→INDEX ■■■ 「古事記」解釈 [2022.3.14] ■■■ [437][安万侶文法]句間字と文末字の重要性 素人にlはとても読めたものではないことが即座にわかる。知識不足で、草書体はさっぱり分からぬというのとは根本的に異なり、ただ漢字が並んでいるだけとしか思えない書になってしまうからだ。ひらがなを句読点なく並べているほどは酷くはないものの、浅学者には文や句の切れ目がどこにあるのか見えてこないので、文章の塊が掴めないのである。 太安万侶の凄さは、ここにある。 中華帝国の漢文と比べれば、比較の問題ではあるが、文や句の切れ目が、多少ではあるものの、わかり易く書かれているからだ。 そんなことに気付かされたのは、テキストとして中国語Wikiを使っているから。代替が無いので、どこから引用しているのかも知らぬが、振ってある句読点に納得しがたい箇所が多すぎるのである。文章の切れ目の判別は、そこまで難しいものかと驚かされることになる。 例えば、このような文章になる。・・・ 於是八百萬神共議而於速須佐之男命負千位置戶亦切鬚及手足爪令拔而神夜良比夜良比岐又食物乞大氣津比賣神爾大氣都比賣自鼻口及尻種種味物取出而種種作具而進時速須佐之男命立伺其態以爲穢汚而奉進乃殺其大宜津比賣神故所殺神於身生物者於頭生蠶於二目生稻種於二耳生粟於鼻生小豆於陰生麥於尻生大豆故是神產巢日御祖命令取茲成種 又・亦・及・故・(即)は、句頭字だろうし、於は@という意味の前置詞であろうから、文章の切れ目が読み取れる助詞は以下を以て表示するというのが原則なのではなかろうか。 ------------------------- 【句間字:而】 …(=そして or しかし) ≪而≫ [呉音]二 [漢音]ジ [訓]しこう-して しか-れども 等々 この文字を多用し過ぎの印象を抱きがちだが、句読点無き文章を連続して記載する以上、こうなるのは自然なこと。ただ、これを読み易くするための技法と考えるべきではなく、日本語での口頭コミュニケーションに於ける、句の認識のための工夫を文字化したと見るとよさそう。そういう意味では、この文字があるからこそ、日本人は「古事記」が読めるとも云えそう。 ------------------------- ------------------------- 【代表的文末字:矣 焉 也】 …語調用途。 ≪也≫ …女陰の象形で文末で断定の意を示す字 [音]ヤ [訓]なり また [「古事記」該当音」乙類ぞ 序文(漢文)では使われない。 隱身也@天地初發・別天神・神世七代から始まって、至る所で使われる。特に注記では<・・・也>となることが多い。 ≪焉[=于是]≫ …黄鳳から来た文字 [音]エン イ [訓]無(=于是/於此:文末の軽い語気の置き字) (副詞的疑問代名詞=岂/如何) いずくんそ (指示代名詞) すなわち これ [「古事記」該当音」無 @序文(漢文) 斯乃 邦家之經緯 王化之鴻基-焉 @序文(漢文) 於焉 惜"舊辭"之誤忤 正"先紀"之謬錯 …於焉=於是、於此 以 和銅四年九月十八日 @上巻 最後其妹伊邪那美命 身自追來-焉 答言:僕者國神 大山津見神之子-焉 @中巻11 泣涙落。洽於御面。必有是表-焉 @中巻12 東方十二道之惡人等 因此思惟 猶所思看吾既死-焉 ≪矣[=㠯(ム)+矢]≫ …矢で耜を祓う儀礼時の声 [音]イ [訓]無(=!:文末の語気強調としての置き字) ≪唉[=口+矣]≫ …"嘆息"の声 [呉音]イ キ [漢音]アイ カイ [広東系音]アアイ オイ [訓]ああ ああおお [「古事記」該当音(一説)」 乙類ぞ [「古事記」該当音(一説)」 を "矣"は漢文からすると無音の終助詞以外に使う根拠はなさそうである。読み音をつけるなら"イ"だが、倭の語音には不適そうだから、詠み手がその場で妥当な感嘆音を発することになるのだろう。"を"と訓じる文字に該当するとされているのはそういうことでは。("を":乎 小 緒 矣 遠 尾 呼 雄 男 麻 袁 越 怨 絃) @序文(漢文)📖稗田阿禮に不可思議な点なし 即 勅語阿禮 令 誦習 帝皇日繼 及 先代舊辭 然 運移世異 未行其事-矣 @序文(漢文) 可謂 名高文命 …文命=禹[夏朝] コ冠天乙-矣 …天乙=湯王[殷] @上巻 汝命-者 所知高天原-矣 事依(而)賜-也 汝命-者 所知夜之食國-矣 事依-也 汝命-者 所知海原-矣 事依-也 爾 海神自出見 云此人-者 天津日高之御子 虚空津日高-矣 @中巻11 令白天皇 若此御子-矣 天皇之御子所思看-者 可治賜 @下巻22…兄童袁祁命の舞譚📖竹具は海人が伝えたのだろうか 立赤幡見-者 五十隱山三尾之竹-矣 掻き[訶岐]苅 末 押縻魚簀 現代人からすれば、"○○ 下記の用例なら、置き字と見なして、発音せず、イントネーションとか大声での強調もありえよう。 それは、あくまでも、口唱歌謡と見るからで、官僚文書管理システムに乗せられることになれば、そうはいかない。上記のルビ音かどうかはわからぬものの、統一されること間違いなしだろう。 以爲 天原自闇 亦 葦原中國皆闇矣 又 離田之阿埋溝者 地矣"阿多良斯登許曾" 我那勢之命爲如此"登" 詔雖直 天香山之五百津眞賢木矣 根"許士爾許士" 即蹈傾其船而 天逆手矣 於青柴垣打成 而 隱-也 爾天兒屋命 布刀玉命 天宇受賣命 伊斯許理度賣命 玉祖命 并五伴緒矣 支加而 天降-也 ------------------------- ------------------------- 【整調字:兮】…詩賦で用いる。(=啊) e.g. 伯兮喝兮 邦之桀兮[「詩経」衛風] [呉音]ゲ [漢音]ケイ [訓]の 「古事記」では≪兮≫は使われていない。 ------------------------- ------------------------- 📖膠着語の本質 📖日本語文法の祖は太安万侶 🗣📖訓読みへの執着が示唆する日本語ルーツ 📖日本語文法書としての意義 📖倭語最初の文法が見てとれる 📖てにをは文法は太安万侶理論か 📖脱学校文法の勧め 📖「象の鼻は長い」(三上章) 📖動詞の活用パターンは2種類で十分 📖日本語に時制は無いのでは 📖日本語文法には西田哲学が不可欠かも 📖丸暗記用文法の役割は終わったのでは 📖ハワイ語はおそらく親類 📖素人実感に基づく言語の3分類 📖日本語文法入門書を初めて読んだ 📖書評: 「日本語と時間」 📖日本語への語順文法適用は無理を生じる (C) 2022 RandDManagement.com →HOME |