表紙 目次 | ■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.10.11 ■■■ 平泉山居草木記から「續集卷九 支植上」(拾遺)には李徳裕[787-850年]の話が多い。その名前が記載されているものはとりあげたが、[→]それ以外もみておこう。どういうことかと言えば、「舊唐書」卷一百七十四 李コ裕列傳が語る通り。そこは、"樹石幽奇"なのである。・・・ コ裕以器業自負,特達不群。好著書為文,獎善嫉惡,雖位極臺輔,而讀書不輟。有劉三復者,長於章奏,尤奇待之。自コ裕始鎮浙西,迄於淮甸,皆參佐賓筵。軍政之余,與之吟詠終日。在長安私第,別構起草院。院有精思亭;毎朝廷用兵,詔令制置,而獨處亭中,凝然握管,左右侍者無能預焉。 東都於伊闕南置平泉別墅, 清流翠篠,樹石幽奇。 初未仕時,講學其中。及從官籓服,出將入相,三十年不復重遊,而題寄歌詩,皆銘之於石。今有《花木記》、《歌詩篇録》二石存焉。有文集二十卷。記述舊事,則有《次柳氏舊書》、《御臣要略》、《代叛志》、《獻替録》行於世。 それが、どのようなものであったかは、「平泉山居草木記」[@「全唐文」卷七百八]としてまとめられている。・・・ 余嘗覽想石泉公家藏藏書目,有《園庭草木蔬》,則知先哲所尚,必有意焉。余二十年間,三守呉門,一蒞淮服。嘉樹芳草,性之所耽,或致自同人,或得於樵客,始則盈尺,今已豐尋。因感學《詩》者多識草木之名,為《騷》者必盡蓀荃之美。乃記所出山澤,庶資博聞。 木之奇者, 有天台之金松、 h樹,稽山之海棠、榧、檜,剡溪之紅桂、厚朴,海嶠之香檉、 木蘭, 天目之青神、鳳集, 鍾山之月桂、 青颼、楊梅,曲房之山桂、溫樹,金陵之珠柏、欒荊、杜鵑,茆山之山桃、側柏、南燭,宜春之柳柏、紅豆、山櫻,藍田之栗梨、龍柏。 其水物之美者, 荷有蘋洲之重臺蓮,芙蓉湖之白蓮, 茅山東溪之芳蓀。 復有日觀、震澤、巫嶺、羅浮、桂水、嚴湍、廬阜、漏澤之石在焉。 其伊、洛名園所有,今並不載。 豈若潘賦《闍潤t,稱郁棣之藻麗;陶歸衡宇,喜松菊之猶存。 爰列嘉名,書之於石。己未歲, 又得番禺之山茶,宛陵之紫丁香,會稽之百葉木芙蓉、百葉薔薇, 永嘉之紫桂、蔟蝶, 天台之海石楠, 桂林之俱郍衛。 台嶺、八公之怪石,巫山、嚴湍、琅邪臺之水石,布於清渠之側;仙人跡、鹿跡之石,列於佛榻之前。 是歲又得鍾陵之同心木芙蓉,剡中之真紅桂,稽山之四時杜鵑、相思、紫苑、 貞桐、山茗、重臺薔薇、黄槿, 東陽之牡桂、 紫石楠, 九華山藥樹、天蓼、青櫪、黄心〔木先〕子、朱杉、龍骨。 __庚申歲,復得宜春之筆樹、楠稚子、金荊、紅筆、密蒙、勾栗木。 其草藥又得山薑、碧百合焉。 早速、「酉陽雑俎」の本文でみてみよう。・・・ ○ 金松,葉似"麥門冬",葉中一縷如金糸延。 出浙東,臺州猶多。 詩にも詠んでいるから、李コ裕お気に入り樹木だったようだ。 「春暮思平泉雜詠二十首:金松」 台嶺生奇樹,佳名世未知。纖纖疑大菊,落落是松枝。 照日含金晰,籠煙淡翠滋。勿言人去晩,猶有歲寒期。 [「全唐詩」卷四百七十五 李コ裕] ただ、名称不明だから、様相から"金松"と仮に呼んだのであろう。 似ているとされる"麥門冬"は蛇の髭 or 竜の髯/Mondo grassの類だから、葉が糸のように垂れている針葉樹ということだろう。 常識的には、日本の独自種である日本金松/高野槙/コウヤマキ/Japanese umbrella-pineの同類となるが、唐代にすでに大陸にはそのような種は絶滅していたのではないかと思う。 → 「正真正銘の木」[2012.9.6] ということは、天台山に、日本から持ち込まれた可能性を感じさせる。 ○ 木蓮花,葉似辛夷,花類蓮花,色相傍。 出忠州鳴玉溪,邛州亦有。 遠くから見れば伐だが、白木蓮/ハクモクレンと辛夷/コブシが似ているとは思えないが、日本でも同類と考えられていたとの説もあるとか。ともあれ、いかにも古代感がある花であり、とりあげておくべきと考えたのだろう。 → 「始花木」[2014.1.6] 成式が気になったのは、輞川荘には辛夷塢と木蘭柴があったという点もありそうだが。 尚、紫木蓮も洛陽にあると、別途、付け加えているのは流石。・・・ 東都[洛陽]敦化坊百姓家,太和中有木蘭一樹,色深紅。 後桂州觀察使李勃看宅人,以五千買之。宅在水北。經年,花紫色。 [續集卷十 支植下] ○ 溪蓀,如高粱姜。 生水中。出茆山。 これも、詩にも詠んでいるから、李コ裕お気に入り樹木だったようだ。 「春暮思平泉雜詠二十首:芳蓀」 楚客重蘭蓀,遺芳今未歇。葉抽清淺水,花照暄妍節。 紫豔映渠鮮,輕香含露潔。離居若有贈,暫與幽人折。 [「全唐詩」卷四百七十五 李コ裕] 似ているとされる"高粱姜"とは、ポピュラーなものと考えられるから、高粱姜=高良姜=風姜=膏凉姜と見てよさそう。要するに、高良地区の"姜"ということ。植物学的には、高良薑/ガランガル/Galangalである。 耳慣れない名称だが、トムヤムクンに入っている生姜である。 水辺に生えている地下茎が発達した草ということなのだろう。「本草綱目」草之八(水草類二十三種)白菖にあたるようである。・・・ 時珍曰: 此即今池澤所生菖蒲,葉無劍脊,根肥白而節疏慢,故謂之白菖。古人以根爲兗食,謂之菖本,亦曰菖,文王好食之。其生溪澗者,名溪蓀。 似た植物があるので、はたしてどれかはなんとも言い難いところはある。 → 「いずれが菖蒲/綾目/杜若」[2014.4.25] ○ 山茶,似海石榴。 出桂州。蜀地亦有。 山茶は日本の国字の椿と同義とされている。照葉樹林であるから、雲貴高原に類似種があって当然だが、はたして唐代の桂州@広西桂林に存在したのだろうか。海石榴もツバキと考えることもできるが、ここでは海外の石榴/ザクロと考えるべきか。 → 「山茶表現に見る和的体質」[2015.11.7] 尚、山茶はツバキですゾと付け加えている。・・・ 山茶花,山茶葉似茶樹,高者丈余。花大盈寸,色如緋,十二月開。 [續集卷十 支植下] ○ 簇蝶花,花為朵, 其簇一蕊,蕊如蓮房,色如退紅。 出溫州。 木蝴蝶 or 玉蝴蝶/反莢木/ソリザヤノキ/Indian Trumetflower or Broken Bones Treeであろう。 熱帯性の落葉樹でインド〜東南アジア〜中国南部に棲息。赤紫色の花弁で、肉厚の筒状。 ○ 俱那衛,葉如竹,三莖一層。 莖端分條如貞桐。花小,類木槲。出桂州。 夾竹桃の類だろう。竹譜にはあるのだろうか。[→] 次の"貞桐"に似ているというのだが。 ○ 貞桐,枝端抽赤黄條,條復旁對,分三層。 花大如落蘇花,作黄色,一莖上有五六十朵。 "貞桐"は、赬桐 or 馬鞭草/唐桐 or 緋桐/ヒギリとされている。紫蘇の仲間らしいが、葉がハート型でそれなりに丈夫であり、花が緑に映えるから観賞用であろう。もちろん、薬用にされたであろうが。 ○ 牡桂,葉大如苦竹葉,葉中一脈如筆跡。 花帶葉三瓣,瓣端分為兩歧, 其表色淺黄,近歧淺紅色。 花六瓣,色白,心凸起如荔枝,其色紫。 出婺州山中。 日本でいうところの"桂/Cassia"は"東京肉桂"が正式な名称。もちろん、Tokyo@JAPANではなく、越南の都市(ハノイ)を指す。 → 「肉桂の話」[2008.6.17] まぎらわしいので、再掲。[→] ○ 山桂,葉如麻,細花紫色,黄葉簇生如慎火草。 出丹陽山中。 こちらは、詩に登場。 「春暮思平泉雜詠二十首:山桂」 吾愛山中樹,繁英滿目鮮。臨風飄碎錦,映日亂非煙。 影入春潭底,香凝月榭前。豈知幽獨客,ョ此當朱弦。 [「全唐詩」卷四百七十五 李コ裕] 似ているとされる、慎火草 or 戒火=景天@泰山/弁慶草/Garden stonecropから見て、全く違う植物であろう。 ○ 三色石楠花,衡山石楠花有紫、碧、白三色, 花大如牡丹,亦有無花者。 平泉植栽の石楠が、南岳衡山棲息の三色石楠花に該当するとは限らないが、取り上げておく。 日本人だと、"石楠"はシャクナゲだが、現代中国語では全く違う植物、石楠 or 扇骨木/要黐/カナメモチ/Photiniaの名称である。分類学上では果樹系(林檎や梨)に近いグループに属すようで、シャクナゲとは全く異なる系統と考えてよいだろう。 ところが、この要黐の花はどう見ても牡丹とは似ても似つかぬもの。 これは、やはりシャクナゲと考えるしかあるまい。 言うまでもなく、杜鵑花/躑躅/ツツジ/Azaleaに属sしており、中国語の分類上の名称は"常酷m鵑"となる。 花の素人にとってはもともと種の分類が至極厄介な分野と言ってよい。 → 「滅茶苦茶雑種の木」[2012.11.22] 四川〜雲南〜西蔵〜ビルマ〜アッサム〜シッキム〜ブータン〜ネパール辺りを調査すれば、いくらでも種がみつかるだろう。名称からみても、[白花卵葉杜鵑, 黄杯杜鵑, 朱紅大杜鵑, 等々]花の色も色々ありそう。 尚、「本草綱目」木之三(灌木類五十一種)では、石南と記載。・・・ 時珍曰: 生於石間向陽之處,故名石南。 桂陽呼為風藥,充茗及浸酒飲能愈頭風,故名。 (参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載. 「酉陽雑俎」の面白さの目次へ>>> トップ頁へ>>> (C) 2017 RandDManagement.com |