■■■ ジャータカを知る [2019.6.4] ■■■
[86] 植物補遺
🍃草木は輪廻転生先でもないにもかかわらず、ジャータカでは釈尊の前世が草木に棲む妖精/精霊であるとの記載が多いから、草木にも仏性ありと考えるのは自然な気がする。
従って、至るところで使われている「山川草木悉皆成仏」という用語も当然と思いがちだが、梵語・パーリ語・漢語仏典でそのような記載例がある訳ではない。日本独自の観念なのである。
一般によく知られている言葉は、「一仏成道 観見法界 草木国土皆悉成仏」であるから、おそらく謡曲「鵺」＠1435年辺りで世間に定着したのだろう。
その出典は定かではないが、天台宗から広がったとの説が有力である。(智頻:「摩訶止観」, 荊渓:「金剛錍論」, 道邃:「摩訶止観論弘決纂義」巻一, 等に記載されているとか。安然は「中陰経」出自としたらしいがそのような箇所は無いらしい。)
しかし、それも故なきことではなかろう。
釈尊は45年にもなる説法活動の最期の旅で、聖樹の美しさを語っているからだ。托鉢先の街からは離れた林での修行を行ることの歓びは、樹木に棲む精霊との触れ合いからくるとの感覚がありそうだ。そして、それこそが命の輝きを意味しているのだろう。仏性の本質と言ってもよいかも。
釈尊の目からみると、以下のような樹木が聖樹に当たるのであろう。
生誕＠ルンビニ…無憂樹
成道＠ブッダガヤ…菩提樹
初転法輪＠サルナート/鹿野苑…[推定]ニーム
教団活動
《コーサラ国》
＠首都シュラーヴァスティー/舎衛城[祇園精舎]…ジェータ/祇陀太子の森
最期の旅
《マガダ国》
＠ラージギル/霊鷲山
＠首都ラージャグリハ/王舎城[竹林精舎]…竹林
雨季に留まるのであるから、株立ちタイプであろう。
＠ナーランダ王舎城…マンゴー林
＠渡河港パータリ(パトナ)
《ヴァッジ国》
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＠ヴェーサーリー(ヴァイシャーリー)遊女アンバパーリーのマンゴー林
＠近隣ベールヴァ…チャーパーラ樹下での座禅
「アーナンダānandaよ、
ヴェーサーリーvesālīの地は喜ばしい。
ウデーナudenaṃ 霊樹は喜ばしい。
ゴータマカgotamakaṃ霊樹は喜ばしい。
サッタンバカsattambaṃ霊樹は喜ばしい。
バフプッタbahuputtaṃ霊樹は喜ばしい。
サーランダダsārandadaṃ霊樹は喜ばしい。
チャーパーラcāpālaṃ霊樹は喜ばしい。」 [Bhūmicālasutta]
cetiyaṃ＝sacred tree or relic-shrine 精霊が住む樹木あるいは聖廟
アーナンダが樹木rukkhaの根元に座すから、建物ではなさそうである。
上記は、おそらく、すべて土着信仰対象霊樹の固有名だろう。
；
《マッラ国》
＠パーヴァー…鍛冶工チュンダの林
涅槃＠クシナーラー…沙羅樹
このような樹木のなかに入っていそうな樹木としては、過去佛成道樹があげられよう。南伝「仏種姓経」には２５(燃灯仏～釈迦牟尼仏)+３佛が記載されているが、換言すれば２８聖樹あると言うことになろう。北伝は７過去仏であり、迦葉仏の成道樹はニグローダである。(パーリ語Nigrodha＝ベンガル菩提樹Banyan tree)
繹尊の解脱は菩提樹("Bodhi Tree" or Pippala tree 印度菩提樹)下だが、様々な樹木の下で真理を考察した。アジャパーラ・ニグローダAjapālanigrodha/阿闍波羅尼倶律陀樹(Banyan tree ベンガル菩提樹)、ムチャリンダ樹(Freshwater mangrove or Gaertn パッカドンナム)下。解脱した喜びに浸った訳で、ラージャーヤタナ樹Rajadana(Ceylon ironwood ケート)下では、ムチャリンダ竜王Mucalinda/目支鄰陀が七重にトグロを巻いて囲った。[→コブラ]
経典では過去七佛の成道樹("菩提樹")が同一名とは限らないし、推定も色々あるようだがどりあえず以下のように記載しておいた。・・・
毘婆尸仏Vipassī…波
尸棄仏Sikhī…芬陀利樹pundariko＝クイニーマンゴー
毘舎浮仏Vessabhūー婆羅樹sala＝沙羅樹
倶留孫仏Kakusandha…(尸)利沙樹airisa＝ビルマ合歓木
倶那含牟尼仏Koṇāgamana…烏暫(優曇)婆羅樹udumbara＝房成無花果
迦葉仏Kassapa…尼拘律(陀)樹nigroda＝ベンガル菩提樹
釈迦牟尼仏Gautama…畢缽羅樹asatu＝印度菩提樹
(参照) 井上綾瀬:「過去七仏が悟りをひらいた木」龍谷大学大学院文学研究科紀要32, 2010年
釈尊の滅後五六億七千万年、弥勒菩薩が登場することになるが、その成道樹はナーガNagaの菩提樹Bodhi、龍華樹puṃnāga[nāga＝照葉木Beautyleaf/紅厚殼]と呼ばれている。
釈尊前生が精霊だった聖なる木としては羽穗草kusa-grass[→]で取り上げた[#121]吉祥草譚に登場するWishing Tree or Mukkhaka[＝principal]だが、樹種はわからない。パリー語辞書ではRukkha樹とされてはいるが。
さらに以下の樹木も加わっている筈。
●金香木Champak/贍波加 or 黄玉蘭
