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■■■ 「古事記」解釈 [2022.6.8] ■■■
[523]鳥旁漢字を眺めて
「古事記」収載の"鳥類"についてはすでに取り上げて来た。
 📖日本海側鳥信仰はかなりの古層 📖天神系は陸鳥好み 📖天皇代での鳥のイメージ
補遺的に鳥部首漢字の採用状況を眺めておくことにした。魚偏漢字の方針とは異なることが一目でわかる。
≪鳥≫ 📖水鳥 📖山鳥
  【現代用語】鳥鳴鶏
  【古事記用語】鳥鳴鶏
   <鵜(テイ う)><鷺(ロ さぎ)><鴈(ガン かり)
   <鵠(コク くぐひ)><鴨(オウ かも)><鸇(セン はやぶさ)
   <鵝(ガ)><鳰↓>
  【国字】
   いかる しぎ にほ つぐみ
≪隹≫
  【現代用語】難集離
   隻雄雅雇雌雑
  【古事記用語】難集離
   <雖><雀><隼><雁><雉><耀>
≪羽≫
  【現代用語】羽習翼
   翁翌翻
  【古事記用語】羽習翼
   <翔><翠>

上記で一番気にかかる文字は、滅多に使われなくなっている<鵠>。

音なら辞書を見なくても"コク"だろうとなるが、訓はそうはいかない。たいていは上記のように"くぐい"とすることになるが、疑問が浮かばないでもない。久毘と読むとの見方と、果たして共存できるかということで。・・・
 故 今聞高往鵠之音始爲"阿藝登比"
 爾遣山邊之大鶙<此者人名>令取其鳥
 故 是人追尋其鵠

 [歌28]久方の 天香久山 利鎌に さ渡る鵠[佐和多流久毘]・・・
もちろん、東京に住んでいるので現代語的には"くぐい"だから、久毘="くひ"(歌のリズムからすれば3音)で問題無しと納得したいところではあるのだが。
   鵠沼くげぬま@藤沢≒くぐひぬま
何といっても、驚かされるのは、鵠=鶴という見方がある点。理由は知らないが、一般に、"くぐい"は白鳥とされているからだ。
   鵠佐波二鳴[たづさはに鳴く][「萬葉集」巻三#273]
こうなると、白鳥とは、鳥種の大白鳥/黃嘴天鵝を意味せず、白い大きな鳥一般用語とされたりもする。これなら、諸説すべてを包含できるので好都合ということだろうが、そんな曖昧な概念の鳥名がありうるとも思えず、疑問は深まるばかり。
諸説ということで、もう一つ。・・・
   コク鳥≒こうのとり(鸛)
太安万侶は中華帝国での文字の意味についてはかなり研究していたように思われるから、以下を踏まえて鵠を用いていそう。そうなると、鳥種はやはりオオハクチョウということになりそうだ。(鴻[おおとり]=コウノトリと見なす訳だが、鴻=鵠との見方もある。)
  【漢籍】
 循聲而發,發而不失正鵠者,其唯賢者乎![@「禮記」射義]
 陳涉太息曰:「嗟乎,燕雀安知鴻鵠之志哉!」[@「史記」陳涉世家]
 或問:「龍 龜 鴻 鵠 不亦壽乎?」[@「揚子法言」]

それにしても、神仙坐騎譚はある上に長寿吉兆の鳥とされる、鶴の文字が欠けているのはどういうことなのだろう。特徴的な鳴き声の上、習性も姿も違うというのに。大陸では、"似鵠"とされていたりするからか。つまり、すでに「古事記」成立時点で"鶴與鵠相亂"状態と考えるしかなさそうである。

もう一つ気になるのがカイツブリこと"にほ"。"掻いつ潜りつ"鳥のことだが、国字を使っているのが腑に落ちない。
この鳥は留鳥だが、本来的には大陸からの渡り鳥。中華帝国用語を使っておかしくなかろうに。・・・
   鷿鷈/鸊鷉⇒[国字]
"にほ"の当て字が【入([呉音]にゅう/にふ)】と云うことか。「萬葉集」も「古事記」も、"入"を用いた音素記載では、五百の用法はあるが、呉音利用はしていないので、外れかもしれぬが。ともあれ、漢字ママでは画数が余りに多い上に2文字で、とても使えたものではない。と言って、音素表記にはしたくなかったようだ。
そうなると、もともとは"にほ鳥"との2文字表記だった可能性もあろう。
尚、「萬葉集」では音素表記の"にほ鳥"で、鳰は使用していない。・・・
  [巻三#443]香君之 牛留鳥[にほへる君が にほ鳥の]
  [巻四#725]二寶鳥乃 潜池水[にほ鳥の潜く池水]
  [巻五#794]尓保鳥能 布多利那良_為[にほ鳥の ふたり並び居]
  [巻十一#2492]丹穂鳥 足沾来[にほ鳥の なづさひ来しを]
  [巻十二#2947+]尓保鳥之 奈津柴比来乎[にほ鳥の なづさひ来しを]
  [巻十四#3386]尓保杼里能 可豆思加和世乎[にほ鳥の 葛飾早稲を]
  [巻十五#3627]柔保等里能 奈豆左比由氣婆[にほ鳥の なづさひ行けば]
  [巻十八#4106]尓保騰里能 布多理雙坐[にほ鳥の ふたり並び居]
  [巻二十#4458]尓保杼里乃 於吉奈我河波半 多延奴等母[にほ鳥の 息長川は 絶えぬとも]

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