■■■ 鳥類/哺乳類等の分類 2013.5.21 ■■■

   蟲という言い方

「虫」という漢字は、もともとは蛇の象形文字らしい。「□」は頭で、その下部が胴体のニョロリ感を出している訳だ。頭部の上部に出ているのは、舌で、頭部が線で左右に分割されているのは、左右の眼玉を表現しているということなのだろう。当然ながら、蛇といっても、真虫たるマムシで、大蛇ではない。
つまり、「虫」とは、昆虫を指していない訳だ。

と言えば、昆虫等を意味する漢字の「虫」とは、本来は「蟲」ということを思い出す訳だが、そうなると、1つ「虫」がヘビなら、3つ「虫」は一体どういう概念になるのかすぐにはわかりかねる。「木→林→森」のアナロジーで考えてしまうから。「木」の場合は、人工的に複数本植えると「林」で、天然の集合体が「森」という考え方。さすれば、「蟲」は「群れたヘビ」となってしまう。それが、昆虫のような生物を意味するとすれば、小さな生物を指す漢字であるとの解説は当たっているような感じがする。滅多なことでは「大きくなれない動物」という概念ということになる。

この考え方だと、爬虫類と記載するのは、ヘビを含むということでは、「虫」が妥当となる。爬蟲類という表記も「鱗」的な表皮を持つ小動物群ということなら当たっているが、大きな「亀」や「鰐」が代表格の動物と考えるなら「蟲」は止めるべきとなろう。

一見、この「蟲」という概念は大雑把に映るが、結構、本質を捉えているのではないか。

と言うのは、節足動物は当然ながらずべて「蟲」だからだ。そのなかでも圧倒的な存在感を見せる昆虫は、翅蟲ということになるが、常識で考えればわかるが、空を飛ぼうというのだから、体躯の大型化ができる訳がない。化石ではどんでもなく大きなトンボが存在したといわれるが、極めて例外的。飛べないタイプの節足動物にしても、外殻構造体である限り、大きくなれないのでは。脊索/脊椎を持つと、構造を支える骨格系だけでなく、神経系や血管系も独立した構造を形成することになる。これなら、大型化しても、代謝系は維持可能。これに対して、外殻に機能付与していく仕組みでは、体躯を大きくすれば代謝機能が極端に落ちてしまう。小動物ほど代謝が効率的なのでは。
ここら辺りを見抜くと、「蟲」は節足動物だけでなく、軟体動物も同類と考えることになろう。

ただ、蟲の主流が翅蟲であると考えたものの見方という気はする。イモ蟲や、蛹を経て、成虫になるのを見れば、これこそ蟲と思って当然ではなかろうか。イモ蟲など、中身を見れば、そこはドロドロした訳のわからぬものが詰まっているだけ。それが、蛹という複雑な形状の「卵」に戻って、再度、そこから生まれるという、不思議な生物である。しかも成虫は短命とくる。ここから生まれたイメージに合うものが蟲類と考えると、どの好物が入りそうか見えてくる。脊椎動物であっても、そこに入れたくなるものは少なくなかろう。

と言うことで、「虫」を含む漢字名称の動物をあげて見た。要するに、細々した小さな動物ということ。よくよく考えると、なかなか鋭い見方。

  --- 蟲の仲間 ---
【節足動物-鋏角類】
 蠍/蝎 さそり
 蛛/蜘 くも
 壁蝨/蜱/蟎/螕 だに
【節足動物-多足類】
 蚣 むかで
 /千足虫 やすで
  ヤスデは「馬陸」だが、接尾語のムシをつけるか、虫偏漢字が正統では。
【節足動物-甲殻類】
 蛯 えび
 蟹/蠏 かに
 寄居蟲 やどかり
 威/草鞋虫 わらじむし
 石 かめのて
  これらは変態初期のプランクトンのような幼「蟲」世代が知られている。
  変態究極の姿はカニだが、巨大化しても「蟲」的小動物の範囲。

