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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.6.29 ■■■

柳葉魚

柳の葉が魚になる話が収載されている。

河陽城南百姓王氏,莊有小池,池邊巨柳數株。
開成末,葉落池中,旋化為魚,大小如葉,食之無味。
至冬,其家有官事。
  [卷四 物革]
河陽城の南での話。
[注]河陽城:現在の河南省孟県。洛陽の東北約30Kmの黄河対岸にあり、安史之乱[755〜763年]では史思明が洛陽を簡単に落としたが、河陽城は撃破できなかった。
百姓 王氏の荘園内に小池あり。
その傍に巨大な柳が数株あったという。
開成年間
[836-840年]末の頃である。
柳の葉が池の中に落ち、同じ大きさの小魚に変わった、と。
食べてみると、ほとんど味を感じなかったそうな。
その後、冬になって、同家に訴訟事件がふってわいた。


柳については、段成式:「折楊柳 七首 其一」をついつい引用してしまい、逍遥というほどの知恵は無いものの、その辺りを眺めてしまったことがある。
   「羽 (鳳, 烏)」・・・「折楊柳詩」
思うに、柳とは、華やかな宮廷文化が咲き誇った頃の象徴でもあり、落葉とはそんな時代が終わったことを意味しており、傷心の面持ちで暮れ逝く春を眺めているといった感じか。

それがどうして魚と関係するのかは、よくわからん。
一寸、柳と魚の風習を眺めてみるとするか。・・・

「禮記月令第六」では、魚は青旗。選定の考え方がよくわからぬが。
孟春の月,---魚上冰,獺祭魚,---
季春之月,---天子居青陽右個,乘鸞路,駕倉龍,載青旗,衣青衣,服倉玉。---
     薦鮪于寢廟,乃為麥祈實。
季夏之月,日在柳,昏火中,旦奎中。
季秋之月,日在房,昏虚中,旦柳中。
季冬之月,---命漁師始漁,天子親往,乃嘗魚,先薦寢廟。

「大戴禮記夏小正」だと鮪。
正月:---
   魚陟負冰。陟,升也。負冰云者,言解蟄也。---
   獺獻魚。獺祭魚,其必與之獻,何也?
    曰:非其類也。祭也者,得多也,善其祭而後食之。
    “十月豺祭獸”,謂之“祭”;“獺祭魚”,
    謂之“獻”;何也?
    豺祭其類,獺祭非其類,故謂之“獻”,大之也。---
   柳
[=ひこばえ]也者,發孚也。---
二月:---
   祭鮪。祭不必鮪,記鮪何也?
    鮪之至有時,美物也。
    鮪者,魚之先至者也,而其至有時,謹記其時。---
三月:---
   委楊。楊則苑而後記之。---

う〜む。大海の魚を内陸の儀礼で使うのか。春の指標なのだろうが、樹木だと"春は柳"のようだ。それなら、春らしさを感じさせる淡水魚を使ってもよさそうなもの。
と言うか、正式儀礼ではないが、宮廷ではそんな魚を食べていたのだろう。

現時点では「柳葉魚」[→]は誰でも知っているが、唐代にそのような単語があったとは思えない。もともとシシャモ系統は北太平洋の各水域の"土着"種であり、それ以外の地で知られていた筈がなかろう。(類縁:胡瓜魚/Arctic rainbow smelt,樺太柳葉魚/Capelin,白魚/Icefish)
シシャモは海棲イメージが強いにもかかわらず、「柳葉魚」と呼ばれるのは、河を上るタイプだったから。
と言うことは、同様な習性の魚なら、そのように呼ばれている可能性もあろう。そうなると、該当するのはワカサギ系か。淡水魚だが、もともとは海棲らしいから。ただ、類縁も入れても、洛陽辺りに出没しそうにはなさそうな魚である。(公魚 or [ワカサギ]/Japanese smelt[→],石狩,千島,千魚[チカ]/Smelt[→],Surf smelt,Delta smelt)

さすれば、柳葉魚形で遊泳性の淡水魚しかありえそうにない。要するに、雑魚である。
ただ、普通はそう呼ばず、"ハヤ"。鮠という漢字表記はあるが、日本流の当て字である。
代表種としては"追川"だと思われるが、他の種も含めた広い概念である。(高鮠[タカハヤ]/尖頭,追河[オイカワ][→]/平, or 石斑魚[ウグイ]/珠星三塊魚,油鮠[アブラハヤ]/拉氏,川[カワムツ],沼[ヌマムツ])これらのなかでは、"柳鮠"と呼ばれる種もある。どれも形の上では大同小異であるから、柳の新葉が出た時期に沢山やってくるということなのだろう。

しかし、これらは日本ならではかも。大陸では、もっぱら大型魚狙いであり、雑魚に興味を示すとは思えないからだ。ただし、中型も獲り立てはえらく美味しいと感じるらしい。それは鮒。但し、洞庭湖産。料理としては、「喜頭魚湯」だろうか。
なかでも、洞庭湖の西続き柳葉湖に棲む地場の鮒、柳叶の評判は圧倒的だったようだ。
魚之美者:洞庭之,東海之。醴水之魚 「呂氏春秋卷十四 本味」
となれば、天子の食卓にこの鮒料理を並べることが要求されたに違いなかろう。
揚子江の洞庭湖から、長安まで、活魚が運ばれたということ。このような贅沢が当然の如くに行われていたのでは。
成式も、食する機会を得たクチだと思うが、こうした動きを批判的な目で眺めていたと思う。

それがわかるのが、冒頭の奇譚。
柳葉湖@常コの魚に味わいなど無いと言うこと。

そんなものを食していると、死に急ぐことになるゾ、と。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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