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魚の話  2017年10月10日

どんこ の話

鈍貪 哀しき哉 相貌悪とされ 嫌われし
   暗黒イメージの悪代官顔に見えるのかも。

"どんこ"と言うと、魚屋ではアイナメの類を指すと言われている。三陸では結構食されているとも聞くが、詳細のほどはよくわからない。(通販の丸干し品はエゾイソアイナメ表示。)
俗称なので漢字名は使われないようだが、鈍子であろう。

しかし、正式名称としての"ドンコ"は河川の中〜下流域の砂礫底に棲息する魚の方である。水族館の淡水魚展示には必ずといってよいほど登場するから丈夫なのだろう。ずんぐりむっくりの体つきというか、頭が矢鱈に大きく、ガブリといきそうな口を持って、底に静かにしているだけで動きが無い。従って、英語の通称はSleeperだ。味気ない呼び方だが、水族館で見れば目がドロンとしており、まさにその通りの状況だから致し方なし。当然ながら、その水槽の前には観客がよりつかない。
いかにも動きが鈍そうな体質に映るが、とてつもなく貪欲だそうで、食事時の一瞬だけは大変身する訳だ。底の砂礫の一部のような顔をし、眠っているかのように振舞っているが、餌らしきモノが上にやってきたら、隙をついて喰いつき丸のみするのである。
鈍に見えるが、周囲をよく観察しているようだから、飼って可愛がると懐く可能性もありそう。噛まれること間違いなしだが。
  → 【巨大ドンコ】我が家のドンコちゃんの捕食/餌はフナ
     by 坂本光@YouTube 2014/09/17

生物学的にはハゼの類縁とされているが、俺は違うゾと言いたげな風貌をしている。
左右両脇にある丸型の胸鰭が瞬発力の根源だと思われ、そのためか、ハゼ類の特徴でもある胸鰭融着による吸盤が形されていない。急流に進出する気はないのであろう。もっとも、岩に貼り付いつこうとしても、体重が重すぎて無理だろうが。

  鈍甲/暗色沙塘鱧/Dark sleepe

火野葦平[「ゲテ魚好き」1959年@青空文庫]によれば、胴甲、貪魚、鈍魚とも書くそうであるが、一番のお気に入り名称はその性格を著わしていそうな"鈍魚"だと。味はなかなかよいこともあり、ドンコのファンなのである。・・・
"いくら下手でも、女子供でも、年よりでも釣れる。それはいくら釣りそこなっても、とにかく釣りあげられるまではエサに食いつくからだ。"とのこと。そして、これ以上に"夫婦愛が深く、また、父性愛の強い"魚はないのではないかとも。

"ドンコは南方の魚で、日本では大体、琵琶湖から西方のみに棲息"とも記述しているが、正確には、愛知〜新潟以西の本州、四国、九州がその棲息範囲。
日本は1種と見てもよさそうだが、細かくは4グループ(山陰〜琵琶〜伊勢、東瀬戸、西瀬戸、西九州)と以下の別種が存在しているという。神話の世界に迷い込んだかのような話だ。

  石鈍甲@島根県匹見川の支流石谷川のみ

もちろん、東シナ海〜西太平洋北に注ぐ河川には類似種がいる。完璧な淡水魚である。

ついでながら、同じ句吸盤が無い淡水魚系ということで、河口〜下流の砂礫底に棲むのは、川穴子のグループである。鈍甲の印象とは違い、一般的なハゼの体躯に近い。言うまでもないが、蛇的体躯のアナゴの姿に似ている点があるとは思えない。要するに、生活スタイルが穴居で、チョコチョコと出てきてなかなか可愛いということでの命名なのだと思われる。大きさから見て、食材の対象としての興味が湧くとは思えないが、それなりの味との評価もあったかも知れぬ。

ともあれ、ドンコと、かなりの近縁とお見受けした。

  川穴子/尖頭塘鱧

と言うことで、完璧な淡水魚のドンコ類と、ほぼ淡水魚のカワアナゴ類を眺めてみたことになる。さらに、ツバサハゼも成魚は淡水魚(幼魚は海で育つ。)な訳だから、この3群は、吸盤無しの、普通のハゼとはかなり違った集団として扱うことができよう。
しかし、分類上では、一緒にまとめられていないから、一般形態のハゼが出現する以前の、同一祖先から分岐したとは見なされていないのであろう。