【節足動物-昆虫類】・・・翅虫
 蜻蛉 とんぼ/かげろう
 蜂 はち
 螽 いなご
 蠅 はえ
 蚋 ぶゆ
 蜂 はち
 虻 あぶ
 蟻 あり
 蝶 ちょう
 蛾 が
 蝉 せみ
 蛍 ほたる
 蜚蠊 ごきぶり
 螌蝥 はんみょう
 蟋蟀 こおろぎ
 蚊 か
 蟷螂 かまきり
 蝨/虱 しらみ
 飛蝗 ばった
 蛃/蟫 しみ
 叩頭虫 こめつきむし
 瓢虫/天道虫 てんとうむし
  すべて「蟲」。
  虫が入らない漢字の名称なら、接尾語として「虫」をつけるべきだろう。
  七節/竹節はナナフシムシ。髪切はカミキリムシ(「天牛」)。
  尚、シミは通常は「衣魚」だがそれは尻尾が魚形の「丙」だから。
  衣魚蟲であり、衣類でなく書物につくと別文字。


【紐形動物】
 紐虫 ひもむし
【星口動物】
 星虫/沙虫 ほしむし
【刺胞動物】
  ひどら
  クラゲは「水母」だが、「箱蟲」といったところ。


【環形動物】
 蚯蚓 みみず
 蛭 ひる
 沙蚕[砂虫/袋虫] ごかい
  ゆむし
【軟体動物】
 蛞蝓 なめくじ
 蝸牛 かたつむり
 蛸 たこ
 蚫 あわび
 浅蜊 あさり
 蛤 はまぐり
 牡蠣 かき
 蜆 しじみ
 栄螺 さざえ
  たにし
 船喰虫 ふなくいむし
  イカは「烏賊」だが、カラスを捕食する説話があったから。
  普通は「墨魚」で、鱗は無いものの「魚」。「蟲」ではない。
  おそらく、大型化したイカの存在を知っていたから。
  烏を使いたいなら「烏魚」と記述するようだ。
  尚、中華料理のスルメイカは「」である。
  まあ、「柔魚/」と記載されると概念がわかり易いが。

【扁形動物】
 渦虫 ウズムシ[プラナリア]

【脊索動物〜脊椎動物-魚類】
 −
  魚は大型化するので「蟲」扱いできない。
【脊索動物〜脊椎動物-両棲類】
 蛙 かえる
 蟆 ひきがえる
 蠑螈 いもり
  小動物なので、基本的にすべて含まれるのではないか。
  但し、陸棲感が薄い山椒魚/鯢は「魚」扱いとなる。

【脊索動物〜脊椎動物-爬虫類】
 蛇 へび
 蝮 まむし("真虫")
 蜥蜴 とかげ
 蝘蜓 やもり
  大型なは「蟲」でなく、水棲の鱗表皮の「魚」に該当する。
  には畏敬の念が払われており、独立して扱うべき。

【脊索動物〜脊椎動物-鳥類】
 −
  空棲であり、小鳥は小さいが、表皮が「羽」で「蟲」とは無縁。
【脊索動物〜脊椎動物-哺乳類】
 蝙蝠 こうもり
  唯一、「蟲」とされている。
  真性の「毛」皮の獣ではないし、滑空でなく、飛ぶ動物だ。
  従って、「鳥」か「蟲」だが、表皮が「羽」でないから、「蟲」。
  適当に決めたように映るが、洞察力は流石。・・・ 
  表皮から、足を含めた動物の外/内形ができることを観察した結果だから。
  脊索/脊椎という分類は解剖所見。
  外皮分類は発生過程からくる概念でもある。

【棘皮動物】
 蜘蛛海星/蛇尾 くもひとで
  特殊で、多分、「蟲」扱い生物ではない。他は、海星、海胆、海鼠、海百合。

(参考書) 加納善光:「動物の漢字語源辞典」東京堂出版 2007

  ■■■分類の話■■■
  翅虫網という言い方 (2013.5.20)
  バッタの類縁とは (2013.5.11)
  分子生物学による系統訂正の面白さ (2013.5.7)
  東アジアの民俗的分類 (2013.5.2)
  舌分類の視点も面白い (2013.4.25)
  分類話にこだわる理由 (2013.4.13)
  哺乳類から外すべき動物 (2013.4.9)
  哺乳類の4分類の詳細化 (2013.4.8)
  蹄で見た哺乳類の4分類 (2013.4.4)
  哺乳類の4分類化 (2013.4.2)
  歯について (2013.4.1)


 多摩動物公園の見所−INDEX >>>    HOME>>>
 (C) 2013 RandDManagement.com