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■■■ 「古事記」解釈 [2022.5.7] ■■■
[491][安万侶文法]素晴らしきかな"ム"
<む>と読むべきとされる漢字をいくつかあつかってきた。どれも。歌謡的な口頭コミュニケーション倭文の漢字表記にとって重要なものばかりだった。

ただ、歌のような音素表記や、訓の翻訳語彙もあり、<む>の表記の仕方は見えていなかった。
太安万侶は、明らかに倭語87音を措定しており、漢字表記化はこの一語毎に表記方法を決めているから、どれかの文字で、そこらを見ておきたかった。その最良の音は<む>だと思う。ざっと見ることで、その考え方に触れてみよう。

訓的な<む>文字は思っているほど多くなく、使われているのは3つと見た。・・・
(尚、現代通用する<む>音文字としては、以下で取り上げている文字以外では、必ずしも<む>が主音でない文字もあるものの、次が比較的よく知られている。亡母矛尨罔侮某旄袤貿蒙夢[梦]楙髦誣儚舞繆鵐霧鶩)

≪欲[谷+欠]
  [呉音]ヨク
  [漢音]ヨク
  [訓]ほ-しい ほっ-する
  【〜む と  ほ-し
  於是 欲相見其妹伊邪那美命[於是 其の妹伊邪那美の命に相見むとおもほし]
  欲罷妣國根之堅洲國[妣の国根之堅洲国に罷らむとほり]
  然欲為力競[然らば 力競べ為むとほり]
  故我先欲取其御手[故我 先に其の御手を取らむとほり]
  爾 欲取其建御名方~之手[爾 其の建御名方神之の手を取らむとほり]

この用法は納得である。この動詞自体に、主体の意向が含まれており、<将>の助動詞<む>が含まれていると云えるからだ。読む場合は自動的に<む>を入れ込むのは自然なことだが、入れなくても意味が通じるからそのように読むべきなのかはなんとも言い難し。

次は、"う-む"と"む-す"を同一表記にした有名な文字。両者の差異は情報僅少なので探りようがない。重要な文字のようだから、使用は限定的で、音素文字としての利用はなかろう。
≪產/産[文(模様)+ 厂(断崖)+生]
  [呉音]セン
  [漢音]サン
  [訓]う-む/うぶ う-まれる む-す もと
  【神名"ム"】高御產巢むす日~ 神產巢日神 和久產巢日神
  【動詞語尾"む"】[「萬葉集」巻十六#3882]鷲曽子産跡云[鷲ぞ子産むといふ]

次が驚きである。<武>は2箇所しか使われておらず、極めてマイナーだからだ。
≪武[戈+止]
  [呉音]
  [漢音]
  [訓]たけ たけし
  【地名"む"】相武さがむ
  【人名"む"】御調之大使 名云 金波鎮漢紀武こはちかきむ
       …王族姓:金 爵位:波鎮-漢[波珍-飡] 名:紀武
  【武系漢字】鵡 娬 倵 珷/碔…<む>と読んでおかしくない。

上記3文字以外は、すでに取り上げた、明確な役割を持つ4タイプ6文字だけ。都合9文字になる。そのなかで、音素文字"ム"は一意的に定められている。もちろんのこと、<武>を<む>と認定することなどありえない。<む>文字は、後世の武好きによって、強引に定められたことを示唆している。
この9文字は、実によく整理されている。太安万侶文法の出来具合を示していると言ってよかろう。・・・
≪将≫ …推量助動詞 📖[安万侶文法]将に文法の初元
  【〜む (とす)】  竊設兵將攻[潜に兵を設けて攻めむ (とす)]
  將乘船時[船乗らむ(とせし)時]
  將入獄囚[獄囚に入れむ (とす)]
  將行吾祖之国[吾が祖の国に行かむ (とす)]
  乃追渡來將到難波之間[すなはち 追ひ渡り来て 難波に到らむ(とせ) し 間]


≪六 & 陸≫ …数字6 📖六は軽視されている
  【漢数字】并六柱 壱佰陸拾捌歳 etc.

≪牟[㠯(ム)+矢] …文末字「!」📖[安万侶文法]句間字と文末字の重要性
  【文区切り】
  【音素"ム"】
  【牟系漢字】鉾 r 劺 恈 眸 麰 雺 蛑 桙 鴾

≪无/無≫ …否定辞 📖[安万侶文法]否定辞7語の用法確立
  【訓的"な"/ 音"ム"】
  【地名"ム"】无邪志むざし国造
  【無/无系漢字】憮 嘸 墲 膴 蕪 蟱 璑 嫵 幠 甒 嘸 憮 廡

尚、「萬葉集」での<む>表記としては、以下もみうけられる。
≪有≫ [「萬葉集」巻二#151]如是有乃[かからむと]
≪儛≫ [「萬葉集」巻五#813]多布刀伎呂可儛[貴きろかむ]
≪敢≫ [「萬葉集」巻五#901]可久夜歎敢[かくや嘆かむ]
≪試≫ [「萬葉集」巻七#1323]戀度味試[恋ひわたりなむ]
≪鵡≫ [「萬葉集」巻八#1431]鳴尓鶏鵡鴨[鳴きにけむかも]
≪令≫ [「萬葉集」巻八#1474]鳴令響良武[鳴き響むらむ]
≪務≫ [「萬葉集」巻十六#3851]見末久知香谿務[見まく近けむ]
≪生≫ [「萬葉集」巻十六#3882]鷲曽子生跡云[鷲ぞ子産むといふ]

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