表紙 目次 | ■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.4.16 ■■■ 道教世界道士逸話からなる[卷二 壺史]を「唐朝道教の変遷」という観点から眺めてみた。[→]折角だから、[卷二 玉格]の道教一般解説的箇所に触れておこうと思う。 道教は、込み入った官僚制の神々からなる信仰なので、理解するのは極めて難しい。 もっとも、煩雑に感じてしまうのは部外者だから。すべての神々が官僚統治機構的な仕組みで整理されているから、信仰者から見れば自らのご利益に関係する神々はすぐにわかる。それ以外は「その他」で済ませればよい訳で面倒なことはないもない。 そんなことに気付くだけでも、えらく労力を費やすことになる。一知半解レベルでかまわないと思っても、全体像がなかなか見えてこないのである。・・・ → 「最高3神信仰の文化的違い」,「印度教の見方」,「呪術信仰が基盤」,「官僚的仕組み」,「星信仰」,「女神」,「宇宙創成」,「最高神グループ」,「八百の神々」,「仏教習合」 さて、成式だが、道術士だらけの社会のなかで住んでいる上に、天子も道教好みなのだから、その全体像を知らない訳がない。にもかかわらず、解説的な話から始まるのがなんとも解せぬ。 書き方からすると、仏教の宇宙イメージと比較したくなったのかも。 ただ、道教の宇宙とは、もともと渡来仏教の考え方に合わせて再構成したものと思われるから、たいした意味はないようにも思うのだが。(仏教であれば、根本思想からの発展形として様々な見方が生まれるという流れが見てとれるが、道教はどう見ても各地の土着的信仰をそのまま強引に取り込んで、後付の理屈が乗っかる形だと見る。ただ、それでは仏教と比較されるといささかお寒い限り。それだけの話。といっても、仏教並に精緻にお話を組み立てないと、論争で負け、処刑されかねない。当事者は必死。) ただ、広大な大陸各地の多種多様な信仰を同居させた理屈だからそれはどうしても凄まじいものになる。その辺りの特徴をはっきりさせようという意図なら比較は意味があるかも。と言うか、そんなことをすれば、道教が自己矛盾型の宗教であることが明白になってしまうのである。・・・成式の道士の取り上げ方にしても、一般的には俗世を超越して不老不死を目指す人とされる。しかし、道教として、教派信仰化を始めた塗炭に組織作りが始まるので、当然ながら階級制度というか、中華社会の根幹である官僚支配構造が生まれてしまう。その世界を嫌っているにもかかわらず、その世界にどっぷり浸かることになる訳だ。 前置きが長くなったので、本文を見てみよう。 道列三界諸天,數與釋氏同,但名別耳。 ・・・無極界,太極界,社極界 (釋門 三界二十八天、) 三界外曰四人境,謂常融、玉隆、梵度、覆奕四天也。 (釋門 四洲至華藏世界、) 四人天外曰三清,大赤、禹余、清微也。 <三清天> 玄気⇒太清境の大赤天 元気⇒上清境の禹餘天 始気⇒玉清境の清微天 三清上曰大羅, 玄+元+始⇒大羅天 又有九天波利等九名。 九天者,從下 第一波利天 第二迦夷天 第三梵寶天 第四化應天 第五不驕天 第六寂然天 第七須延天 第八禪善天 第九鬱單天 天圓十二綱,運關三百六十轉為一周,天運三千六百周為陽孛。地紀推機三百三十轉為一度,地轉三千三百度為陽蝕。 [出典《上清三天正法經》]天圓十二綱,地方十二紀。天綱運關,三百六十輪為一周;地紀推機,三百三十輪為一度。天運三千六百周為陽勃,地轉三千三百度為陰蝕。 天地相去四十萬九千裏,四方相去萬萬九千裏。 [出典《太上洞玄靈寶天關經》]天地相去四萬八千里,東西南北相去萬萬九千里,日月各徑三千里,周圓各九千里。 なんとも細かい訳だが、官僚制の文化に染まるとこれが心地よいのであろう。いくら事細かになっても、記録しておけばよいだけのこと。経典宗教ではなく、名称と役割の職掌宗教とでも呼びたくなるような、文書管理の仕組みで成り立つ信仰なのである。インド的な哲学からくる膨大な数字の観念とは違う訳である。 ともあれ、その特徴は、"山"が聖地であること。場合によっては、そこの地下世界として洞があったりするが、それは習合だろう。