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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.5.23] ■■■
[328] 震旦孝養
巻九の主題は「孝養」とされている。
巻題をわざわざ付けたのは、読者に間違って読まないようにとの配慮と考えるべきだろう。
しかし、残念ながら、現代人には、その配慮が返って逆効果となる。そこまで予想するのは無理というものではあるが。

何故にそんな配慮がわかりにくいかと言えば、孝行とは、儒教用語とされているから。従って、現代人からすれば、ココは仏教的「孝養」が書かれていると思ってしまう。ところが、それらしくは思えない冥界因縁話が沢山並ぶので、頭が混乱させられることになる。

しかし、「酉陽雑俎」を読んでいれば、そこらはよくわかる。
こちらの著者は官僚で、日々、精力的に任務に当たっており、帝-官僚機構による統治システムのなかで儒教的倫理ルール遵守の重要性は百も承知。にもかかわらず、著作て取り上げているのはあくまでも貝(仏教)と壺(道教)で、儒教的思想は徹頭徹尾除外している。
何故かと言えば、個人信仰の官僚統制を進め、地場伝承信仰を抹消するような、排他的血族信仰を嫌悪していたからだ。個人の精神的自由と、インターナショナルな交流を愛する人にとっては当然の姿勢である。

「今昔物語集」編纂者の感覚も同じようなものと考えると、こうした儒教への嫌悪感は、本朝ではなかなか理解できまいと判断していておかしくない。従って、わざわざ「孝養」巻を設定したと思われる。
現代にも通用するセンスだが、理解は難しいかも知れない。

繰り返して書いているが、血族繁栄第一主義とは、祖先が恥をかかされたら、子々孫々までその報復義務を負うという思想。だからこそ、祖先からの見返りで、現世繁栄が約束されるのである。
その根底にあるのは、"敵"を殲滅し、"味方"を作って"利"を宗族でできる限り独占しようとの思想。言い換えれば、他の血族との熾烈な戦いに最終的に勝利するために全身全霊を捧げよということ。ただ、その時間軸は長い。

仏教徒にとってみれば、このような信仰を仏教の因縁論と習合させられてはたまらんだろう。

子孫の"孝養"果と、"反孝養"報は、宗教としての儒教と仏教では決定的に違うととを書いておかねばとなる。
言うまでもないが、本朝の"孝養"は仏教的だが、中華帝国の"孝養"は宗教としての儒教的なのである。ところが、"孝養"譚それ自体の内容は両者同じような筋になってしまう。

そこで、どうしても唐臨[撰]:「冥報記」650-655年から引用したくなったということだろう。

そう考えれば、」どうして「冥報記」を選んだかも、合点がいく。

すでに、巻七で語ったことだが、この書は他書からの引用集ではなく、著者自らの耳で収集した話を整理したもの、
自分が真実と見なした話を厳選している訳だ。

コレは思った以上に重要なこと。
魯迅は、教説用に手を入れただけの小説類は文芸的には二流であると看破したが、この書はそういった類の作品ではない。
「酉陽雑俎」邦訳者で、魯迅研究者がご存命なら、魯迅ならどう評価しそうか訊いてみたいところである。
何故なら、これは教化用とは言い難い作品だからだ。何故なら、信用できる話を耳で集めたということは、ほとんどのソースは親族ということ。
しかし、実は、信用性の高さに意味がある訳ではない。この書の凄さは、そこに本気の信仰が流れている点。それこそが仏教的"孝養"そのものということ。
そもそも、この著者は、自らを上智から遠い中位にあり、ただただ"孝養"的善行に努めているにすぎないのである。だからこその、親族からの聞き語りになる訳だ。
文芸的には粗削りにならざるを得ないが、研ぎ澄まされた純粋は信仰がそこに結晶化されることになる。
   「冥報記」
 序
 上巻
…上智による説話
1(隋)釋信行 2(唐)釋慧如 3(唐)釋僧徹 4(唐)練行尼@法端大衆講 5(唐)釋道懸 6(唐)釋道英 7(隋)釋智苑 8(東魏)採銀沙人/下人 9(北斉)冀州擒奴 10梁時一寒士 11(陳)嚴恭

