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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.3.19] ■■■
[263] 鳩摩羅什
鳩摩羅什の話がポツンと収載されており[→天竺伝来釈迦像]、仏教普及の大恩人の割には実にそっけない扱い。

達磨の禅宗系を除けば、宗派形成の祖として欠かすことのできない僧侶であるにも拘わらずだ。その周囲の僧侶についても同じように見える。
現代発想だと、翻訳が果たして知的営為として第一級の業かという気分があったのだろうか、となるが、「今昔物語集」編纂者の一種捻くれた"嗜好"と考えた方がよいかも。

マ、そう思うのは「酉陽雑俎」を読んでいて感じたことでもある。さしさわりがあるから、表立って言えないものの、宗教勢力が好む潤色を小馬鹿にしていそうだから。

鳩摩羅什にしても、大恩人であるのは間違いないが、震旦に仏教を広めるという高潔な心で来訪したのではない。住していた国が滅ばされ、長安に連行されたのである。西域諸国を訪問し続けた身ではあっても、母国観は強かった筈で、その地を侵略から救うことはできなかったのである。官僚としての勤めをも精力的にこなしている仏教徒としては、そこらを評価することはできる訳がないのである。
強引に推定するなら、釈迦尊像を天竺から持ち出した鳩摩羅什の父親にしても、理由は祖国存立が危うくなって出奔ということかも知れないのだ。

とはいえ、鳩摩羅什という翻訳僧あってこその、東アジアのインターナショナルな"大乗"仏教が広がったのは間違いない。
しかし、「今昔物語集」編纂者はそこらをあえて語らないことにしたと思われる。

先ずは、鳩摩羅什の訳僧内での位置付けを見ておこう。全体観を把握した上で、流れを感じながら読めるように工夫されていることがわかる。列伝の細かな内容記載の丸暗記的理解ではなく、概念的に流れをとらえることができるにはどうしたらよいか考え抜いた結果ではなかろうか。・・・

┼┼【秦】
┼┼┼利房[巻六#1](非訳経)
┼┼【後漢】
┼┼┼(安息)世高
┼┼┼(大月氏)婁迦讖[147年-n.a.]
┼┼【三国-西晋代】
┼┼┼(康居)僧会[n.a.-280年][巻六#4]
┼┼┼(康居)僧鎧@洛陽 白馬寺
┼┼┼(天竺〜西域)法護/敦煌菩薩[239-316年]
┼┼┼仏図澄[232-349年](非訳経)
┌──┘
竺僧朗@泰山
竺法和@四川
竺法汰@東晋
"釈"道安[314-385年]…"安・支・康・竺"廃止
│ ⇳ 説一切有部曇宗》…主要論蔵真諦/玄奘新訳後⇒舎宗
慧遠[334-416年]
┼┼《念仏結社白蓮社》402年@廬山
┼┼┼支婁迦讖[訳]:「般舟三昧経」(禅観修法)
┼┼  僧:仏陀跋陀羅、仏陀耶舎、慧永、慧持、竺道生、慧叡、
           慧厳[363-443年] 、慧観、慧遠、道朗、超進、慧叡、慧嵩、・・・

┼┼  居士:劉程之、宗炳、雷次宗、周続之、・・・
┌─┘
【五胡十六国代】
┼┼法顕[337-422年]往陸復海路■1■訪天竺「仏国記」
┼┼仏陀跋陀羅/覚賢/天竺禅師[359-429年]…「華厳経」@建業
┼┼鳩摩羅什[344-413年][巻六#5][→天竺伝来釈迦像]
└──┤
┌──┘《大乗経典宗》
竺道生、慧観、僧肇、僧叡、道融、曇影、慧厳、道恒、道常、・・・

┼┼【南北朝】
┼┼┼菩提達磨[382年-n,a.]…震旦禅宗開祖 (非訳経僧)[巻六#3]
┼┼┼求那跋摩[367-431年]…智[講述]:「摩訶止観」では修行のお手本。
┼┼┼曇無讖↓涅槃宗
┼┼┼菩提流支[n.a.-527年][巻六#43][→震旦浄土宗租曇鸞]
┼┼┼道寵《地論宗北道派》
┼┼┼真諦[499-569年] 《摂論宗》(瑜伽行唯識学系)
┼┼┼└─説一切有部舎宗旧譯派》慧ト
┼┼┼┼┼┼┼┼法泰、智ト、智敷、靖嵩、道岳
┼┼【隋】
┼┼┼闍那崛多[523-600年]@大興善寺…「法華経」増補 「仏本行集経」
┼┼【唐】
┼┼┼善無畏[637-735年]…密宗 "胎蔵界曼荼羅"[巻六#7]
┼┼┼実叉難陀[652-710年]…「華厳経」(武則天招請)
┼┼┼[635-713年]海路■3■訪天竺「南海寄帰内法伝」
┼┼┼不空金剛[705-774年]…密宗[巻六#9]
┼┼┼仏陀波利/覚護[n.a.-683年-n.a.][巻六#10][→仏陀波利三蔵]
┼┼┼玄奘[602-664年]陸路■2■訪天竺「大唐西域記」[巻六#6][→般若心経]
┼┼┼├─説一切有部舎宗新譯派》普光、法寶
┼┼┼
┌┬─┘《法相宗》 [→興福寺僧一瞥]
窺基[632-682年]@慈恩寺
││
慧沼/州大師[650-714年]
││
智周/濮陽大師[668-723年]

