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■■■ 「古事記」解釈 [2021.7.30] ■■■
[210]梅は無くとも桃桜は有る
🍑🌸「萬葉集」には白梅を詠んだ歌が100首を軽く越えるそうで📖愛でる花の色が変わってしまった木@2012年、桜の約3倍も収録されているらしい。一方、よく言われるように、「古事記」には梅は登場しない。

しかし、梅の類縁種は登場する。📖梅の分類@2014年
 梅
 │
 李・西洋李・杏
 │
 梅桃・庭梅
 │
 ・扁桃・上溝桜・博打の木・橉木
 │
 (梨系)車輪梅・天の梅 (下野-柳桜系)利久梅
 │
 (紫陽花系)梅花空木

もっとも、桃は倭の発想とは言いかねる。
【桃】📖桃文字類
   《黄泉国訪問譚》
  逃來 猶追到黄泉比良 坂之坂本時
  取在其坂本桃子三箇
  待撃者悉逃返也 爾 伊邪那岐命告其桃子
   汝如助吾 於葦原中國所有宇都志伎

亀甲ではなく、鹿肩骨を用いるという点では多少違うとはいえ、天香山の波波迦を使用するという独自性はあるものの、その方法は中華帝国に倣ったものでしかない。
【波波迦(=上溝桜)】📖桜花とは思えぬが
   《天石屋戸譚》
  内拔天香山之眞男鹿之肩拔而
  取天香山之天之波波迦

この上溝桜だが、樹皮も葉も、見れば一目で桜類であることがわかる。花は雄蕊多数が花弁から突き出ている上に房状に並ぶので、一見、桜のイメージと異なるものの、それは同じような桜しか見ないようになってしまったからである。虫や鳥にしてみれば、美味しい桜という評価になろう。塩漬けでの香りはトップクラスと言われているからだが。
要するに、上面に溝を掘った板"波波迦"に火を付けた棒を挿して罅割れを発生させるのに最適な桜材ということ。粘る脂分が多い材質ということ。

どうでもよいことを書いたが、結構、ここは重要な点で、桜信仰の原点を示しているからである。「古事記」に記載されている桜とは、地名・人名だけだからだ。・・・
【桜】📖春の精気を感じさせる木
   《伊邪本和氣命譜@[17]履中
  伊邪本和氣命 坐伊波禮之若📖
   《伊邪本和氣命命名部@[17]履中
  亦此御世 於若部臣等 賜若部名
   《天國押波流岐廣庭天皇譜@[29]欽明
  天皇・・・又娶宗賀之稻目宿禰大臣之女 岐多斯比賣
   生御子・・・次井之玄王・・・
   《沼名倉太玉敷命譜@[30]敏達
  此天皇 娶 庶妹 豐御食炊屋比賣命
   生御子・・・次 井玄王

桜井は、勿論、現在も残る地名である。
ところが、伊波禮は同じ辺りの筈で、超有名な名称な筈なのに、残渣も無きにしも非ずとは言え、ほとんど霧消状態で落差が激しい。
初代天皇の記念すべき地であり、その名称だけは使っているのに宮地は橿原だというに。📖伊波礼の地は失墜したのか

しかし、状況を鑑みるに、そうなってしまったのは池を造成したからだろう。それは一見農業用水向け溜池に映るが、二俣小舟で本牟智和気王を遊ばせたところから判断するに、これは御苑用。📖針葉樹の意味は何だろう
竹林の巨大な堤を造成し📖竹具は海人が伝えたのだろうか、丘側に向けて桜を植林したのと違うか。天壇・地壇の祭祀だけでなく、池での祭祀も行ったということ。
この地は奈良盆地の要衝であり、朝廷の威光を示すに最適な地でもあることだし。
ただ、初瀬川同様に、寺川も大氾濫したに相違なく堤防全体が流され流路も変わり一体は湿地化してしまった可能性があろう。桜守も支える地盤を失えばどうにもならない。

桜信仰の基盤はこの地で形成されたのではあるまいか。

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