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2013.11.10

イモ食を考えてみた

各地に新芋をお供えする芋名月(八月十五夜)の慣習がどうやら状態で残っている。中秋の名月とくれば月見団子と考え勝ちだが、これは比較的新しいお祝いの仕方らしい。栗をお供えすることもあるが、それは本来は九月十三夜。収穫時期を考えると、たしかにそうかも知れぬ。
中国は古くからこのお祝いに月餅を食べることになっており、贈る習慣も重なって社会的な大行事として今も続いている。日本社会は、どうも、その気分は共有できかねるようだ。おそらく、暦上でのお祝いというより、里芋の収穫祭を月見にあわせたからだろう。
そこまで、芋が重視されてきた社会だったとも言えよう。その伝統を受け継いでいるのが、秋に行楽を兼ねて行われる芋煮会。コレ、催事には里芋との伝統を絶やさぬ仕組みと見れなくもない。一般には、単に、郷土料理「のっぺい汁」の展開形とされるが、そのルーツは、春日若宮おん祭(12月15-17日)での「濃餅」。里芋を主とした精進の煮物でしかないが、大宿所で諸国の人々に振舞ったのは、味噌無しの芋だけの澄まし汁だったとされる。つまりトロミがついた汁をすべて飲み干す嬉しさを確認する、こだわりの行事食だった訳である。
One of them的な収穫のお祝いと見てはアカンということ。

いかに里芋が大切にされていたかは、日本の古代を切り拓いてきた大和地区の行事食で使われていることでもわかろうというもの。彼岸のボタ餅とは、正式には、里芋のイモボタだと聞いたことがある。正月にしても、雑煮には必ず丸餅と「丸ごとの」里芋が入るという。芋を切ってはならないのだ。
内陸盆地だから、これに川魚がつきそうに思うが海の魚に限るのである。ゴマメ(片口鰯)だけではなく、鰊、棒鱈、赤が定番。
大和地域に限らず、現代のお重のセット料理でさえ、八つ頭や海老芋のような芋煮物、甘薯の栗金団は必須アイテムらしい。縁起担ぎということもあるが、「芋」を欠くことはあり得ないのでは。それが「伝統として護り続けたい」食文化なのは明らか。
タロ(里)だけでなく、ヤム(山)にしても、地域色濃厚な大和芋(黒っぽい塊状)や伊勢芋(白っぽい塊状)が未だに残っている訳だし。

小生は、これこそ南島食文化を培ってきた賜物と見る。浪速から川を遡って到達する山に囲まれた盆地であるから、雲南の盆地と類似という発想もわからないではないが、小生はその考え方に違和感を覚える。日本の里芋とは亜熱帯の湿地で栽培されていたタロイモの温帯化・無毒化品種という感じがするからに過ぎないが。
熊野の森にしても、温帯林であるとはいえ、雨量が桁違いに多いために熱帯雨林のジャングル的性状があると見てもよいのでは。古くから、この森を聖なる地とみなしていた理由はここら辺りにありそうと睨んでいるのだが。
それに、里と山の対比的表現も面白いものがあるし。

タロイモ系はインドも含め、熱帯/亜熱帯の湿地で広く栽培されており、その種類はただならぬものがある。古代人は、その選別が可能だった訳で、温帯への進出もヒトの手によるものかも。栄養繁殖だから栽培というほどのこともないなどと見ている方も少なくないようだが、熱帯地域で綺麗に植わっている水田栽培を見れば想像がつくと思うが、雑草を取る必要がある訳で、イネにおとらぬ労働集約的農業と見て間違いない。南島食文化とは、この農耕とラグーンの魚介で成り立っていたのだと思う。住み始めは、飛べない鳥と、ココナッツがあり楽勝の生活だったろうが、タロイモ作りが始まると結構な労働が待っていた筈だし、海水を被ればタロイモは全滅だから、その対策としてヤムイモ採りにも習熟し、こちらも栽培しておく必要があったと見てよいのでは。

