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■■■ 「古事記」解釈 [2021.3.16] ■■■
[74]借字議論の焦点
序文に口誦の"音声"の語彙を、どう文字化表記するかの検討結果が記載されている。

現在なら、コピーや印刷が簡単に複製配布できるので、事細かに変換ルールを掲載するが、そうもいかないから、特に気になった点だけ示すことにしたのだろう。
と言っても、現代の書籍と同じ形式で、序の最後に、漢字表記文の音訓ををどのように読むかは書いてあるし、本文を読めば、"○字以上XX字以音"という入注があり、解説が不可欠という訳だはない。

にもかかわらず、序で、別途この問題に触れているところを見ると、余程苦労したのだろう。と言うか、冗談的借字を持ち出したりして、訓の漢字表記を大いに楽しんだのでは。
「古事記」はエスプリが効いた書でもあると見てのことだが。

稗田阿礼は長期間に渡って様々に書き著わされている文字を見て、歌謡を行ってきた経験から、一家言あっただろうし、漢籍で表意文字としての漢字の意味とよく知る太安万侶も色々考えがあった筈だから、両者で膝詰め検討してもおかしくない。叙事詩をどのように文字化すべきか、とことん議論していてもおかしくないし。
だからこそ、無名に近い稗田阿礼の名前を序にどうしても残しておきたかったと考えるべきだろう。

さて、その記載文だが、たいした内容ではない。たった、これだけ。・・・
  於【姓】"日下" 謂 玖沙訶くさか
  於【名】""字 謂 多羅斯たらし
    如此之類隨本不改

確かに、現時点でも、誰でもが、日下をどうしてクサカと呼ぶのか、不思議に思っている訳で、すでに当時からそのような状態と言うことか。
「古事記」はそれに対する解答を示していると言ってもよいだろう。以下に"日下"と記載されている箇所を並べたが、常識的には、生駒辺りの地名"クサカ(草香)"を出自とする一族の名称となろう。
そうだとすれば、日をクサと呼ぶのは、部首省略漢字としての"日"(草⇒早⇒日)と考えるしかあるまい。

一方、"帶"をタラシと読む理由については、特に、示唆するような情報は記載されていないように見える。ただ、"投棄御帯所"として帯を使っているから、表意文字化するなら"垂らし"とするのが自然。
中華帝国側の受け取り方を参考にすれば、倭国が"天垂らし"彦[男王]と呼んだことを、【姓】と【字】と受け取ったようにも見える。・・・
"俀王【姓】阿毎【字】多利思北孤【號】阿輩雞彌"が600年と607年に遣隋使。 [「隋書」卷八十一列傳#46東夷-俀國]
"帶"の使用は余りに多く、個別IDとは考えにくいから、<御><大><若>のような尊称用語か、なんらかの地名、発祥に関係していそうな<根子><耳><別>といった用語の何れかに当たるのだろう。
「今昔物語集」に、貴種の方々の特別な束帯装束に用いられる石帯の話がある。"帯"は特別高貴を意味する称号とでも考えておくとよいのではなからうか。

