→INDEX ■■■ 「古事記」解釈 [2022.9.24] ■■■ [631][付録]五穀と二穀の稲作概念の違い 今でこそ、自称雑穀好きだらけだが、一寸前はそんなことを口に出す人もいない社会だったのだから致し方ないとはいえ。2世代前の人々が、粟など十姉妹の餌というイメージで稲のモノカルチャー路線を驀進させたことを知りながらも、どうしてもその発想に引きずられてしまう。 想えば、南アルプスからの帰山での麓の朝食が粟飯だったことがある。(粳粟100%はパサつくが米飯に混ぜると相乗効果で格別美味しいく、本来的には糯粟餅が祭祀用、と。)稲作は気候的に不可能だし、道が今一歩だったから林業などできる訳もないので、粟時給で生き抜いて来た地だったのである。しかし、小生が食べた頃は、すでに特別食。この地でさえ、社会的には消え去っていたのである。祭のため、たまたま篤農家が栽培したとされていたが、量的確保は難しいだろうから、実態としては輸入品主体かも。 そういえば、その時に、粟への拘りを聴いた覚えがあることを思い出した。焼畑なので、コミュニティ農業でしか成り立たなかった地域なのだ。焼畑とは粗放とは程遠い手のかかる農業で、驚くほどよく考えられた持続型システムであり、材木商売はしないが、繰り返し焼畑のために榛の木植林📖は行なうのである。 要するに、「古事記」の穀類発祥譚とは焼畑農業と読むべきということになる。 於二目生 稻種❶ 於二耳生 粟❷ 於鼻生 小豆❸ 於陰生 麥❹ 於尻生 大豆❺ 故是 ~產巢日御祖命 令取茲成種 ここは、中華帝国の五穀対応に映るような表現なので、どうしてもその感覚で詠みがち。📖「古事記」の五穀発祥は的確 しかしながら、冷静に眺めると、あくまでも粟主体経済に、五穀が載っていると解釈すべきだと思う。耳生粟とは、粳粟ではなく糯粟とも読めるからだ。「古事記」には、少名御神の酒が超特別な祭での寿ぎに用いられると示されている以上。📖石立たす少御神と酒宴・・・ [歌40]【神功皇后】天皇勝利凱旋の酒宴 此の御酒[美岐]は 吾が御酒ならず 御酒(奇[久志])の司[加美] 常世に坐す 石立たす 少名御神[須久那美迦微]の 神祝き[加牟菩岐] 寿き狂ほし[本岐玖琉本斯] 豊寿き[登余本岐] 寿き廻ほし[本岐母登本斯] 奉り来し御酒そ[麻都理許斯美岐叙] 浅ず飲せ ささ(囃子) 粟作とは、粟が主穀とはいえ、地域にあった多毛作が必ず行われる農業である。ただ、栄養過少化の連作障害があるので、土の養分増のため豆栽培は必ず行われる。普通は、粟の後に他の穀類を用いてから、畑終了となる。場所によっては、穀類混栽もあるようだ。 と云うことで、豆を重視する「古事記」の姿勢は正しい。小豆島の時代があったように、この豆は呪的存在でもあり、火入れして畑地化(畠/鼻)するに当たって、古くから不可欠だった可能性もあるからだ。 古代は温暖な温帯モンスーン地域に住んでいたのは明らかで、ここでの陸稲・麦は雑穀扱いである。国史とは似て非なる記載と云うべき。 _目_陰_耳_尻__鼻 _稲_麦_粟_大豆_小豆 …「古事記」 _腹_陰_額_目_陰 _稲_麦_粟_稗_豆(大,小) …「日本書紀」 国史の五穀とは、執筆時点で、中華帝国の五穀📖"五穀"考を勘案した記載ではあるものの、考え方は王朝によって異なるから、日本国の当時の農業実態を示していると見てよさそう。 高天原は水田であり、田に水を入れることで、連作可能にする農法である。ベンガル〜スンダの熱帯モンスーン帯もデルタ地域の水田とは言えるものの、浮稲の粗放型で、植苗が入る仕組みとは全く違っており、亜熱帯高地の細流地域の盆地状地域で開発された画期的技法と見て間違いないだろう。その温帯適応がジャポニカ系となろう。天孫系は降臨地が峯であるから、古き水稲農法と思われる。 それはともかく、少名毘古那神登場にあたって📖少名毘古那神の推定出自、案山子や蟇蛙/蟾蜍がどう関係するのかさっぱりわからなかったが、小生としては。新しい粟農法の神ということでようやく合点がいった。 蟇蛙/蟾蜍は泳げないし跳べず動きも緩慢であるが、主に山麓の野原に棲息しており、住居近辺も夜間蛾が多いのでよく見かける動物である。中華帝国では、后羿の妻 嫦娥とされ、生き抜く上でいかにも機に敏だったのでこのような動物にされて夜の世界に追いやられた神ということになろう。山小屋に寝泊まりが必要となる人々にとっては、焼畑の友とも云うべき存在であろう。蛾も食べてくれるし、始終目を利かしているのだから。 案山子はそれこそ、粟畑の肝と云うべき役割を果たしていた筈。粟栽培の最大の問題は鳥害と髄虫(粟瞑蛾幼虫)害なのはよく知られている。 ---五穀--- _秋_冬_中央_春_夏 _麻_黍_稷__麦_豆 …「呂氏春秋」十二紀、 ____________「礼記」月令、「淮南子」時則訓 _麻_黍_稷__麦_豆 …鄭玄注@「周礼」天官疾医 _麻_黍_稷__麦_菽 …廬辯注@「大戴礼」曾子天圓 _稲_黍_稷__麦_菽 …趙岐注@「孟子」滕文公上 _黍_秫_大菽_稲_麦 …「管子」巻十九地員篇 [秫=モチ粟] --- _木_火_土__金__水_ …五行 _麻_麦_米_黄黍_大豆 …五谷 --- _粳米_小豆_麦_大豆_黄黍 …[王氷注@「黄帝内経素問」巻第七蔵気法時論] _米_麦_粟_黍_稗 …「日葡辞書」 _稲 + 麦_粟_アラカ_小豆 …「琉球国由来記」受水走水&久高島伊敷浜 (C) 2021 RandDManagement.com →HOME |