特に、カワアナゴのグループには、およそハゼとは縁遠そうな魚が揃っているのである。どう見ても、ハゼ的な底魚から程遠く、遊泳一途なのである。
鯉型あり。
  [タナゴ]
鯔型あり。(30p近い巨大ハゼ)
  為朝鯊
雷魚型あり。(30p越す巨大ハゼ)
  星斑鯊
クレージーフィッシュなる名前をもらった魚も。マングローブ帯で擬態的に生活しているのだろうか。
  鋸鯊

広義のハゼ全体に入れ込むと、こんな感じになる。(素人作成なので、間違いが多いことを前提に眺めて頂きたく。)・・・

[Rhyacichthyidae]・・・古代的様相 ツバサハゼ類
│  翼鯊/溪鱧/Loach goby→[2017.10.5]
│   "Rhyacichthys"類@ニューカレドニアの川[希少]
│  ○Protogobius
[Odontobutidae]ドンコ類
│  ○Odontobutis
│   鈍甲/暗色沙塘鱧/Dark sleeper(obscura)
│   石鈍甲(hikimius)@匹見川の支流石谷川
│   唐鈍甲(sinensis)
│   背斑鈍甲(interrupta)@西韓国錦江以北
│   高麗鈍甲(platycephala)@東韓
│  ○Micropercops
│  ○Neodontobutis
│  ○Perccottus
│   -/葛氏鱸塘鱧/Chinese sleeper(glenii)
│  ○Sineleotris@広東〜ベトナム
│  ○Terateleotris@メコン川
[Eleotridae]カワアナゴ類
《Eleotrinae》
│ ○Eleotris
│  川穴子/尖頭塘鱧(oxycephala)
│  天竺川穴子/Dusky sleeper(fusca)
│  阿亀鯊/Broad-head sleeper(melanosoma)
│  知々武擬/Spiny sleeper(acanthopoma)
│  Spiny-cheek sleeper(pisonis)
│  Large-scaled spiny-cheek sleeper
│  Freshwater sleeper
│  Lutea sleeper
│  Wide-head sleeper
│  Small-scaled spiny-cheek sleeper
│  Spotted sleeper
│  Sandwich Island sleeper
│ ○Belobranchus
│  襟棘鯊/Throat-spine gudgeon(belobranchus)
│ ○Calumia
│  雲隠/Tailface sleeper(godeffroyi)
│  霧隠(profunda)
│ ○Hypseleotris
│  [タナゴ]/Tropical carp-gudgeon(cyprinoides)
│ ○Ophieleotris
│  為朝鯊/Snakehead gudgeon(aporos)
《Butinae》
│ ○Bostrychus
│  蛇の目鯊/Four-eyed sleeper(sinensis)
│ ○Butis
│  鋸鯊/塘鱧/Duckbill sleeper, crazy fish or upside-down sleeper(butis)
│ ○Ophiocara
│  星斑鯊/頭孔塘鱧/Northern mud gudgeon or Flathead sleeper(porocephala)

↑無吸盤(左右胸鰭分離型)の淡水棲息系

[Gobiidae]・・・ハゼの主流
│  ○Stonogobiops・・・ネジリンボウ類
│     Yellownose prawn-goby(xanthorhinica)→[2008.4.11]
《Amblyopinae》・・・藁素坊、等が所属
《Gobiinae》・・・鬚鯊、等が所属
《Gobionellinae》・・・真鯊、等が所属
│  ○Leucopsarionシロウオ類
│   素魚
│  ○Luciogobiusミミズハゼ類
│   井戸蚯蚓鯊→[2017.9.30]
│  ○Pterogobius
│   茶殻→[2007.9.7]
│   絹張→[2017.8.1]
《Oxudercinae》・・・跳鯊、等が所属
《Sicydiinae》
│  ○Sicyopterusボウズハゼ類
│   坊主鯊→[2017.9.30]
│   パンダ達磨鯊→[2017.8.1]

↓擬似ハゼ
[Schindleriidae]幼魚体型類
│  ○Schindleriaシラスウオ類…シロウオ類とは別
│   白子魚/Schindler's fish(pietschmanni)→[2017.9.20]
│   -/斯托特辛氏魚/Stout infantfish(brevipinguis)@豪州・・・極小

↓以下略
(分類参照) JODC(日本海洋データセンター)GODAC/JAMSTEC

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