南島域は、環境は一様ではないから、島毎に様々な工夫がされたに違いないが、この程度での基本パターンはそうそう変わるまい。

洗練された食文化パターンを見るなら、ハワイ食がよかろう。もともと、ヒトが住んでいた筈もなく、ポリネシア人が植物持参で開発した地だからである。
【主食】の「Kalo」はタロ芋である。水田耕作のようだが、陸でも作っているらしい。生産性が悪くても、海水をかぶって全滅のリスク回避ということだろう。蒸して、搗いたものを食べる。ポイとして販売されているが、餅というより糊状に近い。もちろん、茹でたり、焼いたり、醗酵処理したりという方法もある。
なんといっても、驚かされるのは、数百種類の芋があったらしいという話。しかも、植物体の部分名称が沢山あるという。言うまでもなく、食べ方の仕来たりもうるさいらしい。日本人が矢鱈に稲/米/飯に拘る性格とウリ。
予想にたがわず、タロイモだけでなく、ヤムイモも持ち込まれている。こちらは、主食ではないらしいが、蒸して食べるのがお好みだったようである。「Uhi」と呼ばれている。サツマイモ形状なので、ダイショ/大薯/Water yamの一般的なものだと思われる。
救荒用としてなのか、巨大な芋ができるApe(インドクワズイモか。)も広がっている。ただ、イモ系植物の改良には力が入る体質ということを見越してか、アンスリウムのように品種開発が大々的に行われているから、観賞用ということかも知れぬ。

南島という点では、日本にも亜熱帯地域がある。
その沖縄でのタロイモ系の呼び方もなかなか面白い。
  → 「里芋の呼び名」 (2012.12.30)
ヤムイモ系には関心が薄いかと思いきや、本土同様に、ナガイモの様々な形の品種が揃っているようだ。

こんな話に終始すると、自分達も、南島の芋文化に染まっている気がしてこないか。

-------タロイモ/ヤムイモ-------
言うまでもないが、タロイモ/ヤムイモの生産が盛んなのはアフリカ。タロイモでは中国もそれなりに存在感はあるが、それ以外はすべてを合算したところで、ほんの僅か。
■■■タロイモ/Taro系■■■
【いわゆるサトイモ類】
○サトイモ/里芋/Taro (→ 2007.10.23)
  ・・・様々な栽培品種がある。
   土垂,石川早生,セレベス/赤芽,八つ頭,海老/唐,(エグ),筍/京
○ミズイモ/水芋/タイモ/田芋
○ハスイモ/大野芋
  ・・・クワズイモ交配種か
【救荒用非常食】
  面倒な方法で食品化
     -焼加熱後にほぐしながらの水晒し
     -それでもエグミが残るもの多し
○クワズイモ/海芋
  ・・・四国以南日本-台湾-福建-インドシナ半島-インド
○シマクワズイモ/尖尾芋
  ・・・四川-華南-先島-沖縄-小笠原
○テンナンショウ/天南星/Jack in the pulpit
  ・・・照葉樹林帯のみ毒抜き食品化
○シマテンナンショウ
  ・・・伊豆御蔵島や八丈島で毒抜き食品化
【マンナン系】
○コンニャク/蒟蒻
  ・・・インドシナ照葉樹林域原産の毒イモ
      晒しの灰汁抜きでは対応不可
  ・・・地下塊茎の石灰灰汁抜き食地域は限定的
      日本・中国の一部・ミャンマー・マレー諸島
  ・・・非食用食にはなるらしいが
      マレー以東、トレース的存在[西部ポリネシア]
○ゾウコンニャク/象蒟蒻[魔芋]/Elephant yam
  ・・・熱帯系インドの類似大型芋 [コンニャク化不適]
■■■ヤムイモ/Yam系■■■
【アジア】
○ヤマノイモ/山芋 (→ 2007.9.4)
  ・・・野生の「自然薯」
○ナガイモ/長芋/Chinese Yam
  ・・・照葉樹林帯の雲南が原産と言われている。
      形状や皮の形態は様々。
       細長、太棒、扇、塊(捏) [捏が一番粘るようだ。]
○トコロ/野老
  加熱しないと食べれない。それでもエグイ。
 -オニドコロ/"tokoro" :[代表的] 日本-中国に広く分布
 -キクバドコロ,カエデドコロ, etc. :山野には色々
 -アケビドコロ/Fiveleaf yam :沖縄[絶滅危惧種]
 -トゲドコロ/棘芋/Lesser yam
○ダイショ/大薯/Water yam
  ・・・亜熱帯系でYamの主流。渡来種。形状は「薯」。
【アフリカ〜アジア】
 -ニガカシュウ/苦何首烏/air potato
【西アフリカ】
 -white yam, yellow yam, bitter yam
【南米】
 -cush-cush yam
■■■ 新大陸原産の主要イモ ■■■
 命名で色々わかってくる。 (→ 2012.12.27) , (→ 2012.12.28)
○サツマイモ
○ジャガイモ (→ 2008.5.20) , (→ 2009.9.29)
○キクイモ/菊芋/Jerusalem artichoke (→ 2008.11.11)
○[木本的]芋の木/キャッサバ(タピオカ)/Cassava
■■■ 日本で古代から澱粉を採取するイモ ■■■
○クズ/葛/"kudzu" (→ 2009.3.31)
○ワラビ/蕨/Western bracken fern (→ 2009.7.14)

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