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■■■ 「古事記」解釈 [2022.9.29] ■■■
[636][付録]母音のRecap
まとめ日本語は母音発声の単純さを旨としている。
 あ[いゐ]う[えゑ][おを]⇔あいうえお⇔あいう(いう)
もともとは8母音だったと信ずるに足る証拠は全く無いものの、[w-い=ゐ] [w-え=ゑ] [w-お=を]とは、ワ音が孤立して存在しているので、五十音整理に極めて便利ということで子音w(ワ)行が創られたのと違うか。
"を[wo]"のw音は、小開口非円唇後舌の母音的な音[ɰ]のように聞こえるからでもある。この音を子音と見なすと、発音的に無理を感じさせるものがあるし、文字発音に甲類・乙類の違いがあるとしたら、それはこれらの母音の違いから生じたと考えるのが自然ということもある。

---8母音---📖8母音図を想定していたかも
(阝:阿の偏)(安) [萬]
(亻:伊の偏)(以) [萬]
(井の変形)(為) [萬] 📖"ヰ" "ゐ" "韋"の扱い方
(宀:宇の冠)(〃) [萬]
𛀀(衣の初画)(衣) [萬]n.a. @呉音
(恵の部分画)(〃) [萬]惠/恵 @呉音
(方:於の偏)(〃) [萬]
(乎の初画変形)(遠) [萬] @呉音
  📖[安万侶文法]ヲを"遠"表記にする理由 📖[安万侶文法]ヲは袁にしたかったか

世界の主要言語を眺めると、開口の大きさ・唇の丸め度合い・舌の前後高低で数多くの母音が出せることがわかるが(ビジネスマン発想だと、他に影響因子は無いと云えるのか、はなはだ気になるが解説にはなにも記載されていない。)、倭語〜日本語は、母音の数を極く少数に絞り込んでいる。二重母音や長母音的な区別も持ち込んでいないし、西欧語に多くみられる中庸的な母音も忌避しており、徹底した姿勢と見てよさそう。

こうなるのは、素人からすれば、文字による"お助け"を欠く話語としては、当然の流れに映る。

息の流れを妨害(閉塞・摩擦等)する音(子音)は発声持続性に乏しいからだ。スムースで口蓋が共鳴するような持続音(母音)に繋げて発声するようにしないと、音としての言葉が相手に伝わりにくいのは自明だからだ。

そこらを徹底すれば、母音語にならざるを得まい。言葉とは口からの吐息であるとの観念が根底に存在しているためと言えないこともない。

現実の5母音を世界で見られる発音のなかに位置付けてみるとこうなる。・・・
 あ(a-ä-ɑ-æ-ɐ)大開口円唇
 い(i-ɪ)小開口円唇前舌
 う(ɯ)小開口円唇後舌 + (u-ʊ)小開口平唇後舌
 え(ɜ-e)中開口円唇前舌
 お(o-ɔ)中開口平唇後舌
 無(ə)中開口円唇中舌…非日本語発音
 無(ɨ)中開口円唇中舌…非日本語発音

上記5母音の核になっているのは大開口発音のア。大きな声を出す必要上円唇となる。口を開くので舌位置変化はしにくいから、細かく音を分けることはしないのだろう。
この開口を抑えて、前舌にすると自然に高音化する。これがイ・エだろう。逆に後舌にして非円唇にすれば低音化が図れる。こちらはウ・オ。
おそらくベースは3母音。

ステップ系(チュルク[トルコ]/突厥・蒙古・満州/ツングース・朝鮮)+飛び地[アジア系](マジャール・フィン)をウラル・アルタイ系語族とし、これになんとしても日本語を加えたい人は少なくないので、日本語にも母音調和があったとされるが、その場合は類似母音群を設定せざるを得ず、少数限定化路線とは相反する。
「古事記」を眺めると、同一母音重畳語彙は少なくなさそうだが、少数母音なら当たり前で、母音調和の概念とは全く関係があるまい。
トルコ等の例を見ると、o・u・aに2種類の音を設定し、陰陽(女男)2群にすることに意味があるようだ。当然ながら、グループ内であれば、発音上スムースに移行できるので、母音調和なる言語学上の概念が生まれたに過ぎまい。これを、o・uを近しい音とみなししており、aの音をブロードにしている日本語に適応できるとは思えないが、そのような見方は間違いとされているようだ。
もしも日本語にも存在するとしたら、o⇔ɔ u⇔ʊ ə⇔aの6音を、ouə⇔ɔʊaという2群に分けることになりかねないが、違和感を覚えるだけである。
ただ、もしも中庸音のəが存在していたとすれば、i⇔e ə⇔a u⇔oのiəu⇔eaoとの2群化はあり得るだろうが、日本語の大きな特徴であるブロードな音たる<あ>の存在を否定するようなもので、納得性は薄い。(音声記号は学者用であり、2群に分けるとは。例えば、閉[oɐe]⇔開[ɔaɛ]のようにならざるを得ない。)
そもそも、母音言語である以上、日本語はウラル・アルタイ系語族とは根本的に異なっていると考えるべきだろう。

「古事記」における母音設定が思いつきでできる訳がないから、仏僧を通して母音の概念を知り、長母音や二重母音表現は倭語では使うべきでないと見抜き、天竺の単母音のア〜オの五音で整理すればよいと考えたと思われる。
五七拍のリズムを重視するなら、連続母音や長母音を避けたくなるのは当然だろうし。
---古代元(母)音---(デーヴァナーガリー/Devanagari)
 अ…aア  आ…āアー
 इ…iイ  ई…īイー
 उ…uウ  ऊ…ūウー
 ऋ…ṛ   ॠ…ṝ
 ऌ…ḷ   ॡ…ḹ
 ए…eエ  ऐ…əjアイ
 ओ…oオ  औ…auアウ
 <追加> ऍ…aæ  ऎ…ĕ
      ऑ…ɔ  ऒ…ŏ
      ऺ…ạ  ऻ…ạ̄


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