→INDEX

■■■ 「古事記」解釈 [2021.2.12] ■■■
[42] 刀剣神聖観念の由来
🗡"墓制と「古事記」" という観点で刀について眺めたことがあるが、📖皇位継承争いの刀 📖頭椎之大刀 📖紐小刀 📖草那藝劒 📖生大刀 📖都牟刈之大刀 📖伊都之尾羽張
そこで描かれている、刀剣に精神性を感じ、神聖な存在とみなす観念は、現在も生きているようだ。しかも、それが若者文化らしいから驚かされる。
この観念、「菊と刀」というタイトルにされたりする位で、西洋感覚では異文化の象徴と言ってもよさそうだから、日本人の古層の精神に由来していそうな感じがする。

「古事記」からすれば、そのルーツは天照大御神誕生以前。
出産する妻を火傷で死に至らしめた我が子 火の神である迦具土~を斬殺したシーンが語っている通り。
その遺骸や、流した涙から神々が生まれるのとは違い、血が関与するとはいえ、刀から神々が生まれるからだ。その後、その剣は黄泉軍を威圧する呪力を発揮することになる。

迦具土~の遺骸から生まれた神々が火山信仰を意味すると考えると📖富士山を無視する理由、それに続くこの神々の名称を眺めれば、真っ暗闇のなかで、雷を誘発させながら、岩をも砕く勢いで溶岩が流れ出す情景を彷彿させるものがあろう。

しかし、あくまでも当該地の自然を対象とする崇拝であり、非人格神の古代型である火山信仰の範疇に刀剣神8柱を入れるのは無理があろう。
こうした火山活動の畏怖心と、神々しさを、渡来してきた刀剣製造になぞらえたと考えるのが自然だ。
火山の神に与えてもらう黒曜石同様に切る力があるだけでなく、大きな五体をも切断してしまう威力に、霊の超能力を感じておかしくなく、それは火山神が刀剣に宿ったとの観念創出と同義である。
刀剣崇拝は、鍛冶技術と同時に伝来した宝剣譚由来に映るが、本朝においては、それがルーツではなく、刀剣には火の神が宿っているとの観念というのが太安万侶の見立てということ。

巨大丸木船や黒曜石とは違って、刀剣は自然物ではなく、"化成"した"モノ"であり、ここに於いてコペルニクス的転回が発生したことを意味しており、極めて重要な箇所と言えよう。

その、"化成"十拳剣神は8柱としてまとめられているが、どうも、真正"斎つ磐石"グループと御刀之手グループの2つに分かれているようだ。後者は、水銀鉱脈地域の丹生で祀られている高靇神と同一視されており、性情が違っていそうなので。
どうあれ、この8柱信仰は、建御雷男神/建布都神/豊布都神という人格神に集約されたと見てよさそう。
そこ存在する自然崇拝対象たる非人格神の時代を終わらせた、画期的な存在という評価がなされていると言ってもよいだろう。その核が、雷神になぞらえた刀剣神だったことになろう。

人格神が発生した頃の精神的残滓が描かれていそうな「山海経」を読めばわかる通り、山そのものが神であり、動物トーテム部族が乱立していた時代があったのである。それこそがまさに正真正銘の神話時代だが、太安万侶はそれと人格神の神話を共存させると、なにがなんだかわからなくなることに気付いたのであろう。そうなると、例えば、人格的性情を全く欠いている蛇崇拝に係わる話は「古事記」から除くしかなかろう。
巨樹の枝に懸っている太陽を三本足の烏が運ぶとか、御室山/三輪山が蛇体であるとか、龍が大活躍という神話を入れ始めると、切りが無くなること間違いなしだし。

ただ、そのような神話を抹殺しようと考えてはいない。現実に存在していたことは間違いないのだから。従って、その息吹を感じることができる話に仕上げることに注力することになる。人格化後のトーテム話の"兎と鰐"はその典型と言えよう。大国主神話に不可欠でもないのに、入れ込んで注意を喚起したようなもの。

そんな風に考えると、造化三神の意味も見えてくる。

畏怖感を土台とする蛇/山的信仰と知恵で自然を活用する大樹的信仰の2つの流れが、混然一体となって原初から存在していたことを示したのだろう。ひょっとすると、それは、巨大丸木船で、脱アフリカ⇒南インド⇒スンダ⇒黒潮島嶼⇒日本列島のルートで渡航した海人族の共通した世界観かも。

《刀@湯津石村 3柱》
○石析神 ○根析神
 御厨子神社@橿原(ご神体:岩)
 水尻神社/御厨子神社@橿原東池尻(御祭神:根析神 安産霊神[2つに割れた岩])
 磐裂根裂神社1570年@下野下都賀壬生安塚(御祭神:磐裂神 根裂神)
○石筒之男神
 羽梨山神社664年@笠間(御祭神:木花咲耶姫命)[無樹木の地の祠]
《著御刀本血 亦走就湯津石村 3柱》
○雍速日神 ○樋速日神
 樋速夜比古神社@雲南(御祭神:樋速夜比古命 雍速日神)
○建御雷男神/建布都神/豊布都神
 鹿島神宮(御祭神:武甕槌大神[建御雷])
 香取神宮(御祭神:経津主大神/伊波比主神/斎主神)…経津主大神≒豊布都神
《御刀之手 2柱》
○闇於加美神
 丹生川上神社(上社)@吉野川上迫宮平(御祭神:高靇神)
 丹生川上神社(下社)@吉野下市長谷(御祭神:闇靇神)
 黒龍神社&毛谷黒龍神社@福井
○闇御津羽神
 丹生川上神社(中社)@吉野東吉野小(御祭神:罔象女神)
 丹生神社@長浜余呉上丹生(御祭神:彌都波能賣命 丹生都比賣命)
斬刀名は、天之尾羽張/伊都之尾羽張。
 天安川神社@御所重阪(御祭神:天尾羽張神)
 斐伊神社@出雲大原/雲南(御祭神:須佐之男尊 稲田比売命 伊都之尾羽張命)

[註] 十拳(=十握)は剣の長さ、尾羽張は剣の根本(尾)側に張り出させた尾羽根形状を意味するらしい。10を聖数とし、尾羽根の威力を加えているところを見ると、渡来宝剣譚が刀剣信仰に大きな影響力を与えているのも間違いない。本朝のコンセプトとは思えないからだ。

 (C) 2021 RandDManagement.com  →HOME