Champakはラオスの国花名だがプルメリアである。香華の代表名として当て嵌められたのではないか。
花木だけでなく、香木や薬木も重要だろう。そんなことを考えると、まだまだ沢山ある。以下もジャータカに登場しておかしくないと思うが、ザッと見たところでは、登場との指摘には出会っていない。
●ピンポンの木Noble Bottle-tree or Ping-Po(ng)/頻婆Bimbā(七姐果 or 鳳眼果)
原産地は広東らしいが、熱帯的なアジアではどこでもよく見られる。どのようにしてここまで広がったのか気になるところ。樹高10mで烏瓜的な果実は可食。Chestnutとも呼ばれているので加熱して食べるのだろう。果実の色は赤。・・・
「大般若経」三十二相八十種好では、"[29]唇如頻婆果之色"。
●団扇椰子Palmyra Palm/糖棕
経典墨書用"貝葉"で知られる"多羅樹"。樹高は30mにもなるが、棕櫚的な形状。
「酉陽雑俎」で仏教を"貝"としている由縁である。尚、多羅葉椰子は類縁で同様に貝葉に使われる。
●ジタの木White Cheesewood/黑板樹 or 将糖胶樹
"七葉樹"(中国語の七葉樹は栃Horse-chestnut。)とされる。樹高は40mに達し、過去佛の成道樹木。第一回結集はラジャグリハの七葉樹の窟で開催。
●羽衣の木Silver oak/銀樺
幹生花なので目立たないが、派手な黄色なのでインド好みかも。Oak系ではないが、家具用材にされるようで、耐腐食性が高いからとか。命名由来は知らぬが、樹高30mになるから、おそらく、過去佛の成道樹木。
●檳榔樹Betel Palm/檳榔
乾燥落葉は食器に用いられていた筈である。托鉢鉢しか持っていないのだから不可欠ではないか。
尚、最終譚等は性格が違うようだから別途検討しようと思う。[#547]…shrubs, creepers, horsear, sāl, knot-mango tree, rose-apple tree, banyan tree, fig-tree, pepper-tree, kadamba-tree, barren tree, coral tree
下記に引用したように、仏典を眺めると、まだまだ沢山ある。時間がかかりそうなので、とりあえず、ここらで留めておこう。
----- 既出 -----
🌳樹木精霊…18, 38, 105, 139, 187, 205, 209, 272, 278, 283, 361, 412, 414, 437, 475, 492, 537
🌹+🍏蒲桃…294, 208(+波羅蜜,マンゴー), 342(+パン之木)波羅蜜[パラミツ] or ジャックフルーツJack fruit/波羅蜜
マンゴー[檬果]Mango/芒果
無花果[イチジク]Fig tree/無花果
ミロバラン or 呵梨勒[カリロク]Myrobolan /訶子 or 訶黎勒…495
＝油柑Indian gooseberry/餘甘子
ベルの木Bel, Bilva fruit or Bael fruit tree/木橘 or 頻螺(樹)/毘羅婆
⛨ニーム(印度栴檀)…311
アカシア…40❇曼珠沙華…326
🔥花没薬樹…307, 370
ベンガル柿樹…177, 520
菩提樹…12, 19, 37, 445, etc.
ひまし油樹…109, 295
沙羅樹…71, 74, 418, 465, 497, 521
羽穗草…2, 22, 121, 400, 463, 535白檀sandal-wood/檀香デイコ[梯沽](Indian) coral-tree/刺桐
Kaṇikāra tree＝白桐(リリーナッツの木)Bayur tree/翅子樹 or 迦尼迦羅…樹高30m
カポック(綿樹)cotton-tree…412ベンガル菩提樹banyan-tree
無花果
----- 参考 -----
闍那崛多[訳]:「佛本行集經」賢劫王種品
《果樹》
菴婆羅果
閻浮果
陵拘闍果
波那婆果
鎭頭迦果
呵梨勒果
毘醯勒果
阿摩勒果 種々諸果
《樹林》
娑羅樹
多羅樹…墨書貝葉用
那多摩羅樹
阿説他樹
尼拘陀樹
優曇婆羅樹…優曇華 or 房成無花果Cluster fig tree/聚果榕 過去佛成道樹
千年棗樹
迦梨羅樹 等
《妙華》
阿提目多華
瞻波華
阿輸迦華
波多羅花
婆利師迦華
拘蘭那華
拘毘陀羅花…フイリソシンカOrchid tree/宮粉羊蹄甲
檀奴沙迦梨迦花
目眞隣陀華…Freshwater mangrove
蘇摩那 等
《雑花＠陂池》
優鉢羅華
波頭摩花
拘勿頭華
分陀利華
----- 参考 -----
《「妙法蓮華経」法師功徳品第十九》
〇受持是経・・・種種諸香:須曼那華香 闍提華香 末利華香 瞻蔔華香 波羅羅華香。赤蓮華香 青蓮華香 白蓮華香 華樹香 果樹香 栴檀香 沈水香 多摩羅跋香 多伽羅香 及千万種和香 若抹 若丸 若塗香
〇持是経者・・・衆生之香：象香 馬香 牛羊等香 男香 女香 童子香 童女香 及 草木叢林香
〇持是経者。雖住於此。亦聞天上。
諸天之香:
波利質多羅。…デイコ
拘陀羅樹香。…グビダラKovidār
及
曼陀羅華香。
摩訶曼陀羅華香。
曼殊沙華香。
摩訶曼殊沙華香。
栴檀沈水。
種種抹香。
諸雑華香。
如是等天香。和合所出之香。無不聞知。
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