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■■■ 「古事記」解釈 [2023.3.30] ■■■
[646]天日矛の影響甚大
出雲王朝譚と天日矛渡来譚は、「古事記」編纂命の核である皇統譜記載任務からすれば、意味が薄そう。(もっとも、そう思いがちなら、「古事記」とは天皇系譜の正統性を示すための書と考えがちなせいもあろう。)

前者は、<国譲り>なので、国が樹立された経緯があってもおかしくはないものの、後者にはその様な意義があるようには見えない。天日矛とはせいぜいが皇后の遠祖であり、割愛してもよさそうな話に映る。

しかも、しいて収録したくなるようなストーリーでもない。・・・後世の感覚ではあるものの、受精にかかわる話が"賤"的に書かれているし、天日矛がヤクザ的言いがかりで持ち物(赤玉)を召し上げるので、倫理観欠如の王子として描かれている。📖但馬国話には力が入っている
  此沼之邊 一賎女晝寢 於是日耀如虹指其<陰上>
  亦有一賤夫 思異其状 恒伺其女人之行
  故 是女人 自其晝寢時妊身  
[無歌]  📖歌は上品

ともあれ、天日矛渡来譚は<⑮品太天皇[品陀和気命/大鞆和気命]+母[息長帯比売命](天皇称号記載有)段>に唐突に挿入されている印象📖くだら"と"しらぎ"については否めない。多遅摩毛理とも繋がる系譜であり📖「播磨國風土記」の到來人譚を重視何か伝えたいことがありそう。(反儒教で親仏教的なインテリで、段成式(唐代「酉陽雑俎」著者)の姿勢と似ていると踏んでのこと。)

朝鮮半島はガチガチの儒教社会で、中華帝国の属国だが、国内的には小中華思想濃厚な王朝が差配している点が特徴。そのため、非儒教の宗教であっても、宗主国が国教化すれば、徹底した統治を見せつけることに精力が注がれる体質が濃厚。しかし、儒教と習合させるのではなく、上に被せるだけの信仰なので、宗主国の状況変化に合わせ、いつでもその宗教を脱ぎ捨てることは可能。陽光感精・赤玉の話も、そのようなものでしかなかろう。(当然ながら、婚姻とは、子孫作りのために宗族外女性を娶る、宗族繁栄のための手段に過ぎない。男女間の恋愛話とは無縁で、それが語られる場合は、宗主国の小説文化を真似た創作と見て間違いない。)

天日矛は、儒教国のあくまでも王子。その婚姻とは、王族地位を堅固にするための政略以上でも以下でもない。后に地位と役割があるような倭国文化とは水と油。従って、倭人の妻から離縁されて当たり前で、復縁などとうてい無理。
ところが、これは天日矛にとってはとてつもなき重大事となる。
離婚されれば宗族長候補から即はずされるから、どこまでも妻を追いかけ復縁を狙うしかない。それがかなわずに帰国すれば、宗族を危機に導いた輩とされてしまうから、どの様な扱いになるかは自明。

そうなると、祖国に戻れない単身王子としては、倭国で生き延びるためには道は一つしかなかろう。・・・吉野勢力の採用した方策📖沸き立つ品陀和気命の宮<天皇への絶対忠誠>。儒教倫理の絶対的原点は≪孝≫であるにもかかわらず、倭国に居着くためにそれを≪忠≫に替えるしかない。

政治的には、天皇への絶対忠誠を誓い、倭国内では賤と見なされかねない仕事を請け負うことになろう。要するに、大陸との交流上貴重な高級難民人材として扱われることを狙うことになる。

こうした動きが、その後の院政時代から現代にまで連綿と続く日本国の社会的統制の核である≪忠≫の道を切り拓いたと見ることもできそう。

【追記】本来は最初に述べるべきだが、最後に、この譚の胡散臭さにはご注意あれ、と結んでおこう。朝鮮半島の国の王子でありながら、その名前を記載していない理由を考える必要があるからだ。(他書でも記載されていない。)中華帝国の属国であるから、正式名は漢語で、又の名は新羅語の筈。ところが、そこらについては何ら触れられていない。天日矛はどう見ても倭語であるから、朝廷の号(翻訳名)ということになる。

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