→INDEX ■■■ 今昔物語集の由来 [2020.12.24] ■■■ [附62] 十住心に心配 "天"は、天帝により天子として指名された皇帝が官僚統制帝国の独裁者として全権を握る仕組みを基本とする儒教型統治を彷彿させる言葉だからだ。 おそらく、この"天"のコンセプトは原始から存在していた各地の"天神(雷,等)"への畏怖尊崇を合理的に援用したものだろう。このコンセプトを宗教的に磨き込んだ本流は、儒教ではなく、道教や老荘の方だと思われる。天界を措定し、そこを神々が住む理想境と考えて、そこで生活できる自分を想定するような信仰とそのベースとなる思想が磨き込まれたのである。 一方、仏教では、"天"は、六道の人間道の上位概念の天道を意味している。 この辺り注意しないと混乱をきたしそうなので、整理しておこうと思う。 と言うのは、現代においても、朝鮮半島を含む大陸の"人民"は儒教型社会観を抱えており、風土的に根強いものがあるからだ。途中幾多の揺らぎはあるものの、日清戦争以来日本化の道を選んだから、日本人は誤解し易いこともあるし、儒教を宗教と考えない体質も本質を見誤るもとになっている。 従って、クドイほど、儒教とは宗族第一主義の宗教であるとの説明を繰り返してきたが、このせいで、この考え方は伝わりにくいのである。 それに加えて、天竺・震旦・本朝といった「今昔物語集」の三国観を、"世界をこうとしかとらえられなかった限界"としか見れない人は多そうだし。なかには朝鮮半島の影響を無視していると言う人まで大勢いそう。 小生は、「今昔物語集」編纂者の世界観は広くて深いと感じており、これとは考え方が正反対。世界を俯瞰的に見るためは、概念的理解が必須だが、「今昔物語集」編纂者はそのことに気付いていたとみなしているということ。 その観点では、編纂者が一番影響を受けた書は、空海:「秘密曼荼羅十住心論」830年 (真理への10階梯)ではなかろうか。ここには、天竺・震旦での信仰が明確に位置付けられているからだ。 ただ、天竺・震旦・本朝の社会風土の違いについてはなにも触れていない。「今昔物語集」編纂者としては、その欠落こそが問題と感じたろう。 ①異生羝羊心…【凡夫の自我煩悩】@30種外道(ベーダ教,等) ②愚童持斎心…【人倫目覚め・節制施与行為】@儒教 ③嬰童無畏心…【住心発生・超俗昇天志向】@16種外道(天竺哲学,ジャイナ教,等)・道教/老荘思想 ④唯蘊無我心…【仏道初門・自我実体否定】@小乗仏教声聞 ⑤抜業因種心…【十二因縁を観じ除苦悩】@小乗仏教縁覚 ⑥他縁大乗心…【弥勒の無量の慈悲】@大乗仏教法相宗/天竺唯識派 ⑦覚心不生心…【文殊の般若の知恵】@大乗仏教三論宗/天竺中観派 ⑧一道無為心…【如実知自心・空性無境心】@大乗仏教天台宗 ⑨極無自性心…【究極の顕教】@大乗仏教華厳宗 ⑩秘密荘厳心…【密教・曼荼羅】@大乗仏教真言宗 階梯とはよくいったもので、①〜③の非仏道が、本朝には勢ぞろいですナということ。 そう思うからこそ、「今昔物語集」編纂者は、まさに煩悩丸出しだしの大寺高僧の滑稽譚や、伝統ある由緒正しき南都の大寺廃絶話をも包み隠さず書いたのだと思う。 それはインターナショナルなセンスがあれば当たり前の姿勢と言えまいか。 天竺や震旦では、仏教は、①〜③の勢力によって、下手をすれば、壊滅の道を走らされかねない状態に至っていることを知らない筈がないのだから。 特に、儒教の見方については、釘を刺しておく必要を感じていたのは間違いないと思う。本来的な②の例を示しているからだ。 【本朝世俗部】巻二十六本朝 付宿報📖非仏法宿報論 ●[巻二十六#_1]於但馬国鷲爴取若子語📖子攫い鷲 ・・・宗族第一主義では、娘は他の宗族と連携し繁栄を生み出すための貴重な財産であり、妻は子孫作りに励めばそれで十分となる。もし、その役割を果たせないなら存在価値はゼロとなる。冷徹な合理主義が働くのである。育ての親と産みの親が仲良く娘を愛する、というコンセプトは、宗族繁栄に寄与することがないなら、唾棄すべきとならざるを得ない。 恥をかかされたら、それを贖うため、子々孫々まで義務を負うことになる。そうした混乱をとりあえず抑えこみ、天子と官僚制による秩序を維持させるのが儒教の合理主義的「徳」の本質である。 儒教以外についても、非仏教の本朝での基盤は強固であることを示唆する譚を収録している。 【本朝仏法部】巻二十本朝 付仏法(天狗類 冥界の往還 "その他") 📖本朝仏法譚その他[巻二十] 《_1〜14天狗》《15〜19冥界往還》《20〜40悪報:転生現報》《41〜46他》 竜神。 ●[巻二十#41]高市中納言依正直感神📖三輪高市麻呂 此れに依て、天神、感を垂れ、龍神、雨を降らす。・・・ 此れ、偏に実の心を至せれば、 天、此れを感じて、守を加ふる故也。 星。 ●[巻二十#43]依勘文左右大将可慎枇杷大臣不慎語📖枇杷殿 此れを思ふに、実に天の加護、必ず在ましけむ 死穢。 ●[巻二十#44]下毛野敦行従我門出死人語📖下毛野朝臣 有難く慈悲広大也ける心也。 天道、此れを哀み給ひけるにや。 (C) 2020 RandDManagement.com →HOME |