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■■■ 「古事記」解釈 [2022.10.12] ■■■
[歌鑑賞10]宇陀の高城に鷸羂張る
【自軍兵】@東遷戦闘勝利
宇陀能多加紀爾うだのたかきに 志藝和那波留しぎわなはる 和賀麻都夜わがまつや 志藝波佐夜良受しぎはさやらず 伊須久波斯いすくはし 久治良佐夜流くぢらさやる 古那美賀こなみが 那許波佐婆なこはさば 多知曾婆能たちそばの 微能那祁久袁みのなけくを 許紀志斐惠泥こきしひゑね 宇波那理賀うはなりが 那許婆佐婆なこはさば 伊知佐加紀いちさかき 微能意富祁久袁みのおはけくを 許紀陀斐惠泥こきだひゑね
<疊疊> エエ 志夜胡志夜しやこしや 此者こは"伊碁能布曾"いごのふぞ
<阿阿> アア 志夜胡志夜しやこしや 此者こは嘲咲者也(あざわらふぞ)
㉒(7-6)-(5-7)-(5-6)-(4-5)-(5-6)-(6-5)-(5-5)-(7-6)
(2=5-7)-(2=5-7)

    爾 卽控出斬散
    故 其地謂"宇陀之血原"也
    然 而
    其弟宇迦斯之獻大饗者悉賜其御軍
    此時歌曰:

宇陀の高城に  宇陀の丘上で
鷸羂張る  鴫の仕掛け網を張って
吾が待つや  我は待っていたところ
鷸は障らず  鴫はかからずに
いすくはし  予想もしていなかった
鯨障る  鯨(の様な大鳥)が掛かった

先妻が  古い妻が
肴乞はさば  食べ物を強請れば
立ち柧棱の実の無けくを  立ち蕎麦の様にほとんど実無しのものを
こきし聶ゑね  分けてやる
後妻が  新しい妻が
肴乞はさば  食べ物を強請れば
柃実の多けくを  一榊の様に身が詰まっているものを
こきだ聶ゑね  分けてやる

"疊々" しや越や  エ〜エ〜
此は威のごふぞ  これは握りつぶすべきもの
"疊々" しや越や  ア〜ア〜
此は嘲咲らば  これは嘲笑もの

文章上は、即位前の交戦時の御製。兄宇迦斯が死に、弟宇迦斯が饗応の宴席を設定したが、献上されたものはすべて御軍に下賜とあり、そこで謳われたとすれば歌舞だろうから、実際には軍人歌と見た方がよさそう。

中味を云々するような歌ではなく、単なる囃子言葉に近いと見なされがちの歌である。

コーダ部分は、どう見ても、皆で囃す言葉としか思えない上に、<嘲咲者>で終わっているから、それで結構と云えばその通りではあるが。正直に、言っていることがさっぱり理解できないのでお手あげ、と書いた方がよいのでは。

ただ、大和朝廷樹立時の歌としては、この歌が最初であるし、他は討伐歌と婚姻歌なので、朝廷樹立に至った寿ぎの歌として位置付けられているのかも。
 📖久米部歌謡こそ和歌原型 📖「古事記序文講義」(6:久米歌謡の意味)

従って、よく考えてとりかかるべきだろう。
完璧に打ち負かして勝利に酔い、敵を嘲笑う囃子詞だと言っても、意味ない言葉を羅列し、ただただ大騒ぎする無頼漢の宴会ではないのだから。(・・・と、言うのも実は全くの間違い。「酉陽雑俎」の指摘でわかったが、殺戮厭わずの強固な強盗集団では、宴会以上に組織上重要な儀式は無いし、そこでは独特の礼節が貫かれていたりする。)もちろん、部分的には、いくらでも細かく検討できる訳だが、俯瞰し、思い巡らすのも悪くなかろう。
📖実が乏しき三角錐"団栗" 📖眞賢木・麻都婆岐(真椿)・柃・眞拆 📖「古事記」は蕎麦食存在示唆

とはいえ、一番の問題は、鯨。突然登場して来れば、誰だってナンダカナの一撃を喰らう。この調子では、解釈しても無駄だろうと諦めがちになって当然。しかし、久治良には、魚類文字ではなく、鳥類文字を当てるべきで、<くぢら>が似つかわしいという説も存在することを忘れるべきではなかろう。美味い鳥肉を期待したものの、これでは煮ても焼いても喰えぬ、と大笑いの態ということになる。

古女房と新妻の話も、戦勝とどう係わってくるのか、どうも要領を得ない。

お囃子然とした箇所も、意味が確定しているとは言い難い。小生は以下の様に考えた。・・・
志夜胡志夜しやこしやは、"しや(罵倒言葉)-(御)こしや"で、"馬鹿野郎がわざわざお出で下さったぞ"という意味。
"伊碁能布曾"いごのふぞは意味不詳。
「日本国語大辞典」によれば、延佳本では伊能碁布と順序が変わって筆写されており、音も確定しているとは言い難いようだ。古くは単字<イコノフ>と見られていたらしいが、期剋いのご-ふ(相手に迫って威勢を示す。[漢語:厳格規定期限])の誤りと見ているようだ。

久米部が親衛隊であろうが、どう考えても、これは狩猟から戻っての大宴会での戯歌以外のなにものでもなかろう。それが、宴会での定番歌化したと考えざるを得まい。

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