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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.3.1 ■■■

四言両句釈詩[11:象連句観賞]

「釈象詩10連句」を個々に眺めてきたので、一括して観賞してみよう。・・・

  語。
  各象事須切,
  不得引俗書。


【1】寶之數,・・・仏宝を数えれば、7つになるが、
          その精神的宝こそ白象宝。

【0】鉤不可(鼎上人)・・・信、進、念、禅、慧なくしては、
          宝にできぬのが象。

  [→1]

唯【猊】可伏,・・・百獣の王は獅子だが、
          はるかに越える力を持つのが象。

非【駝】所堪(柯古)・・・駝は独覚、驢は声聞、
          それを越えるのが大乗の象。

  [→2]

【坑】中無底,・・・深穴ありとて、智慧と力があるから、
          なんなく解決するのが象王。

【跡】中無勝(文上人)・・・数々の、通った跡を残し、
          そこから学びを与えるのが象王。

  [→3]

與【馬】同渡,・・・兎は声聞、馬は縁覚、と表層的。
          心底理解しているのは大乗の白象。

負【猿】而行(善繼)・・・鳥や猿には先の功あり。
          礼を尽くし、応分の供養をする大象。

  [→4]

【色】青力劣,・・・牛のなかで最強は青牛だが、
          野牛はそれを凌駕。さらに上が白象。

名【香】幾重(夢復)・・・力の源泉は芳香。
          薫香でとてつもない力を発揮するのが香象。

  [→5]

【尾】既出・・・尾がひっかかるだけで、
          脱家できなくなるのが象。

【身】可取興(約上人)・・・外見上、身体は外にあっても、
          実質的には出家できぬのが象。

  [→6]

【6】牙生花,・・・牙は荘厳の象徴であり、
          白蓮的美しさを醸しだす象王。

【7】支(柯古)・・・屹立する姿を見せることで、
          法の象徴を果たす象宝。・・・

  [→7]

【形】如珂雪,・・・珂雪の形容が当てはまるのは、
          菩薩的様相の雪山白象。

【力】絶羈瑣(善繼)・・・鎖で自由を奪えば
          それを断ち切って去るのみの香象。

  [→8]

【園】開脅上,・・・帝釈天の園に居るのは、
          乗せて飛び廻る十牙白象。

【河】出鼻中(柯古)・・・河川など鼻水にすぎぬ。
          国土創りの大元は白象王。

  [→9]

【1】醉難調,・・・酔えば殺人もありうる。
          地獄行きになりかねぬのが野象。

【6】對曾勝(日高上人)・・・悪疫の龍蛇退治を請われれば、
          命を布施して、実現するのが聖象。

  [→10]

唐代の知的エリートして自負感あればこその、会心の作と言ってよいだろう。晩唐代の知的水準の高さを如実に示している。

特に、サロン独自の格律(字数と対句, 合計句数, 平仄と押韻)をもってして、五言絶句や七言律詩の範疇からの脱出を図っている点は特筆すべきこと。ジャズ的な即興性で互いの心根をぶつけあい、模倣に明け暮れる詩人の世界と一線を画すとともに、パターン化している経典信仰とは別な世界を切り拓いていると言えよう。仏教精神の開放感を見せつけているようなもの。

当時の社会は、廃仏崇道へと歩を進めており、そんな流れに掉さす思想的営為と見てもよかろう。禅宗や浄土宗といった開花し始めた新興宗教とは一線を画す動きだが、上人の尾身話や〆に示されているように、時代感が満ち溢れている作品であるのも間違いない。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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