 中巻…信心善報
12(隋)崔武 13(隋)宿太山廟客僧 14(隋)蕭m 15(唐)韋仲珪 16(隋)孫寶 17(唐)張亮 18(唐)盧文勵 19(唐) 20(唐)孫迴璞 21(唐)戴天胄 22(唐)李大安 23(唐)董雄 24(唐)蘇長之妾 25(唐)岑文本 26(唐)元大寶 27(唐)鄭師辯 28(唐)豆盧氏 29(唐)李山龍

 下巻…反仏法者悪報
30(隋)王將軍 31(後魏)崔浩 32梁元帝 33周武帝 34(北斉)仕人梁 35(隋)李ェ 36(隋)姜畧 37(隋)冀州小兒 38(隋)京兆郡獄卒 39(隋)河南人婦 40(隋)卞士瑜父 41(唐)殷安仁 42(唐)趙大亡女/長安市里風俗 43(唐)潘果 44(隋)王五戒/洛陽人 45(唐)康抱 46(唐)韋姓男/臨人 47(唐)馬嘉運 48(唐)孔恪 49(唐)竇軌 50(唐)王(附宋行質) 51(唐)韋慶植亡女 52(唐)張法義 53(唐)柳智感

 逸文
_唐交州都督遂安公李壽,始以宗室封王。
_唐太史令傅,本太原人。

 別書
27(唐)周善通(朧西王李博乂の知人)
言うまでもないが、翻訳と言っても、大胆な意図的変換が行われている譚もないではない。「今昔物語集」の譚タイトルと、「冥報記」での登場人物的見出しを比べて違和感を感じたなら、それは手を入れた可能性があるということ。その譚では、「冥報記」著者が取り上げたかったポイントを見えなくして、別の視点を取り上げているということ。

