表紙 目次 | 魚の話 2017年10月5日 つばさはぜ の話Q 水の香や 鯊の翅に 古き薫危険を察し飛んで逃げるのが得意だが、それは遊びでもあろう。 名前の通り、胸鰭が翼のようである。30cm近い大きさになる。 翼鯊/溪鱧/Loach goby いくらなんでも"泥鰌[どじょう]鯊"という命名は止めて欲しいと思ってしまうから、魚の見る目の文化的違いがかなり大きいことがわかる。 翼を持つ魚と言えば、誰でも知るのは飛魚。水中で加速をつけて水面上に出て飛ぶタイプだ。翼鯊は、それとは異なる行動形態であり、岩にひっついていたところ、即刻逃避の必要が生じたのか、飛び降りるのが危険なのか、滑空するという。本当かネ。鱗が強靭だから、たとえ岩に擦れたところで大丈夫なのだろう。 渦巻く潮流の場所では、滑空する意味はないから、もっぱら川であり、淡水生活に適応していることになる。急流内で泳ぐにも、この翼は便利なのだろう。 従って、淡水棲との看板を付けたくなるが、そんな生活を送るのは成魚。まだ翼に力がでない幼魚の段階は海で過ごし、やがて川を遡ってくるというのである。鰻が産卵に南洋に旅したり、鮭が産卵のために故郷の地に戻るのと同じ能力を持っていることになる。コレ、魚類の原初的体質かも。 翼鯊はハゼと呼ばれる魚のなかでは一番早く分岐し、その当時の姿を残していると推定されており、マ、近縁は皆死に絶え、どうにかこうにか生き抜いてきた種ということか。 岩に上るのが得意という点で見れば、坊主鯊的な才能がある訳だ。しかし、ツバサと言う位で、両翼は側面にあるから、腹の底に胸鰭が融着して生まれる吸盤は無い。曲芸的な才能の岩登りをしていることになる。しかも、そこから飛んだりするのだから、曲芸の域を越えている。 ただ、翼鯊以外でもそっくりの機能を発揮する種は存在する。鯉系の谷登/平鰭鰍/Hillstream loach。急流の岩に上って珪藻を食すという習性から来た体の構造なのだろう。 さて、この種の位置付けだが、わりと簡単。 と言っても、ハゼの分類を見た瞬間、ゴチャゴチャという印象しか頭に浮かばないから、容易ということではないが。 なにせ、余りに種別が細かいのだ。しかも、それがカタカナ文字であり、読み順羅列とくる。部外者は、見た瞬間に、眺める気力を失う。 しかも、分類決定版ではなさそうな記載も紛れ込む。余りに網羅的になるとかえって見づらいから、部分的に割愛するしかないが、それを、どういう基準で行っているのかはなはだ想像がつきにくいものも多いから、全体像はわかりにくい。わかっている人は解説する気力が湧く筈もないから、素人はえらく苦労する。 だが、信用できそうな分類をよくよく眺めていると、解説が無いから全体像が見えないだけで、よくできていることがわかってくる。マ、考えてみれば、研究途上のものを、一方的な見方で説明する訳にもいかぬし、ああだらこうだらの議論を聞かされるのもナンだから、この辺りは致し方なかろう。 それを承知で、取り上げてきた種を整理してみると、翼鯊はこんな位置付けになる。・・・ ┌[Rhyacichthyidae]ツバサハゼ類 │ ○翼鯊/溪鱧/Loach goby◆ │ "Rhyacichthys"類@ニューカレドニアの川[希少] │ ○"Protogobius"類 ├[Odontobutidae]・・・鈍甲、等が所属 ├[Eleotridae]・・・川穴子、等が所属 ┤ ├[Gobiidae]・・・ハゼの主流 │ ○Stonogobiops・・・ネジリンボウ類 │ (今後の記載では, 独立させず, 鬚鯊系たる《Gobiinae》に含める.) │ 捻じ錀棒→[2008.4.11]◆ │ 《Amblyopinae》・・・藁素坊、等が所属 │ ○Odontamblyopus・・・ワラスボ類 │ 藁素坊→[2009.9.11]◆ │ 《Gobiinae》・・・鬚鯊、等が所属 │ 《Gobionellinae》・・・真鯊、等が所属 │ ○Acanthogobiusマハゼ類 │ 真鯊→[2006.2.17]◆ │ ○Leucopsarionシロウオ類 │ 素魚 │ ○Luciogobiusミミズハゼ類 │ 井戸蚯蚓鯊→[2017.9.30]◆ │ ○Pterogobius │ 茶殻→[2007.9.7]◆ │ 絹張→[2017.8.1]◆ │ 《Oxudercinae》・・・跳鯊、等が所属 │ ○Boleophthalmusムツゴロウ類 │ 鯥五郎→[2009.9.4]◆ │ 《Sicydiinae》・・・坊主鯊、等が所属 │ ○Sicyopterusボウズハゼ類 │ 坊主鯊→[2017.9.25]◆ │ パンダ達磨鯊→[2017.8.1]◆ │ ├[Schindleriidae]幼魚体型類 │ ○Schindleriaシラスウオ類…シロウオ類とは別 │ 白子魚/Schindler's fish→[2017.9.20]◆ │ Stout infantfish@豪州・・・極小 │ │↓以下略 (分類参照) JODC(日本海洋データセンター)GODAC/JAMSTEC 翼鯊を分類の頭にもってきたのは、見易くするためではない。 吸盤機能が生まれる前の原初ハゼの姿を留めているということで、上流的な場所に置いたのである。(ほとんどの種で退化して消失している骨と感覚器官を今もって大事に抱えている点が指摘され、古代型と見て間違いなしとされたのである。) 小生から見れば、その一番の特徴は、口が小さいこと。効率は悪いが確実。岩を占拠できさえすれば、食にはこまらない訳で。場所によって藻類の種類も多種多様だろうから、その後、それぞれに合わせ進化していったのであろう。 不思議なことだが、古代系と見なされているのに、脳の大きさではハゼで最大だそうだ。 EWSシステムを完備していないと、おちおち食事をしておられぬということだろうか。あるいは、食事で満腹したら、大いに遊んで愉しむためか。常識的には、海から戻る時に流れを読み、嗅覚を働かせて、新天地を探すために頭を使った結果とも言える。実態から判定すると、山の急流に順応したためだと説明できるそうだが。確かに、翼をコントロールして乱流内で操縦するのは現代のジェット機並みの高度な機能と言えよう。 (参照) Roland Bauchot, et, al.:"The Brain of Rhyacichthys aspro (Rhyacichthyidae, Gobioidei) "魚類学雑誌36 1989年 「魚」の目次へ>>> トップ頁へ>>> (C) 2017 RandDManagement.com |