*****㊤*****
"垂れる"意味ではないかと思われる箇所に"帯"が用いられている。
 於投棄御所成神・・・
 ・・・遠津山岬
神・・・

*****㊥*****
~倭伊波禮毘古命⇒
❶<神>【大和】【磐余】彦天皇📖畝火 白檮原宮
東征の途中、河内湖楯津(⇒日下江)で長髄彦と戦って敗退。兄は負傷し、その後命を落とす。
 從其國上行之時
 經浪速之渡而泊青雲之白肩津
 此時"登美能那賀須泥毘古"興軍待向以戰
 爾 取所入御船之楯 而
 下立故號其地 謂楯津於
 今者云
日下之蓼津也
神沼河耳命⇒
❷<神>【沼河】<耳>天皇
師木津日子玉手見⇒
❸【磯城】之彦たまでみ天皇
大倭日子鉏友命⇒
❹<大>【大和】すきとも天皇
御真津日子訶恵志泥命⇒
みまつかゑしね天皇📖葛城掖上宮
┬△余曽多本毘売命(尾張連先祖 奧津余曽の妹)
├〇天押帯日子命(祖:春日臣, 大宅臣, 粟田臣, 小野臣,
柿本臣、壹比韋臣, 大坂臣, 阿那臣, 多紀臣, 羽栗臣, 知多臣,
牟邪臣, 都怒山臣, 伊勢 飯高君, 壹師君, 近淡海国造)
大倭帯日子国押人命
大倭日子国押人命⇒
❻<大>【大和】<"国押人"天皇
大倭根子日子賦斗邇命⇒
❼<大>【大和】<根子>ふとに天皇
大倭根子日子国玖琉命⇒
❽<大>【大和】<根子>"国照"天皇
若倭根子日子大毘毘命⇒
❾<若>【大和】<根子><大>"日々"天皇📖春日之伊邪河宮
┬△意祁都比売命(丸邇臣先祖 日子国意祁都命の妹)
└〇日子坐王
┼┼├┬△沙本大闇見戸売(春日 建国勝戸売の息女)
┼┼│├〇沙本毘古王
┼┼┼┼(祖:日下部連, 甲斐国造)
┼┼└┬△袁祁都比売命
┼┼┼ (近江 御上祝 が斎 する天之御影神の息女[妹])
┼┼┼├〇山代 大筒木真若王
┼┼┼┼└┬△丹波能阿治佐波毘売
┼┼┼┼┼│  (同腹弟 伊理泥王の息女)
┼┼┼┼┼└〇迦邇米雷王
┼┼┼┼┼┼└┬△高材比売
┼┼┼┼┼┼┼   (丹波 遠津臣の息女)
┼┼┼┼┼┼┼└〇息長宿祢王
┼┼┼┼┼┼┼┼└┬△葛城高額比売
┼┼┼┼┼┼┼┼┼├△息長比売命
┼┼┼┼┼┼┼┼┼├△虚空津比売命
┼┼┼┼┼┼┼┼┼└〇息長日子王
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼…祖:吉備品遅君,針間阿宗君
御真木入日子印恵命⇒
❿<御>真木[槙]イリいにゑ[稲植]天皇
伊久米伊理毘古伊佐知命⇒
いくめ[活目(入墨)]イリいさち天皇📖磯城之玉垣宮
┬△氷羽州比売命(旦波比古多多須美知宇斯王の娘)
├〇印色之入日子命
…茅渟池、狭山池、日下の高津池の造成。
│ 在 鳥取の河上の宮。
│ 作横刀壱仟口を作成(石上神宮に奉納→宮坐→河上部制定)
[12]大日子淤斯呂和気命
├〇大中津日子命>
…祖:山辺別, 三枝別, 稲木別, 阿太別, 尾張国三野別,
│ 吉備石无別, 許呂母別, 高巣鹿別, 飛鳥君, 牟礼別
├△倭比売命(伊勢大神宮 拝祭)
└〇若木入日子命
┬△沼羽田之入毘売命(氷羽州比売命の妹)
├〇沼別命
└〇伊賀日子命
┬△苅羽田刀弁(山代大国之淵の娘)
├〇落別王(祖:小槻山君, 三河の衣君)
├〇五十日日子王
…祖:春日山君, 高志池君, 春日部君
└〇伊登志別王(伊登志部制定:子の代)
日子淤斯呂和気天皇⇒
⓬<大><おしろ[御代]<別>天皇
     …身長一丈二寸 脛長四尺一寸
日子天皇⇒
⓭<若><天皇
中津日子天皇⇒
⓭<>"中"之彦天皇📖穴門之豊浦宮 & 筑紫訶志比宮
┬△息長比売命/神功皇后
大鞆和気命/品陀和気命
品陀和氣命⇒
ほむた[とも/鞆[左手首の内側につける弓具]<別>天皇

*****㊦*****
⑯大雀命📖難波之高津宮
┬△髪長比売(日向之諸県の君 牛諸の娘)
├〇波多毘能大郎子/日下
└〇波多毘能若郎女/長日比売命/日下部命
⑳穴穂御子📖石上穴穂宮
┬△長田大郎女(大日下王の嫡妻)…皇后
《無》
㉑大長谷若建命📖長谷朝倉宮
┬△---同上---
《無》
┬△韓比売(都夫良意富美の娘)
[22]白髪命
└△若比売命
【河内湖草香江(⇒日下江)】付近での譚がある。
  初大后坐日下之時
     自日下之直越道幸行河内
  引田部赤猪子譚の歌:
    日下[久佐加]江の 入江の蓮 花蓮
    身の盛り人 乏[⇔羨]しきろかも

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