   【震旦部】巻九震旦 付孝養(孝子譚 冥途譚)
<「孝子伝」邦訳>
《1-12 現世 親への孝養(震旦で「孝子伝」は著名。)》
  [#_1] 震旦郭巨孝老母得黄金釜📖「孝子伝」
  ⇒「孝子伝」郭巨{5---生存中に扶養する}
  [#_2] 震旦孟宗孝老母得冬笋📖「孝子伝」
  ⇒「孝子伝」孟仁/孟宗{26---生存中に扶養する}
  [#_3] 震旦丁蘭造木母致孝養📖「孝子伝」
  ⇒「孝子伝」丁蘭{9---死後哀悼}
  [#_4] 魯州人殺隣人不負過📖「孝子伝」 📖兄弟殺意
  ⇒「孝子伝」魯義士{32---兄弟への悌}
  [#_5] 会稽州楊威入山遁虎難📖「孝子伝」
  ⇒「孝子伝」楊威{16---生存中に扶養する}
  [#_6] 震旦張敷見死母扇恋悲母📖「孝子伝」
  ⇒「孝子伝」張敷{25---死後哀悼}
  [#_7] 会稽州曹娥恋父入江死自亦身投江📖「孝子伝」
  ⇒「孝子伝」曹娥{17---死後哀悼}
  [#_8] 欧尚恋父死墓造菴居住📖「孝子伝」
  ⇒「孝子伝」欧尚{19---死後哀悼}
  [#_9] 震旦禽堅自夷域迎父孝養📖「孝子伝」
  ⇒「孝子伝」禽堅{40---生存中に扶養する}
  [#10] 震旦顔烏自築墓📖「孝子伝」
  ⇒「孝子伝」顔烏{30---死後哀悼}
  [#11] 震旦韓伯瑜負母杖泣悲📖「孝子伝」
  ⇒「孝子伝」(韓)伯瑜{4---生存中に扶養する}
  [#12] 朱百年為悲母脱寒夜衾📖「孝子伝」
  ⇒「孝子伝」朱百年{23---生存中に扶養する}
<「冥報記」邦訳> 
《13-16冥途縁(死後)》
  [#13] □□人以父銭買取龜放河…翻案的📖亀譚
  ⇒「冥報記」上11(陳)嚴恭
  [#14] 震旦江都孫宝於冥途済母活
  ⇒「冥報記」中16(隋)孫寶
  [#15] 河南元大宝死報告張叡冊夢
  ⇒「冥報記」中26(唐)元大寶
  [#16] 索冑死沈裕夢告可得官期
  ⇒「冥報記」中21(唐)戴天胄
《17-19冥途縁(畜生転生)》
  [#17] 震旦隋代人得母成馬泣悲📖羊の孝子ぶり
  ⇒「冥報記」下44(隋)王五戒/洛陽人
  [#18] 震旦韋慶植殺女子成羊悲…翻案的📖羊の孝子ぶり
  ⇒「冥報記」下51(唐)韋慶植亡女
  [#19] 震旦長安人女子死成羊告客📖羊の孝子ぶり
  ⇒「冥報記」下42(唐)趙大亡女/長安市里風俗
《20冥途縁(鳥転生):継母報復》
  [#20] 震旦周代臣伊尹子伯奇死成鳴報継母怨📖「孝子伝」
  ⇒「孝子伝」伯奇{35---継子孝行譚}
《21-30冥途報(殺生 v.s. 不殺生)》
  [#21] 震旦代州人好畋猟失女子
  ⇒「冥報記」下30(隋)王將
  [#22] 震旦兌州都督遂安公免死犬責
  ⇒「冥報記」逸文唐交州都督遂安公李壽
  [#23] 京兆潘果抜羊舌得現報📖羊の孝子ぶり
  ⇒「冥報記」下43(唐)潘果
  [#24] 震旦冀州人子食鶏卵得現報📖鶏卵食の仏罰
  ⇒「冥報記」下37(隋)冀州小兒
  [#25] 震旦隋代天女姜略好鷹感現報📖子攫い鷲
  ⇒「冥報記」下36(隋)姜畧
  [#26] 震旦隋代李寛依殺生得現報
  ⇒「冥報記」下35(隋)李ェ
  [#27] 震旦周武帝依食鶏卵至冥途受苦📖鶏卵食の仏罰
  ⇒「冥報記」下33周武帝
  [#28] 震旦遂州総管孔恪修懺悔
  ⇒「冥報記」下48(唐)孔恪
  [#29] 震旦京兆殷安仁免冥途使
  ⇒「冥報記」下41(唐)殷安仁
  [#30] 震旦魏郡馬生嘉運至冥途得活
  ⇒「冥報記」下47(唐)馬嘉運
《31-36冥途報(善行 v.s. 悪行)》
  [#31] 震旦柳智感至冥途帰来
  ⇒「冥報記」下53(唐)柳智感
  [#32] 侍御史孫廻璞依冥途使錯従途帰
  ⇒「冥報記」中20(唐)孫迴璞
  [#33] 震旦大史令傅奕行冥途
  ⇒「冥報記」逸文唐太史令傅,本太原人。
  [#34] 震旦刑部侍郎宋行質行冥途
  ⇒「冥報記」下50(唐)王(附宋行質)
  [#35] 震旦抱被殺曽氏報怨
  ⇒「冥報記」下45(唐)康抱
  [#36] 震旦願知冥道事📖冥道転生確率
  ⇒「冥報記」中19(唐)
《37-42現世反孝養報》
  [#37] 震旦周善通依破戒現失財遂得貧賤
  ⇒「冥報記」別書27(唐)周善通(朧西王李博乂の知人)
  [#38] 後魏使徒不信三宝得現報遂死
  ⇒「冥報記」下31(後魏)崔浩
  [#39] 震旦卞士瑜父不償功成牛
  ⇒「冥報記」下40(隋)卞士瑜父
  [#40] 震旦梁元帝誤呑珠一目眇
  ⇒「冥報記」下32梁元帝
  [#41] 隋大業代獄吏依悪行子身有疵死
  ⇒「冥報記」下38(隋)京兆郡獄卒
  [#42] 河南人婦依姑令食蚯蚓羹得現報
  ⇒「冥報記」下39(隋)河南人婦
<「孝子伝」邦訳[続]>
《43-46孝養障害克服》
  [#43] 晋献公王子申生依継母麗姫讒自死📖「孝子伝」
  ⇒「孝子伝」申生{38---継子孝行譚}
  [#44] 震旦莫耶造釼献王被殺子眉間尺📖「孝子伝」
  ⇒「孝子伝」申生{38---継子孝行譚}
  [#45] 震旦厚谷謀父止不孝📖「孝子伝」
  ⇒「孝子伝」原谷/厚谷{6---祖父に対する孝行}
  [#46] 三人来会樹下孝其中老📖「孝子伝」
  ⇒「孝子伝」三州(義士){8---生存中に扶養する}

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