「古事記」解釈[453](20220330)

■■■　「古事記」解釈 [2022.3.30]　■■■

[453][安万侶文法]ヲを"遠"表記にする理由

何故にヲの表記文字に袁を登用したかは、実は遠も同時に利用することで、その理由がわかるだろうと言うことかも。

≪遠[辵+袁]≫
　　[呉音]ヲン
　　[漢音]ヱン
　　[訓]とお-い
【意味】時空間的距離大
≪袁[叀+衣]≫＝長衣の様子【形容詞…滅多に使われない。】
　　[呉音]ヲン
　　[漢音]ヱン
　　[訓]無
【固有名詞】氏族州

袁の意味とは異なっており、明らかに＜袁＞は声符である。ただ、仮音だけでなく、字体から見て、袁の中心にある○は玉で、その下に足があるから、遺骸の形にも見え、死出の旅路に向かう姿の象形で、とてつもなく遠方であることを示している文字との説もある。

要するに、音素文字使用としては、袁がもともとそのように使われているからベストというのが太安万侶の結論ではなかろうか。
しかし、問題は袁という漢字は倭国内で該当する言葉がないから、殆ど馴染み無き文字であるから使いづらい。
従って、よく知られている文字の遠でもよかろうということになる。

実際、どのような用法があるのか、一通り眺めてみた。
ヲとしての遠は出雲譚だけで用いていることがわかる。袁は、「その八重垣を」で須佐の地の男命の歌のヲに使っているので、出雲ゼロではないが、両者の棲み分けができていそう。

遠江國造
高志之八俣"遠呂智"
然解結椽髮之間遠逃　…椽に結ひし髪を解かす間に、遠く逃げたまひき。
[__2]【八千矛神(大国主命)】婚高志國之沼河比賣幸行之時
　　　　賢し女を有りと聞かして[佐加志賣遠阿理登岐加志弖]
　　　　美し女を有りと聞こして[久波志賣遠阿理登伎許志弖]
　　　　太刀が緒もいまだ解かずて[多知賀遠母伊麻陀登加受弖]
　　　　襲をも未だ解かねば[淤須比遠母伊麻陀登加泥婆]
　　　　乙女の寝すや板戸を[遠登賣能那須夜伊多斗遠]
　　　　青山に鵺は鳴きぬ[阿遠夜麻邇奴延波那伎奴]
　　　　事の語り外面此をば[許登能加多理其登母許遠婆]
[__3]【沼河日売】未開戸(婚姻拒絶)
　　　　後は汝鳥にあらむを[能知波那杼理爾阿良牟遠]
　　　　事の語り言も此をば[許登能加多理碁登母許遠婆]
[__4]　【沼河日売】婚姻承諾
　　　　青山に日が隠らば[阿遠夜麻邇比賀迦久良婆]
　　　　沫雪の若やる胸を[阿和由岐能和加夜流牟泥遠]
　　　　股長に寝は寝さむを[毛毛那賀爾伊波那佐牟遠]
　　　　事の語り言も此をば[許登能迦多理碁登母許遠婆]
[__5]【大国主命】嫡后の嫉妬の抑制
　　　　鴗鳥の青き御衣を[蘇邇杼理能阿遠岐美祁斯遠]
　　　　染め衣を[斯米許呂母遠]
　　　　言の語り事も此をば[許登能加多理碁登母許遠婆]
[__6]【須勢理毘賣命】神語契り再確認
　　　　汝こそは男に坐せば[那許曾波遠邇伊麻世婆]
　　　　女にしあれば汝招きて男は為し汝招きて妻は為し
　　　　[賣邇斯阿禮婆那遠岐弖遠波那志那遠岐弖都麻波那斯]
　　　　若やる胸を[和加夜流牟泥遠]
　　　　股長に寝を為寝させ[毛毛那賀邇伊遠斯那世]
遠津待根神　遠津山岬多良斯神 …十七世神
打竹之"登遠遠登遠遠邇"獻天之眞魚咋也
　　　　…"ヲ"(オノマトペ音)
於是副賜其"遠岐斯"八尺勾璁鏡
火遠理命
(割注)＜訓壯夫云遠登古＞
爾神倭伊波禮毘古命焂忽爲"遠延" 及御軍皆遠延而伏
丹波之遠津臣
遠津年魚目目微比賣
故號其地謂遠飛鳥也　　遠飛鳥宮

「万葉集」は訓のヲトメが多いが、どうしてこのようにバラバラな音素表記になるのだろう。・・・
　　　巻＿三#_424越＿女
　　　巻＿五#_804遠等咩
　　　巻＿五#_865越等賣
　　　巻十三#3309越＿賣
　　　巻十四#3427乎登女
　　　巻十五#3597乎等女
　　　巻十五#3606乎等女
　　　巻十五#3610乎等女
　　　巻十五#3627乎等女
　　　巻十五#3638乎等女
　　　巻十五#3641乎等女
　　　巻十五#3661乎等女乎等賣
　　　巻十七#3890乎等女
　　　巻十七#3973乎登賣
　　　巻十七#4021乎等賣
　　　「古事記」[__2]遠登賣
　　　「古事記」[_19]袁登賣

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