【本朝】
道昭@興福寺・薬師寺
┼┼┼霊仙(804年入唐 興福寺僧)…師:天竺僧 般若@長安醴泉寺 毒殺

《大乗経典宗》と勝手に名称を付けたが、その鳩摩羅什系の各宗派の系譜はこんなところになる。
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┼┼┼鳩摩羅什
┼┼┼《涅槃宗》…「方等泥經」「大般泥經」「大般涅槃經」
┼┼┼竺道生/善導大師、慧観、慧遠、慧叡[355-439年]、道朗、超進
┼┼┼曇無讖[385-433年:暗殺]…中天竺渡来 [訳]「涅槃経」
┼┼【宋代】
┼┼┼ 「涅槃経疏」…慧成、曇無成、僧荘、道汪、静林、慧定、
        曇斌、超進、法瑤、道登、曇度、道成

┼┼【隋代】
┼┼┼慧遠@浄影寺、智徽、法礪、道綽、・・・
┌──┘
【唐代】
┼┼道宣、法寶
慧遠
《浄土宗》
曇鸞[476-542年]…開宗

[536-607年]
││
道綽[562-645年]@玄中寺

善導/光明大師[613-681年]

承遠[712-802年]…天台門下

法照/大悟禅師[746-838年]>…示寂2年後円仁五台山入山("五会念仏")

少康/後善導[n.a.-805年]
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┼┼┼鳩摩羅什
┼┼┼《成實宗》…鳩摩羅什[訳]:「成実論」412年
┼┼┼僧導
┼┼┼寿春
┼┼┼道猛[413-475年]@興皇寺(建康)
┼┼┼
┼┼┼↓不詳【本朝】
┼┼┼百済僧道蔵@元興寺・大安寺
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┼┼┼_1文殊菩薩
┼┼┼_2馬鳴
┼┼┼_3龍樹
┼┼┼┼┼(4a龍智−清弁−智光−師子光)
┼┼┼_4提婆
┼┼┼_5羅羅多
┼┼┼_6莎車王子
┼┼┼
┼┼┼鳩摩羅什
┼┼┼《三論宗》…龍樹:《中論》《十二門論》 提婆:《百論》
┼┼┼竺道生[n.a.-434年]
┼┼┼
┼┼┼(−僧肇[384-414年]−法融−僧叡[378-444年]−曇影−慧觀−道恆−)
┼┼┼
┼┼┼曇済
┼┼┼
┼┼┼道朗
┼┼┼
┼┼┼僧詮
┼┼┼
┼┼┼法朗[507-581年]@興皇寺(江南)
┼┼┼茅山大明
┼┼┼嘉祥大師吉蔵[549-623年]…天台智と交流
┼┼┼
┼┼┼【本朝】
┼┼┼慧灌…625年渡来高麗僧@元興寺⇒井上寺
┼┼┼
┼┼┼呉僧(父)福亮[658年「維摩経」講賛]
┼┼┼(子)智蔵@法隆寺[入唐僧]
┼┼┼││@元興寺
┼┼┼│└智光[709-780年]、頼光…浄土論
┼┼┼入唐僧道慈[n.a.-744年]@大安寺[702年入唐僧]
┼┼┼
鳩摩羅什はもともとは部派仏教に属しており、西域で様々な思想に触れ、大乗思想もそのうちの一つだったと見てよかろう。
従って、鳩摩羅什前の流れについては想像の域を出ない。
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┼┼┼龍樹
┼┼┼
┼┼┼↓不詳
┼┼┼(部派系説)
┼┼┼明最・神最・嵩多・就多・鑒多・慧多
┼┼┼(法華経翻訳系説)
┼┼┼鳩摩羅什+須利耶蘇摩、善慧大士[497-569年]
┼┼┼↑不詳
┼┼┼《天台宗》 [→法華経」v.s.「華厳経」]
┼┼┼北齊慧文…渤海人
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┼┼┼南嶽慧思[515-577年]
┼┼┼
┼┼┼天台/智者大師[538-597年]…"鳩摩羅什[訳]:「妙法蓮華経」"中心
┼┼┼│     「法華玄義」「法華文句」
┼┼┼
┼┼┼<598年天台山国清寺創建>
┼┼┼章安灌頂[561-632年]…
┼┼┼│     「大般涅槃經玄義」「大般涅槃經疏」
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┼┼┼智威[n.a.-680年]
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┼┼┼慧威[634-713年]
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┼┼┼左溪玄朗[673-754年]
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┼┼┼荊溪湛然/妙樂大師[711-782年]
┼┼┼│     「止觀輔行傳弘決」(摩訶止觀)
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┼┼┼興道[最澄のインストラクター]、普門、元皓、行満、智度、法
┼┼┼<845年国清寺廃止@会昌廃仏⇒851年再建>
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もちろん、《密宗》《佛心宗/禅宗のように、鳩摩羅什以外の訳僧で広まったものもある。上記訳僧から見えてこない宗派についても加えておこう。
《華厳宗》
文殊菩薩

帝心杜順[557-640年]…(受戒)珍禪師

智儼[602-668年]

法蔵[643-712年]

澄観[738-839年]

宗密[780-839年]
【本朝】
〇新羅僧審祥[n.a.]@大安寺…入唐(師は法蔵)
  736年良弁[689-774年]@金鐘寺/東大寺が招請

《戒律宗》
"四分律宗" "釈"慧光大師/光統律師[487-536年]@少林寺
《地論宗 南道派》法上[495-580年]浄影寺慧遠[523-592年]
├・・・−法礪[相部宗]−懐素[東塔宗]
道雲−道洪−智首−道宣律師@終南山−文綱−弘景┬
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【本朝】
鑑真[688-763年]

法進[709-778年]@東大寺戒壇院 初代戒和上

義浄, 他@唐招提寺

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