→INDEX ■■■ 「古事記」解釈 [2023.5.6] ■■■ [682] 「古事記」仮名8母音 阿 本来的には、珍しい主張ではない筈だが、無文字社会への翻訳聖典普及活動や識字率向上を"反民主化"活動と見なす訳にもいかないから、滅多にお目にかからなくて当然である。しかし、白川静の漢字論とは、まさにこの点を突いており、極めてくどい印象さえ与えるほど。そのため、強引な呪術文字由来論との批判が生まれることになるが、この提起に全く応えていない以上、極めて政治的なものであることがよくわかる。 この白川論的な風合いを感じさせるのが「古事記」。 歌だけ見れば、国史や「萬葉集」も音素文字を使って、倭語表記をしているものの、目的も思想も異なるので自ずと違いが生まれてしまう。 すでにザッと眺めてきたが、ここで再度、その辺りを確認しておきたい。📖古事記仮名を万葉仮名と呼ぶべきでない 📖(続) 他に参考になる残存文献が無い以上、以下に示すように「萬葉集」を参考にせざるを得ないが、明らかに太安万侶用法は考え抜かれており、どうしてそうなるのか、自分の頭で考えた方がよいと思う。「記紀」読み同様、ごちゃ混ぜが推奨されていそうだが、「古事記」が無価値になるから避けた方がよかろう。 太安万侶、流石と思ったのは、音素文字の筆頭として明らかにアを意識していること。最初の"音"表記はアなのだ。 ①ア(阝:阿の偏)あ(安) [萬]阿…阿 📖"阿〜和"全87音素設定 📖[追記] ーーー 梵語【悉曇 摩多】:अ[ア ə]…本不生 आ[アー]…寂静・・・ 阿 訓…云阿 阿賀淤冨久迩奴斯:あがおほくにぬし 【正音】 ーーー 倭語の"あ"は、"阿"表記でよいが、意味は1つしかないことも主張しているように思える。しかし、漢語ではバラけており、漢字表記すればいくつかに分けることになる、と。 ーーー 倭語"あ"=私"I"の翻訳文字・・・ 吾 吾身 【正訓】 我 我身 【正訓】 僕 僕者 妾 妾兄 【義訓】 ーーー 倭語では、これだけなので、漢字表記方法としては上記で必要十分となる。 しかし、例外的な読み替えもあります、とのご注意も忘れていない。"特別な"末尾音省略名詞もあるということで。 皇族名" ーーー 足/(腳) ーーー もちろん、その前に、この様な2音の倭語では末尾を省略して1音化していることを、予め、知らしめた上でのこと。 "あぜ(畦)⇒ア(阿)"であることの注など必要あるまい。 ーーー (畔 畦) 天照大御神之営田之阿 ーーー ただ、"足"は認定しても、"安"はそうはいかない。"アン"という音事態が倭語に無いからである。(撥音"ン"は梵語にあるが、倭語には無かった。) "安⇒あ"は、漢語読み上、"ン"音を意識して発音せざるを得なくなった結果である。「萬葉集」は漢語混交の倭語であることがよくわかる。当然ながら、「古事記」では、音読みはしない。 ーーー やす・・・ 安 ア@「萬葉集」 【略音】 [巻十四#3437]安太多良真弓:あだたらまゆみ ⇔天安河 近淡海之安直/國造 國(家)安平 建波邇安王 高安山 安置 ーーー 「萬葉集」は漢語混交の倭語であることがわかるのは、当て字文字の"あ"として使っている点もあげておこう。"余"を"あ"と読むことはできまい。「古事記」はそのような遊び文字を取り入れるつもりが無いことがよくわかる。 ーーー ヨ・・・ 余/(餘) ア@「萬葉集」 [巻四#637]余衣:あがころも [#638]余身者不離:あがみはさけじ [巻七#1293]余跡川楊:あどかはやなぎ ⇔岐美何余曾比斯 余能許登碁登邇 阿佐米余玖 伊麻宇多婆余良斯 伊須氣余理比賣 伊余國造 ーーー 但し、"ア"が、上記にとどまるかと言えば、正確には、そうはいかない。感嘆詞的な言葉が存在するからだ。ただ、発言の記載には使うだろうが、地文や歌には不向きな用語では。使うにしても、他の用語として使わない文字ならよいが、倭文編纂者としては避けたいところでは。以下の文字を使いたがる、漢語混交が嬉しいらしい「萬葉集」とはいささか異にする。 ーーー 口頭掛け声の"ア"・・・ 或 啊 呀 ⇔ 口頭嘆息の"アァ"・・・ 嗟乎 嗚呼 噫于 (どれも1文字化多し。) ーーー 「萬葉集」こそ、倭語の歌とされているが、小生の様な素人からすれば、とてもそうは思えない。多分、以下は万葉仮名と見なされるのだろうが。・・・ ーーー none的状態の[漢語的]"ア"・・・ 亜/堊(白色的土) 啞(沈黙) 亜亜【音引】志夜胡志夜 女性の[漢語的]"ア"・・・ 婀/娿⇒[訓]あだっぽい たおやか 病/やまいの[漢語的]"ア"・・・ 痾 梵語【悉曇 摩多】:अः[アク or ア]悪/痾…遠離 [巻十一#2704]悪氷木乃:あしひきの [巻十二#3155]惡木山:あしきやま【約訓】 梵語【悉曇 摩多】:अं[アン]暗/闇…辺際 ーーー 「万葉用字格」でわかるが、「萬葉集」には【略音】【略訓】が極めて多いことを示している。五七のリズムに乗せ、音韻的にしみじみさせるためには、それは極めて自然なことではあるものの、伝承されて来た美しい"叙事文を保とうと考えるなら、表現方法を工夫する方が正統だと思う。太安万侶は、できる限り、万葉仮名的用法を避けたのではなかろうか。「萬葉集」では、以下の"あ"がある。・・・ ーーー 末尾音省略1音化[名詞]・・・ 網 【略訓】 末尾音便"n"音省略[動詞]・・・ 有 "wa"の単独母音化・・・ 蛙⇒[訓]かえる/かはず [呉音]ヱ [漢音]ワ/ワイ [越南]oa 遠称指示詞"ka"の単独母音化・・・ 彼 音変化[オウ→アゥ]・・・ 鞅⇒[訓]むながい [呉音]オウ [漢音]ヨウ ーーー 【ご注意】 (1)Wikiを眺めていると、8母音説の論者はいなくなっているように思えてくる。 (2)「万葉集」のテキストには、朝鮮語と日本語の対照語彙40ほどが記載されているそうだ。[巻7月報]これは、タミル語との比較とは訳が違う。資料皆無時代であり、フィクションと言わざるを得まい。情報が漢籍と日本での作成書しか無い以上、1100年以前の漢語統治下の朝鮮半島での被支配階層の言語音は不詳とするしかあるまい。常識的には、文献資料が存在する1100年以後の朝鮮語に含まれる漢語系を同定し、それと「万葉集」の類似語彙を最初に検討すべきと思うが、半島の小中華思想のためか"絶対的"に行われないようだ。 尚、上述したように、論理的には、倭語は純粋という主張はあり得る。日本列島周囲の日本語語族はすべて絶滅させられとの仮説に立つだけのこと。 (C) 2023 RandDManagement.com →HOME |