名山の数からみて、400近い部族の土着信仰のエッセンスが道教だと思われる。老子や荘子の考え方は、それにのっかっているだけ。 日本仏教にしても、山上になくても、例えば、「金龍山浅草寺」のように、お寺には山のお堂感を醸し出す名前がついているから、古層の信仰に由来しているのかも知れない。 福地になると、これは道教の拠点であろう。大陸全体をカバーしていることがわかる。 名山三百六十, 福地七十二, 太上曰:其次七十二福地,在大地名山之間,上帝命真人治之,其間多得道之所。 01[江蘇]地肺山。在江寧府句容縣界,昔陶隱居幽棲之處,真人謝允治之。 02[-]蓋竹山。在衢州仙都縣,真人施存治之。 03[-]仙磕山。在溫州梁城縣十五里,近白溪草市,真人張重華治之。 04[浙江]東仙源。在台州黄岩縣,屬地仙劉奉林治之。 05[-]西仙源。亦在台州黄岩縣嶠嶺一百二十里,屬地仙張兆期治之。 06[-]南田山。在東海東,舟船往來可到,屬劉真人治之。 07[-]玉溜山。在東海,近蓬萊島,上多真仙居之,屬地仙許邁治之。 08[-]清嶼山。在東海之西,與扶桑相接,真人劉子光治之。 09[江西]鬱木洞。在玉笥山南,是蕭子雲侍郎隱處,至今陰雨,猶聞絲竹之音,往往樵人遇之,屬地仙赤魯班主之。 10[江西]丹霞洞。在麻姑山,是蔡經真人得道之處,至今雨夜,多聞鐘磬之聲,屬蔡真人治之。 11[湖南]君山。在洞庭青草湖中,屬地仙侯生所治。 12[浙江]大若岩。在溫州永嘉縣東一百二十里,屬地仙李方回治之。 13[福建]焦源。在建州建陽縣北,是尹真人隱處。 14[浙江]靈墟。在台州唐興縣北,是白雲先生隱處。 15[浙江]沃州。在越州剡縣南,屬真人方明所治之。 16[浙江]天姥岑。在剡縣南,屬真人魏顯仁治之。 17[浙江]若即溪。在越州會稽縣南,屬真人山世遠所治之。 18[安徽]金庭山。在廬州巣縣,別名紫微山,屬馬仙人治之。 19[廣東]清遠山。在廣州清遠縣,屬陰真人治之。 20[廣東]安山。在交州北,安期先生隱處,屬先生治之。 21[湖南]馬嶺山。在郴州郭内水東,蘇□隱處,屬真人力牧主之。 22[湖南]鵝羊山。在潭州長沙縣,婁駕先生所隱處。 23[-]洞真墟。在潭州長沙縣,西嶽真人韓終所治之處。 24[-]青玉壇。在南岳祝融峰西,青烏公治之。 25光天壇。在衡岳西源頭,鳳真人所治之處。 26[-]洞靈源。在南嶽招仙觀觀西,ケ先生所隱地也。 27[福建]洞宮山。在建州關隸鎮五嶺裏,黄山公主之。 28[浙江]陶山。在溫州安國縣,陶先生曾隱居此處。 29[浙江]三皇井。在溫州陽縣,真人鮑察所治處。 30[浙江]爛柯山。在衢州信安縣,王質先生隱處。 31[福建]勒溪。在建州建陽縣東,是孔子遺硯之所。 32[江西]龍虎山。在信州貴溪縣,仙人張巨君主之。 33[江西]靈山。在信州上饒縣北,墨真人治之。 34[廣東]泉源。在羅浮山中,仙人華子期治之。 35[江西]金精山。在虔州虔化縣,仇季子治之。 36[江西]閣p山。在吉州新淦縣,郭真人所治處。 37[江西]始豐山。在洪州豐城縣,尹真人所治之地。 38[江西]逍遙山。在洪州南昌縣,徐真人治之地。 39[江西]東白源。在洪州新呉縣東,劉仙人所治之地。 40[江蘇]缽池山。在楚州,王喬得道之處。 41[江蘇]論山。在潤州丹徒縣,是終真人治之。 42[江蘇]毛公壇。在蘇州長洲縣,屬莊仙人修道之所。 43[安徽]雞籠山。在和州暦陽縣,屬郭真人治之。 44[河南]桐柏山。在唐州桐柏縣,屬李仙君所治之處。 45[四川]平都山。在忠州,是陰真君上升之處。 46[湖南]榊f山。在朗州武陵縣,接桃源界。 47[江西]虎溪山。在江州南彭澤縣,是五柳先生隱處。 48[湖南]彰龍山。在潭州澧陵縣北,屬臧先生治之。 49[廣東]抱福山。在連州連山縣,屬範真人所治處。 50[四川]大面山。在益州成都縣,屬仙人柏成子治之。 51[江西]元晨山。在江州都昌縣,孫真人安期生治之。 52[江西]馬蹄山。在饒州鄱陽縣,真人子州所治之處。 53[湖南]コ山。在朗州武陵縣,仙人張巨君治之。 54[陝西]高溪藍水山。在雍州藍田縣,並太上所游處。 55[陝西]藍水。在西都藍田縣,屬地仙張兆期所治之處。 56[陝西]玉峰。