■■■ 「古事記」叙事的訓読 ■■■ 🈠(漢文)序文 ㊁御大八洲天皇御世 PREV⏪ ⓿《飛鳥清原大宮》 曁飛鳥清原大宮 御大八洲天皇御世 <曁> 【呉音】ケ 【唐音】キ 【訓】およ-ぶ[≒及ぶ] い-たる[≒至る] ❶《濳龍》 濳龍體元 洊雷應期 【緊句】 聞夢歌 而 想纂業 投夜水 而 知承基 【長句】 ・・・易経 乾為天の卦に当たる用語<潜龍> 潜水し隠れていて、昇天しない龍。 つまり、皇帝位に着くのを避けている状況。 (乾元亨利貞)⇒初九濳龍勿用⇒九二見龍在田利見大人⇒九三君子終日乾乾夕タ若持ル咎⇒九四或躍在淵无咎⇒九五飛龍在天 利見大人⇒上九亢龍有悔 [「周易總義」卷一@欽定四庫全書] ・・・易経 震の卦に当たる用語<洊雷> 畏れの極限の災禍。 つまり、恐ろしい威力の発揮。 象曰: 洊雷震。君子以恐惧脩省。 [五一震] 道教的には、龍は天に昇って雷神になる。 ・・・<體元> 天地之元気為本。 つまり、根本的な存在。 ・・・ <應期> 猶 如期 つまり、まさにその時期。 ・・・太祖継業<纂業> 継承大業 ・・・世宗承基<承基> 承継基業 ・・・夢のお告げ<聞夢歌 而 想---> 夢で歌を聞き、皇位継承を想うことに。 (占夢書は数々ある。唐代、解夢は当たり前の風習。盧重玄版が道教系。) 📖夢とは@「酉陽雑俎」の面白さ ・・・水占い<投夜水 而 知---> 夜水を投げ、皇位承継できることを知った。 (上六井収勿幕有孚元吉 [井]だろうか。) ❷《虎步》(殆ど"壬申の乱") 吉野山に入山し脱皮することで天子に。霊虎と化し、東国の力を束ねた。 然 【傍句】 天時未臻 蟬蛻 於 南山 人事共給 虎步 於 東国 【雜隔句】 ・・・天帝命天子の観念<天時> 天が与えた時期。 上応二天時一 下参二人事一 [易経 乾卦文言] ・・・しかし時熟せず<臻> 【呉音】シン 【唐音】シン 【訓】いた-る[≒至る] きた-る[≒来たる] おお-い[≒多い] ・・・道教の真人・仙人観念<蟬蛻> 得道成仙(脱去肉體軀殼) ・・・吉野入山 さらに東へ脱出<南山 & 東国> 都⇒(出家)⇒吉野⇒(脱出)⇒伊賀⇒鈴鹿⇒・・・ ・・・圧倒的な軍事的示威<虎步> 矫健威武的脚步 ・・・勢力は人的に膨れる一方<人事> 人力資源管理 ・・・<共給>≒供給 ❸《三軍電逝》(行軍賛歌) 皇輿忽駕 凌渡山川 【漫句】 六師雷震 三軍電逝 【緊句】 ・・・<皇輿> ≒神輿 人が担ぐ皇(子)の乗り物 物事の始めの暗喩的表現 ・・・<忽> たちまち ・・・<凌渡> 越え渡る 駕は天子の乗り物だが、駕淩≒超越であり、それをを暗示。 ・・・<六師> 周天子所統六軍之師 ・・・<雷震> ≒雷鳴 動如雷震 [孫子兵法軍争篇] ・・・<三軍> 諸候軍 ・・・<電逝> 閃電(光)つまり稲妻 ❹《杖矛擧威》(敵軍殲滅 意気揚々) 杖矛擧威 猛士烟起 絳旗耀兵 凶徒瓦解 【平隔句】 未移浹辰 氣沴自清 【漫句】 ・・・<杖矛> 杖は"持也"。 [説文] (名詞化⇒歩行用補助棒・呪術者の特殊棒) 柄付き両刃刺突タイプの攻撃用武具(矛/鉾/戈/鋒/戟) はレガリアあるいは呪器でもある。 その存在は威勢を挙げることになる。 ・・・<烟起> 起烟(火燃起時冒烟)の倒置で 猛士が引き起こすのだから、烟は火でなく土煙か。 ・・・<絳旗> 絳は染爲絳色(赤色化)ということだが 天子を示す旗である。それが兵を輝かせた訳だ。 ・・・<凶徒> ≒兇徒 凶悪的暴徒 ・・・<浹辰> 浹はひとめぐり 辰は干支の総称 つまり、短期(12日間)を示すのだろう。 ・・・<氣沴> 妖気 自ずから消えていったというのである。 ❺《昇即天位》(完璧な勝利をおさめ、飛鳥浄御原宮で即位。) 乃 【傍句】・・・<乃/すなわち(そこで)> ┌───放牛息馬 │ 牛馬は戦乱の労役に投入されていたようだ。 │ (余剰だったか。…天武4年肉食禁止令[初]) │┌──ト悌 ││ 和楽平易(愉しく安らか) ││ 戦乱は収束を見て平和が帰って来た訳だ。 ││┌─歸 │││┌─於 華夏 ││││ 中華帝国の中原地区の漠然とした呼び名だが、 ││││ 文化中心を意味する。 ││││ 当然ながら、宮のある地、大和となる。 └│──卷旌戢戈 ┼│││ 戦旗[旌]を巻いて収納し ┼│││ 武具[戈]を戢めた。(≒収めた) ┼└──儛詠 ┼┼└─停 ┼┼┼│ "やめる"ではなく、"とどみ"(潮が満ち留まる。)の意。 ┼┼┼└─於 都邑 【輕隔句】 ┼┼┼┼ 国都 ・・・歳次大梁 歳星/木星紀年法(12次)は十二辰に対応し、 大梁は酉年となる。 ・・・月踵夾鐘 【緊句】 古代楽12律の一名称だが(黄鐘 大吕 太簇 夾鐘 姑洗・・・) 農歴にも使われ、夾鐘は2月。(11月が頭) …即位@飛鳥浄御原宮は天武天皇2年(673年癸酉)2月27日 清原大宮 昇即天位 【漫句】 ❻《跨周王》(本朝天皇は中華帝国皇帝と同格と言うか、それ以上。) ┌──道 道徳を2つにわけている。 │┌─軼 過ぎる 抜け出る ││┌軒后黄帝 └│─徳 ┼└─跨 跨ぐ 跨る ┼┼└周王 【緊句】 ┌──握 │┌─乾符天が皇帝に授けるお印 ││┼而 ││┌ハ 六合天地四方(宇宙全体) └│─得 ┼└─天統 ≒皇統(天の秩序) ┼┼│而 ┼┼└包 八荒 【長句】 ≒八紘 八方の果て(全世界)[末尾注] ┌──乘 二気陰陽 │┼┼ 之 正 └──齊 五行 ┼┼┼ 之 序 【長句】 ┌──設 神理 │ 不測不可思議な人知を超えた優れた理路 │ 靈異顕示能力があるということでもあろう。 │┼┼ 以 奬俗 └──敷 英風 下の者を導く優れた教え 我來圯橋上,懷古欽英風。[李白:「經下邳圯橋懷張子房」] ┼┼┼ 以 弘國 【長句】 (この箇所はよくできている。中華帝国で通用する観念を網羅的とも思えるほどカバーしているからだ。しかし、本朝で支配階層が積極的に取り入れているのは、この漢詩の冒頭で示された易経であろう。中華帝国のゴチャマゼ感覚をママ受け入れている様子がよくわかる。 しかも、一歩踏み込んだ書き方をしている。倭に全く無い観念の天帝授与の"乾符"を登場させているからだ。これは、高天原由来のレガリアと同類とは言い難い。このことは、高天原の存在を組み入れようが無い思想として、仏教以外も流入していることを示していると言えよう。と言うことは、そのような宗教とも併存可能な社会と言い切っているようなもの。実に鋭い指摘。 実際、天武天皇は仏教の取り入れ姿勢も見せており、その辺りは極めて柔軟なのである。 ❼《最後はベタ褒め。》 官僚としてよくある姿勢と言えなくもないが、法治中央集権国家を樹立した天皇であり、特別な存在として認識していたと見るべきだろう。 重加 【緊句】・・・<重加/しかのみにあらず> ┌────智海 (仏教用語:"漸次趣入深廣智海。") │┼┼┼┼┼ 智慧廣大,譬如海也。 │┌───浩瀚 ("載籍浩瀚"として使われる言葉) ││┼┼┼┼ 広大で大量。 ││┼┌──潭探 上古 (浮かび上がれず脱出が難しい。) ││┼│┼┼┼ 水が淀んで深い場所。 └│───心鏡 ┼│┼│┼┼ 鏡のように曇りなく澄んだ心 ┼└───煒煌 ≒輝煌(e.g. 戦果輝煌) ┼┼┼│┼┼ 明らかに輝く様子 ┼┼┼└──明覩 先代 =睹 【平隔句】 ┼┼┼┼┼┼┼ じっと見つめる。 (e.g. 聖人作而萬物覩@易-乾) ┼┼┼┼┼┼┼ 先代の時代が見える訳だ。 -------------- [注]八荒≒八紘[「淮南子」堕形訓] 道教的中華帝国の世界観である。 《九州》 西北台州肥土 正北泲州成土 東北薄州隱土 正西弇州並土 正中冀州中土 正東陽州申土 西南戎州滔土 正南次州沃土 東南神州農土 【土:九山】會稽 泰山 王屋 首山 太華 岐山 太行 羊腸 孟門 【山:九塞】太汾 澠厄 荊阮 方城 肴阪 井陘 令疵 句注 居庸 【澤:九藪】越之具區 楚之雲夢澤 秦之陽紆 晉之大陸 鄭之圃田 宋之孟諸 齊之海隅 趙之鉅鹿 燕之昭餘 【八風】 西北麗風 北方寒風 東北炎風 西方飂風 ____ 東方條風 西南涼風 南方巨風 東南景風 【六水】河水 赤水 遼水 K水 江水 淮水 《八殥》 西北大夏海沢 北方大冥寒沢 東北大沢無通 西方九区泉沢 __九州__ 東方大渚少海 西南渚資丹沢 南方大夢浩沢 東南具区元沢 《八紘》 西北一目沙所 北方積冰委羽 東北和丘荒土 西方金丘沃野 __八殥__ 東方棘林桑野 西南焦僥炎土 南方都廣反戶 東南大窮眾女 《八極》 西北不周之山幽都之門 北方北極之山寒門 東北土之山蒼門 西方西極之山閶闔之門 ___八紘___ 東方東極之山開明之門 西南編駒之山__白門 南方南極之山暑門 東南波母之山陽門 ------------------------- 📖格調高き天武賛(漢文) 📖飛鳥清原大宮天皇讃漢詩読解【附】 (C) 2021/2024 RandDManagement.com →HOME |