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2014.11.6

猪文化を考える [1:現存5種]

猪を考えていると、いろいろと考えがとんでしまう。
実に、親近感溢れる動物であるせいもあろう。まあ、その辺りの感覚は個人差が大きいとは思うが。
   (上野動物園の)陸君に会いに行く [2014.10.19]
その切欠は、3万5千年前とさスラウェシ(セレベス)島のバビルサ(鹿的猪)絵。
   洞窟壁画に想う[2014.10.22]
絵画と文字は違うものとはいえ、「手」の表現様式が決まっていたとすれば、それはなんらかの意味を持つ象形の始まりと言えるのではなかろうか。甲骨文字に至るまでの時間はとてつも長いとはいえ、それが端緒では。
そうなると、漢字表現で注目すべきは猪といえよう。

この文字、偏だが、本来は𧰨偏なのでは。そうなると、豬だが、この旁は者ではない。意味深。
   「豕」考[2014.10.26]
   陸棲毛類四脚動物の文字分類 [2014.11.4]
豕に「丶」を加えた漢字「」も大いに気になった。「屠」殺にも同じ文字変化が見られるからだ。よく見れば、家畜のブタと考えられる「豬」の偏には「丶」が無いものの、旁の者にはあるではないか。
   「尸」考[2014.10.27]

家畜のブタと野生のイノシシの境界が曖昧なせいもあるが、(イノブタの話ではなく)ヒトが家畜化したのか、イノシシが家畜化の道を選んだのかは、なんともいえぬという気分になるからでもある。
せっかくだから、すこし頭を使ってみようか。灰色の脳細胞ではないので、たいした話はできないが。

その第一弾として、イノシシ族を俯瞰してみることとしよう。
すでに触れたが、その再構成ということで。
   猪家の系図 [2014.10.23]

イノシシの元祖形はユーラシア大陸を闊歩していたEntelodonと見てよさそうだが、これだけ大きいと環境変化に対応するのは難しいとみえる。
現生種は、皆、小振り。米州大陸のペッカリー系を除いて眺めると、ほぼ5種類。多様化しているとは言い難い割に、ユーラシア大陸のどこにでもいるような動物である。野生の家畜化と家畜の野生化が同時進行したため、「猪&豚」が圧倒的な地位を占めているというに過ぎない訳だ。ヒトとそっくりである。

冒頭のバビルサだが、今ではニッチ的にスラウェシ島で細々と生活しているが、もともとはアジアの森に住んでいた動物で、豹の獲物でもあったということでは。
一方、イノシシは河辺好きであり、虎の獲物だと思われるが、こちらはヒトや類人猿と懇意になることにより、餌食になることを避けると同時に家畜化へと突き進んだということだろう。
東南アジアの多雨林地域でのヒトの入植で運命が分かれたのだと思う。バビルサは森が平原に変えられる過程で、豹ともども衰退の道を歩む以外になかった訳である。そして、豚が進出してくるのだから、棲家は次々と奪われていく。
ヒトとの親和性に欠けていた小人猪も同じ運命をたどってたと見てよさそう。ヒトの進出がなさそうな高地の一部で、かろうじて生きていけそうなニッチで生き残っているだけだろう。

ユーラシアの猪
猪&豚/pigs[全域] 及び 親類(疣髭あり)[島嶼]
 小人猪/Pygmy hog[ヒマラヤ山麓孤立狭域]
バビルサ/Babirusa[スラウェシ熱帯雨林]

それが実態か否かはわからぬが、アフリカの状況から推測すれば、それ以外に考えられないからだ。

アフリカ-樹林系
森猪/giant forest hog
  @熱帯雨林帯多湿高原地域
   日射回避可能領域(森-草地のモザイク)
  [東側]エチオピア高地 & ケニア山高地
  [中央]コンゴ-ウガンダ国境山地
  [西端]ギニア高原
赤河猪/Red river hog
  @熱帯雨林と多湿サバンナの谷地,河湖沼近縁地域
  [中央]コンゴ河
  [西側]西アフリカ
 河猪/Bushpig
  @疎林帯川域
  [東南]広域
  [島嶼]マダガスカル,コモロ

アフリカ-平原系
疣猪/(common) Warthog
  @サバンナと疎林の平原地帯
  [東側]アフリカの角内陸部
  [中部]ケニア,タンザニア
  [南部]ボツワナ,ナミビア,ジンバブエ,南アフリカ北部
 沙漠疣猪/Desert warthog
  @希薄な低木植生の乾燥平原地域(非高地)
   水源がある人家周辺
  [東側]アフリカの角(ソマリアと隣国)
  [南端]南アフリカの一地方(ケープ)・・・絶滅

ただ、アフリカの場合はイノシシの家畜化は全く手がつけられなかたようだ。アジアと違って、ヒトの長期定住は難しかったので、混在生活ができなかったのだろう。
特に、水辺にはツェツェバエが多いこともあるし。この虫が媒介する睡眠病は、人獣共通感染症であり、猪と一緒に暮らすのは危険なことこの上なし。罹患者が発生したら、いち早く、その場所からスタコラ逃げ去るしかないのが現実だったろう。(大帝国がサハラ以南に手を出さなかったのは、おそらくこの病気のせい。地域支配どころではないからだ。)

一方、マラリア罹患の危険性はあるものの、アジアの多雨地帯では早くからヒトが定住していたと思われる。イノシシにとって、ヒトのお側で生活というスタイルも悪くない。
水辺近くで狙う虎や、樹上の豹も、ヒト住居域は避けるだだろうから、襲われるリスクが減るのは有り難い筈。
しかも、ヒトは雑食で、果実採取活動に長けており、イノシシが採れないようなものも対象としている上に、余りものをくれるという点では鷹揚そのものだし。

ヒトにとっても、猛獣をいち早く察知するという点では、傍らで勝手に棲んでくれるのは有り難かったろう。必要な時は、食料にもなる訳だし。
文明が始まる前段には、ヒトとイノシシの共生の社会があったのではないかという気がする。

上記で「猪&豚」と記載shじたように、ユーラシアに棲む野生の猪と家畜の豚は、外見上違って見えても、異種とは言い難い。豚の様々な品種、あるいはヒトの肌色や体格変化同様に、地域的環境変化に応じた対応ということになる。以下のように考えるようだ。
現生動物の状況
・猪と豚の交配可能(イノブタ)で染色体数同一
・第三紀始新世化石歯並保持
  (切歯+犬歯+前臼歯+後臼歯)
・多岐な類似形質
  -剛毛
  -尾房/乳頭の数/配列様式
  -ウリ坊の外見(縦縞模様と毛色)
化石の状況
・ユーラシア各地出土
  -豚は8千年以上前ありとも
  -狩猟された猪は1万年以上前

このことは、この地域で野生の猪は地理的交流があったことそ示す訳だし、家畜とは言うものの半飼育の自由繁殖であったことを意味していると考えるべきだろう。家畜の再野生化も少なくなかっただろうし、家畜されていても、猪との交雑も放任されていたと見てよかろう。
家畜とは繁殖をヒトの管理下におくことという定義からすると、かなり曖昧ということになる。ニワトリとセキショクヤケイの関係も同じスタイルが貫かれているようだ。
野生と家畜の間に線を引くような概念がなく、ヒトの側にいれば家畜で、余り仲良くない個体は野生というだけということなのだろう。イノシシこそ、ヒトと一緒になって各地に進出した動物と言えるのかも。

(参考) 黒澤弥悦[東京農業大学「食と農」の博物館]:「イノシシがブタになるとき −どのように始まるのだろうか?」 All about SWINE 42, 49-57 日本SPF豚研究会

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