「古事記」解釈[751](20230721)

■■■　「古事記」解釈 [2023.7.21]　■■■

[751] 太安万侶:「漢倭辞典」佛

仏教には触れずということだが、わざわざ仮名文字として、梵語翻訳文字を用いたりと、なんらかのメッセージ性を含んでいるのは間違いない。
そんなこともあって、小生は、太安万侶は仏教徒あるいは仏僧のサロンのメンバーではなかったか、と見る。そうでなければ、この様なインターナショナル発想の書を纏め上げることは、とうてい無理だろう。

佛/仏非使用
釋/釈非使用
　迦125…火之"迦具"土神　"佐賀美邇迦美"　📖迦賀
　　　…蔵経梵文譯音文字[e.g.Kapilavastu⇒迦毘羅衛:佛祖誕生地]

呪/咒非使用
　　…「說文解字」非収載
　　[漢籍用例]漫怛攞マントラ即是真語・・・
　　　📖呪は倭人の心根だが仏教用語でもある 📖仏教事項捨象方針の鋭さ
一道…爾其神大忿詔：「凡茲天下者汝非應知國汝者向一道」
　　　📖「一道」は仏教用語では
卍非使用　　⇒萬📖萬は好字
悟非使用　　…覺＠「說文解字」
⇩
覺/覚11…「恐不覺御名」　於是亦高木大神之命以覺白之　故隨其教覺　覺于御夢曰　如此覺時　專汝泥疑教覺　言教覺詔者　於是教覺之狀　故備如教覺　奴有者隨奴不覺而過作甚畏　「恐我大神有"宇都志意美"者不覺」　　[序文漢文]卽覺夢而敬神祇
すべて感悟であって、睡醒の意味は１つも無い。📖"心におもう"の字義は難しい
　　[序文漢文]…覺夢(⑩)
　　㊤…不覺
　　㊥…教覺①⑫⑭⑭⑭
　　　　　高木大神之命以覺白之①　覺宇御夢⑪　如此覺時⑪
　　㊦…不覺㉑㉑
菩7(7)…天之"菩卑能"命/天菩比命/天菩比神(x3) 加牟菩岐(かむほき)📖波婆幣閇弁倍富煩
　薩非使用

一般に、＜善悪＞は世俗的倫理観で決まるもの。相対的な価値観を表現しているに過ぎないが、それに気付きたくない人がほとんど。極めてご都合主義的な判断とみなされたのでは、日々の生活に支障をきたしかねないからだ。
しかし、宗教的倫理観からの善悪という概念も存在しており、こちらは、絶対的なもの。
仏教であれば、諸悪莫作衆善奉行ということになるが、それはベースのドグマが因果律だから、自ら堕とし込めてどうするという当たり前のテーゼ。
仁とか徳には、そのようなベースは一切ないのが特徴で、ただひたすら、中華帝国の"天子統治"社会の安定のための実践ルールを示しているだけと言ってよいだろう。儒教は宗族第一主義の宗教であっても、絶対的な善悪観を持っていないというか、その意義を全く認めていないからだ。

善4…「然善」　「我那勢命之上來由者必不善心欲奪我國耳」　「我爲汝命作善議」　「・・・吾者雖惡事而一言雖善事而一言言離之神葛城之一言主大神者也」
惡/悪9…是以惡神之音　猶其惡態不止而轉　「此鳥者其鳴音甚惡故可射殺」　爲射惡神之矢之至者　是者惡其富登云事　爾天皇悔恨而惡作玉人等　何擊遣西方之惡人等而返參上來之間未經幾時不賜軍衆今更平遣東方十二道之惡人等　「・・・吾者雖惡事而一言雖善事而一言言離之神葛城之一言主大神者也」
慚/慙(≒媿)(hrī:自ら心に罪を恥じる)2…圓野比賣慚言・・・是甚慚
　愧(apatrāpya:他人に対して罪を告白) 非使用
懺(kṣamā:許しを請う) 非使用
　悔(訳語:罪を悔いる)2…爾伊邪那美命答白「悔哉・・・　爾天皇悔恨而惡作玉人等
業(功業)_…　　[序文漢文]開夢歌而相纂業　(≒karman)

「古事記」は、"倭国は仏教とさほど関係が無かった。"とする見方で貫かれていると思って読んでいると、いくら指摘を受けても馬の耳に念仏状態になっているので、これ以上書いてもほとんど意味はないが、最後に、もう１つ仏教語彙をあげておくことにしよう。「古事記」での"領有支配"という意味での用例とは全く異なるが、現代感覚での常識的翻訳としてはこちらだから。・・・
　所知ショチ(知っている事柄) v.s. 能知
「古事記」では、＜所＞を純漢語用法で用いており、続く動詞文字が連体装飾語であることを示すことになる。・・・
　所知しらす国
　　e.g. 我御子正勝吾勝勝速日天忍穗耳命之所知國言因賜而天降也
　　　　　故稱其御世謂所知初國之御眞木天皇也