表紙 目次 | 魚の話 2015年2月7日 びくにん の話比丘尼買い 奇妙な臭さに 味があり・・・余りに品位を欠くか。失礼。 ビクニンとは聞きなれない単語であるが、倭の漢字を当て嵌めるなら「美区忍」となるらしい。ソリャなんのこっちゃとなるが、要するに、そのままだと都合が悪いのでなんとなく意味が通じるように当て字を考えたのだと思う。 そう言えば、ご想像がつく方もおられよう。 そう、「比丘尼」である。 なんだ尼僧かと言う方は真面目な勉強しかしてこなかった方である。現代日本では、夜の街で声を掛けて歩くと法律的には官憲に捉まる訳だが、江戸時代だって名目的には同じようなもの。もっと厳しかったと見た方が当たっていそう。ただ、決まり事があって、これは宗教行為と主張し、少々の小銭を渡して、これで般若湯でもと言えば、逃れられる訳だ。ビクニとは、そうしたご商売の方々に付けられた綽名。 まあ、良いイメージの訳がなく、一種の差別用語と言ってもよかろう。 つまり、不可思議な姿で気味悪き臭気紛々の魚ということ。物理的に臭かった訳ではないと思うが、当然ながら深海魚である。 と言うことで、"真"深海魚、Rat-tail[or Grenadiers/鼠尾鱈]の続き。(和名は、どういう訳か鼠尾と無関係な「底鱈類」。) → とうじんの話[2015年2月4日] 唐人は典型だが、鱈の仲間と言っても、ソコダラは見た瞬間にこれは深海魚だと見破れるほど奇っ怪なお姿。名前から想像ができるほど。・・・紐鱈、臍鱈、遣鱈、槍鱈、鎧鱈、鬼筋鱈。 髭も負けてはいない。・・・茨髭、槍髭、尖髭、鼠髭、天狗髭、鬼髭。 世界中に類似種がいるらしいが、日本海溝やマリアナ海溝を抱える日本近海は珍種の宝庫ではなかろうか。・・・、台湾底鱈、宮古髭、九州髭、紀州髭、駿河鼠鱈、日本饅頭鱈、日本底鱈、樺太底鱈、千鳥髭。 実際、マリアナ海溝では、"とうじん"のページでリンクしたように見事なソコダラの存在が確認されている訳だ。 その研究報告では一番の目玉はビクニンが属すクサウオ/snailfish類のようだ。・・・Setting the final record at 8,143 m, was a completely unknown variety of snailfish, which stunned scientists when it was filmed several times during seafloor experiments. → "New Species and Surprising Findings in the Mariana Trench"[12月17日, 2014] ---Schmidt Ocean Institute's research vessel Falkor [Hadal Ecosystem Studies (HADES) expedition] このリリースのハイライトを漢語表現にしてみると、こんなところか。 海洋最深處發現獅子魚。 8143米深度刷新記録。 神奇的! さて、この「Snailfish/獅子魚」だが、和名がなんと「草魚」である。おもわずソウギョ [→2007年7月6日] と読みそうになるが、クサウオ。臭魚ではないのである。イネ科の草の葉のイメージとも違うし不可思議な命名。 ひょっとすると、日本人的聴能力から、硝子魚(Glassfish)を草魚(Grassfish)としてしまったのではないかとも思ったがまさかそれはあるまい。「魚と貝の事典」によれば、石川県の方言だそうだが、金沢弁の「そりゃクサー」を指すのだろうか。ここらのクサウオはおそらく深海ではなく、浅海棲だろうから、食べても今一歩なということかも。 一方、薄いピンク色の深海魚の鮭比丘尼は煮物が美味だそう。クサウオとはとても比較にならないようだ。 これらは、類縁的には、笠子の仲間>>鰍の仲間>>団子魚/草魚の仲間といった位置付けになっている。・・・ ┌──笠子→かさご[2005年4月15日] ┤┼┼┼眼張→めばる[2005年4月8日] │┼┼┼虎魚→おこぜ[2009年2月27日] ├──鯒[こち] │┼┼┼魴鮄→ほうぼう[2007年10月5日] ├──メルルーサ[銀鱈]→くえ[2005年9月16日] │┼┼┼油坊主→あぶらぼうず[2006年8月11日] ├──鮎魚女→あいなめ[2005年3月11日] │┼┼┼𩸽→ほっけ[2006年7月21日] │┌─鰍/杜父魚[かじか] │├─特鰭[とくびれ]→はっかく[2007年12月14日] └┤ ┼│┌団子魚→だんごうお[2009年11月13日 ] ┼└┤ ┼┼└草魚類/Snailfish/獅子魚 <..//副獅子魚> 洋墨[インキ]魚/Ink snailfish/K體副獅子魚 <..//喉肛獅子魚> 寒天魚/Tadpole snailfish/大洋喉肛獅子魚 <..//獅子魚> 草魚/Tanaka's snailfish or Glassfish/細紋獅子魚[稱田中] 比丘尼/Cubed snailfish/方斑獅子魚 鮭比丘尼/Salmon snailfish/細鰭短吻獅子魚 <蒟蒻魚//短吻獅子魚> 黒蒟蒻魚//平鰭短吻獅子魚 −/Blacktail snailfish/K尾短吻獅子魚 <−//晶獅魚> 阿葉茶//日本海晶獅魚 <水晶魚/Blotched Snailfish/透明獅子魚屬> 上記の和名だが、こんな風に漢語で書くとどんな魚かわかるだろう。獅子魚と呼ぶ中国で通じるかはわからぬが。・・・ "洋墨魚"、身體是K彩。 "寒天魚"、身體是魚膠。 "蒟蒻魚"、身體是果凍。 "水晶魚"、身體是透明。 しかし、"比丘尼"はどうにも表現のしようもない。"草魚"もお話にならない。アバチャに至っては何を意味するのか考えもつかぬ。まさにお手上げ。 そんな訳のわからぬところが"真"深海魚らしさかも。 「魚」の目次へ>>> トップ頁へ>>> (C) 2015 RandDManagement.com |