在西都京兆縣,屬仙人柏戸治之。 57[浙江]天柱山。在杭州於潛縣,屬地仙王伯元治之。 58[陝西]商谷山。在商州,是四皓仙人隱處。 59[江蘇]張公洞。在常州宜興縣,真人康桑治之。 60[浙江]司馬悔山。在台州天台山,此是李明仙人所治處。 61[山東]長在山。在齊州長山縣,是毛真人治之。 62[山西]中條山。在河中府虞鄉縣管,是趙仙人治處。 63[雲南]菱湖魚澄洞。在西古姚州,始皇先生曾隱此處。 64[四川]綿竹山。在漢州綿竹縣,是瓊華夫人治之。 65[-]瀘水。在西梁州,是仙人安公治之。 66[四川]甘山。在黔南,是寧真人治處。 67[四川]王晃山。在漢州,是赤須先生治之。 68[山西]金城山。在古限戍,又云石戍,是石真人所治之處。 69[湖南]雲山。在邵州武剛縣,屬仙人盧生治之。 70[河南]北邙山。在東都洛陽縣,屬魏真人治之。 71[福建]盧山。在福州連江縣,屬謝真人治之。 72[江蘇]東海山。在海州東二十五里,屬王真人治之。 [暫缺:「洞天福地記」] 昆侖為天地之齊。又九地、 九地者,自上 第一色潤地, 第二潤色地, 第三色澤地, 第四潤澤地, 第五金粟澤地, 第六金剛澤地, 第七水澤地, 第八風澤地, 第九洞泉綱維地,此亦名九壘也。 [出典《太上洞玄靈寶天關經》]崑崙山為天地之齊,北辰玄君其上,北斗一星面百里,相去九萬里,如是置立,凡有九天九地焉。 四十六土、八酒仙宮,言冥謫陰者之所。 道教の特徴は、冥府を取り仕切る裁判の仕組みが細かいこと。その場所は、羅酆の山。そこには6宮があり、死むとここで順番に処されることになる。担当は鬼神だが、北斗信仰と習合している。 この地名だが、想像の世界のものと思っているとそういうことでもないらしい。現実に存在する四川の地と読むことも可能なようだ。 有羅酆山,在北方癸地,周回三萬裏,高二千六百裏。洞天六宮,周一萬裏,高二千六百裏。洞天六宮,是為六天鬼神之宮。 六天, 一曰紂絶陰天宮, 二曰泰煞諒事宮, 三曰明辰耐犯宮, 四曰怙照罪氣宮, 五曰宗靈七非宮, 六曰敢司連苑宮。 人死皆至其中,人欲常念六天宮名。空洞之小天,三陰所治也。又耐犯宮主生,紂絶天主死。禍福續命,由怙照第四天鬼官北鬥君所治,即七辰北鬥之考官也。 [出典《茅山派開祖 陶弘景[456-536年]:「真誥」卷十五 闡幽微第一》]羅37190山在北方癸地。山高二千六百里,周回三萬里,其山下有洞天,在山之周回一萬五千里。其上其下,並有鬼神宮室,山上有六宮,洞中有六宮,輒周回千里,是為六天鬼神之宮也。山上為外宮,洞中為内宮,製度等耳。第一宮名為紂絶陰天宮,以次東行。第二宮名為泰煞諒事宗天宮。第三宮名為明晨耐犯武城天宮。第四宮名為恬昭罪氣天宮。第五宮名為宗靈七非天宮。第六宮名為敢司連宛屢天宮。凡六天宮是為鬼神六天之治也,洞中六天宮亦同名,相像如一也。世人有知酆都六天宮門名,則百鬼不敢為害。-----人初死,皆先詣紂絶陰天宮中受事,或有先詣名山及泰山江河者,不必便徑先詣第一天。-----禍福吉凶續命罪害,由恬昭第四天宮鬼官地鬥君治此中,鬼官之北鬥。 それで、どういうことがおきるかというと、北斗鬼官の力を頂戴しようとなる。官僚制の神々であるから、それも可能なのだ。要するに、六宮の冥道秘呪が存在する訳である。・・・ 項梁城《酆都宮頌》曰: “紂絶標帝晨,諒事構重阿。 炎如霄漢煙,勃如景耀華。 武陽帶神鋒,怙照呑清河。 開闔臨丹井,雲門郁嵯峨。 七非通奇靈,連苑亦敷魔。 六天北道,此是鬼神家。” 凡有二萬言,此唯天宮名耳。夜中微讀之,辟鬼魅。 [出典《上清握中訣卷中》]畢,啄齒六下,又祝呪三過止,乃卧辟諸鬼邪之氣。云此定録所告,世人有知酆都六天宮門者,則百鬼不敢為害。酆都宮頌項梁城,作酆宮頌曰:---] (引用) 正統道藏電子文字資料庫 洞玄部記傳類 (参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎 1」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載. 酉陽雑俎」の面白さの目次へ>>> トップ頁へ>>> (C) 2016 RandDManagement.com |