表紙 目次 | ■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.8.18 ■■■ 五香の一体化哲学"創造(想像)"とは何を意味するのか考えさせられる、香木話。[卷十八 廣動植之三 木篇]・・・一木五香: 根 旃檀, 節 沉香, 花 雞舌, 葉 藿, 膠 棊、。 記載されているお香はこんなところ。 【旃檀】(竺法真的表現) =白檀(陶隠居的表現)=檀香(一般)=Sandalwood "旃檀"という名前は間違い易い。→ 「端午の節句の由緒ある木」[2014.5.5] 【沉香】 =沈水=伽羅=Agilawood 【雞舌】 =丁子=Clove 【藿】(紫蘇的な香り) =Patchouli 【棊、】(橄欖凝固樹脂) =乳香=靈香=Boswellia 今村は注記の末尾に面白いコメントをつけているので紹介しておこう。・・・ …実在し得ぬ植物で、…確かに妄誕である。 しかし、 幻想上、…信じられていたことは、事実であり、 それを記録したところに意味がある。 学者的な真面目な言い回しなので、わかりずらいが、素人的に言うなら、五つの香を仏教哲学的概念に昇華し、その表象が受け入れられるようになったということ。"生命の樹"のようなイメージができあがったとも言える。 香気的曼荼羅は意味が薄いという主張でもあろう。(これでは、かえってわかりにくいか。) → 「化粧と香」(逸文の"九回香") 密教を例にとって具体的に考えれば、その辺りが見えてくるかも。 よく知られているように、閼伽水、塗香、華鬘、燒香、飯食、燈明を必ず供えることになっている。おわかりになると思うが、お香は不可欠である。しかし、お香ならなんでもよい、とはならない。 成式的に頭を働かせれば、五香が定義されていると見なすことになろう。これは道教の五行的形式主義とは一寸違う。"栴檀(蓮華)+沈水(佛)+丁子(金剛)+藿(寶)+棊、(羯磨)"といった形にならざるを得ないからだ。ここでのカッコ内に当たるのが、根-節-花-葉-膠ということになる。 この5種では、藿がほとんど耳にしない名称であるが、日本は別として、たいていは龍腦(=樟脳)だろう。それを考えると、沈水+丁子+棊、の三香とした方がしっくりくる。 とはいえ、経典(対象仏)によって、様々なやり方が指定されるのが仏教の世界。香料にしても、他にも色々ある訳だし。ちなみに、「木本本草」[→]でとりあげたのは、【蜜香】【安息香木】【龍腦香樹】で、「西洋とペルシアの植物」[→]では、【龍腦樹】【安息香木】【没薬樹】と【ガルバナム(旧約聖書薫香)】【カシア(モーゼの薫香)】【ジャスミン】。 ついでながら、すでに「科学技術と技能」で取り上げた[→]、"科学史家ニーダムによって「中国科学史における一座標」と評価される"[@平凡社]、北宋 沈括[1030-1094]:「夢渓筆談」の卷二十二"謬誤"には、以下のように記載されている。官僚的人物の博学的書物編纂の目からは、成式的な"客観的"姿勢がことのほか面白くなかったことがよくわかる。後世、「酉陽雜俎」は怪奇の書とされる訳だが、「夢渓筆談」はそのような扱いができなかったのが、笑をさそう。・・・ 段成式《酉陽雜俎》記事多誕。 其間敘草木異物,尤多謬妄。 率記異國所出,欲無根柢。 如云: “一木五香: 根 旃檀, 節 沉香, 花 雞舌, 葉 藿, 膠 棊、。” 此尤謬。 旃檀與沉香,兩木元異。 雞舌即今丁香耳,今藥品中所用者亦非。 藿香自是草葉,南方至多。 棊、,小木而大葉,海南亦有棊、,乃其膠也,今謂之乳頭香。 五物迥殊,元非同類。 (参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載. 「酉陽雑俎」の面白さの目次へ>>> トップ頁へ>>> (C) 2017 RandDManagement.com |