[→本シリーズ−INDEX] ■■■ 日本の基底文化を考える [2018.7.20] ■■■ 鳥崇拝時代のノスタルジー[10] −越の雉− "シャコ"と言えば普通は寿司屋の"ガレージ"こと、蝦蛄[→]で、そうでないとなると硨磲貝。鳥の鷓鴣を知る人は少数派。武家には好まれた鳥だったらしいが、肉や卵が流通しなかったので忘れ去られたのであろう。 折角だから見ておこう。 鷓鴣とは、雉と鶉の中間の種族だが、この群を3区分する生物学的な根拠はない。感覚的な大中小に近い。 「和漢三才図会」第四十二巻原禽類に鷓鴣/越雉が収載されている。いかにも、日本の鳥ではないという風情での記載。ところが、そこに、和歌が引用されている。 鷓胡と云ふ 鳥のうは毛の 紅に 散し紅葉の 残るなりけり 鳥のうは毛の紅とは。 鷓胡と云鳥は。 さむがりをするなり。 仍秋の末になれば。 もみぢのちるを。 せなかにおひかねて。 霜雪の寒をふせぐなり。 深山にあり。 鳴聲すごく淋しといえり。 此鳥に山がら似たりといふ説あり。 [「蔵玉和歌集」] 越雉と呼ばれるだけのことはあり、福建〜広東や雲貴高原で見られる鳥だ。それを無理矢理北方に持ってきたりしていたのだろう。従って寒がりは当たり前。徴兵された人々の仕草と似て、1羽が哭くと皆始めるから、望郷の鳴声と解釈したのだろう。 今でも、その鳴き声は擬声として「行不得也哥哥」(行かないで、おにいさん)があてられているそうだ。 そんなこともあってか、「詩経」には登場しない。 しかし、唐代から、鷓鴣は「懐南」の表象と化した。その辺りは「酉陽雑俎」の話(飛びて数ば月に随ふ。蓋し正月の如きは一飛して止む。)でとりあげた。 [→「鷓鴣と五時鶏」] 「無門関」でも、そんな気分を書き表している位で一般的通年になっていたと見てよさそう。 「我は、江南の春、三月の頃をいつも思い出す。 鷓鴣が啼 様々な花が咲き乱れ、その香りが漂ってくる場所として。」[24則] [→] 南の風土は皆で楽しむ風土であり、官僚的管理の下で喜びを表現させられる社会には馴染めなかったのであろう。 代表的な唐代「踏歌」の歌詞。[→] 「踏歌詞」 唐 劉禹錫 春江月出大堤平,堤上女郎連袂行。 唱尽新詞不歓見,紅霞映樹鷓鴣鳴。 白楽天の「和夢游春詩一百韻」には、・・・ 酩酊歌鷓鴣,顛狂舞鴝鵒。[→] (参考:"代表的な鷓鴣詩"が資料として収載) 池間里代子:「中国における鷓鴣詩の変遷」流通経済大学流通情報学部紀要 16, 2012 【この分野の鳥名抜粋】 雉キジPhasianidae…きぎし 山鳥/山鶏ヤマドリ…やまどり 鷓鴣シャコ@中国…雉と鶉の中間 胸黒鷓鴣ムナグロシャコ@トルコ〜イラン〜インド 岩鷓鴣Alectoris@ユーラシア大陸高地 石鷓鴣イシシャコ@アフリカ中東部 雪鷓鴣@ヒマラヤ雪線上 砂鷓鴣@アラビア半島 雉子鷓鴣キジシャコ@チベット〜四川 雪鶏セッケイ@ヒマラヤ雪線下 冠鷓鴣カンムリシャコ@東南アジア 小綬鶏/竹雞コジュケイ 山鶉(灰色,赤)ヤマウズラ@欧州 鶉ウズラ…うづら(叢草群) 姫鶉/咬𠺕吧鶉ヒメウズラ 野鶏ヤケイ *庭鳥(鶏)ニワトリ…にはつとり or かけ 軍鶏シャモ(←シャム) 青鸞セイラン@マレー半島,スマトラ.ボルネオの森林 孔雀クジャク…渡来名くさく 本シリーズ−INDEX> 超日本語大研究−INDEX> 表紙> (C) 2018 RandDManagement.com |