ざっと眺めれば、数多くの官僚(文武百官)という意味の言葉として使われていることがわかる。

「古事記」では、基本的には朝廷内の部民の名称であるから、物部[もののべ]である。役割は不詳ではあるものの、治安要因として働いていたのではないかと思われる。・・・
📖物部氏軽視は徹底している 📖物部氏の出自が"謎"とは思えない 📖物部考をほんの少々 📖物部氏石上神宮に謎など無かろう

そうだとすると、〈もののふ〉は登場しないことになってしまうが、そこらは実は曖昧なところがある。
<歌>と記載してはいないが、逃亡2王子遭遇の場面:
  次弟將儛時 爲詠曰:
  物部[もののふ]之 我夫子之 取佩於大刀之手上
  丹畫著其試メ 載赤幡

氏族的には物部ではないが、実務的には皇嗣として治安的な政治権力を有していたからこそ、部民に該当するような表現になっているのだろうが、情緒的には後世の〈もののふ〉の意味で使われているように思われる。従って、上記のようにルビが振られることになる。しかし、「古事記」成立時にそのような言葉があったのかはなんとも言い難し。
と言って、そう読まないと主張できる根拠は無い。「万葉集」ではすでに枕詞化しており、上記の歌でもそのように見なせるかはなんとも言えないものの、歌での読みは〈もののふ〉だった可能性は高そうだから。

  ---「万葉集」用例---
  巻一#50"藤原宮之役民作歌"
桧のつまでを 物乃布[もののふ]八十宇治川に 玉藻なす
  巻一#76"和銅元年戊申 天皇御製"
ますらをの 鞆の音すなり 物部[もののふ]大臣盾立つらしも
  巻三#264"柿本朝臣人麻呂従近江國上来時至宇治河邊作歌一首"
物乃部[もののふ]八十宇治川の 網代木に いさよふ波の ゆくへ知らずも
  巻三#369"石上大夫歌一首 和歌一首"
物部[もののふ]臣の壮士は 大君の 任けのまにまに 聞くといふものぞ
  巻三#478"十六年甲申春二月安積皇子薨之時内舎人大伴宿祢家持作歌六首"
・・・我が大君 皇子の命の 物乃負[もののふ]八十伴の男を 召し集へ・・・
  巻四#543"神龜元年甲子冬十月幸紀伊國之時為贈従駕人所誂娘子作歌一首并短歌 笠朝臣金村"
大君の 行幸のまにま 物部[もののふ]八十伴の男と 出で行きし・・・
  巻六#928"冬十月幸于難波宮時笠朝臣金村作歌一首并短歌"
・・・味経の原に 物部[もののふ]八十伴の男は 廬りして・・・
  巻六#948"四年丁卯春正月勅諸王諸臣子等散禁於授刀寮時作歌一首并短歌”
・・・鴬鳴きぬ 物部[もののふ]八十伴の男は 雁が音の・・・
  巻六#1047"悲寧樂故郷作歌一首并短歌"
・・・里も住みよし 物負[もののふ]八十伴の男の うちはへて
  巻八#1470"刀理宣令歌一首"
物部[もののふ]石瀬の社の 霍公鳥 今も鳴かぬか 山の常蔭に
  巻十一#2714"寄物陳思"
物部[もののふ]八十宇治川の 早き瀬に 立ちえぬ恋も 我れはするかも
  巻十三#3237"或本歌曰"
あをによし 奈良山過ぎて 物部[もののふ]宇治川渡り 娘子らに・・・
  巻十三#3276
・・・たづきを知らに 物部[もののふ]八十の心を 天地に・・・
  巻十七#3991"遊覧布勢水海賦一首并短歌 此海者有射水郡舊江村也"
物能乃敷[もののふ]八十伴の男の 思ふどち・・・
  巻十八#4094"賀陸奥國出金詔書歌一首并短歌"
・・・思ほしめして 毛能乃布[もののふ]八十伴の緒を まつろへの・・・
  巻十八#4098"為幸行芳野離宮之時儲作歌一首并短歌"
・・・見したまふらし 毛能乃敷[もののふ]八十伴の男も おのが負へる・・・
  巻十八#4100"為幸行芳野離宮之時儲作歌一首并短歌反歌"
物能乃布[もののふ]八十氏人も 吉野川 絶ゆることなく 仕へつつ見む
  巻十九#4143"攀折堅香子草花歌一首"
物部[もののふ]八十娘子らが 汲み乱ふ 寺井の上の 堅香子の花
  巻十九#4254"向京路上依興預作侍宴應詔歌一首并短歌"
治めたまへば 物乃布も[もののふ]八十伴の男を 撫でたまひ
  巻十九#4266"為應詔儲作歌一首并短歌"
・・・見す今日の日は 毛能乃布[もののふ]八十伴の男の 島山に 赤る橘・・・
  巻二十#4317
秋野には 今こそ行かめ 母能乃布[もののふ]男女の 花にほひ見に

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