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■■■ 「古事記」解釈 [2022.9.15] ■■■
[622]「古事記序文講義」(1:感想+序原文)
飛鳥清原大宮天皇讃漢詩読解(📖【1】 📖【2】 📖【3】 📖【4】 📖【附】)で序文は眺めたが(📖古代信仰推測に方法論あり 📖 序文要約部冒頭は解題的 📖 序文冒頭要約部の補註)、一箇所だけずっと気になっていたことがあり、浅学者でもあるから、そこらについての解説書を眺めてみた。・・・
  山田孝雄:「古事記序文講義」志波彦神社 塩釜神社 1938年 【非賣品】
    @NDL(モラル欠如の愛好読者によって事故本化。)

特別選んだ訳ではなく、図書リストからの、たまたまの遭遇。
出版年と出版社からご想像がつくと思うが、思想的には旗色鮮明。・・・
"私は常にいふように
 現代のうちに神代を見るのであり、
 又 古事記の精~を
 現代の日本人に實現して行かねばならぬ
   と信ずるものである。
"

失礼ながら、ここらが一番の面白さ。
ピッカピッカの純漢文で「皇道の本源」を語るしかないことになんら違和感を覚えない方のようだから。
倭文文字化本文と漢文序文の落差を感じた上でこうした主張を読むから猶更。序文だけ後世の偽書とみなす学者が存在するのは、これも一因だろう。

しかし、この小中華主義的論調のお蔭で、色々と考えることができたので、小生にとっては価値があった。
それに、漢文が読み易い体裁になっており、構造が一目でわかる点で、好感を覚えた。
と云っても、文章読解に役立つ程ではない。

大いに参考になったのは、収録原文のすぐ後に始まる<古事記の本質>段。
思想的主張のため、イの一番に始めたのだろうが、読解の手伝いをするつもりなら、この姿勢は至極まとも。これを語らずに、細かな註解でもなかろう。

しかも、ここで、著者は言い難いことを敢えて明言している。・・・
  はっきりと古事記の本質を明言した人はない。
もちろん、本居宣長についても、同様に断言。
  明言してはない。
そして、酷い状況を一刀両断。
  すべての研究がばら〴〵で本質に觸れてゐない。
  ばら〴〵で中心點を何處に置いてゐるかわからぬ。

この状況は今も変わらぬというより、さらに深みにはまっている可能性が高かろう。

「国史」と混淆して読むことがほぼ義務付けられているようだから、この著者のように、歴史書とすることは"一往考へなければならぬ。"と発言すれば、ほぼ異端と見なされるのでは。
もちろん、歴史書扱いを嫌う方々も存在するようだが、多くの場合は文藝作品と見なすに過ぎまい。それは"誤つてはゐないが問題である。"のは当たり前。
どちらも好みでないと、神話集とすることになるが、"果たして妥當であろうか。"と嘆息せざるを得なくなる訳だ。

特に、神話と見なす論調には相当な抵抗感があるようだ。
小生は、叙事詩と見なしているが、それも同類の見方なのかも。(「古事記序文講義」は、「古事記」は叙事詩ではあり得ないと。叙事詩らしからぬということだが、もともと勅命に応えて書き下ろしたもので、求められていることを100%盛り込めば、当たり前だと思うが。)
・・・神話に関する「古事記序文講義」の論は多分に情緒的なのだ。

西洋神話は確かに遺跡のようなものだが、宗像社や住吉社が脈々と信仰を集め、現に神々が生きているという違いで云々できるような話ではない。
"叙事詩が生きている"社会、ある意味神話の世界に生きる民は、本朝だけに住んでいる訳ではない。神話信仰を抹消させて帝国を樹立した社会と比較しても何の意味もなかろう。
比較するなら、天竺である。太安万侶も、仏僧を通じてそこらを理解していた可能性が高いし。
インド亜大陸では、現時点でも、日々の生活のなかに叙事詩の神々が息づいている。日本とは違って、そうした物語を知らない人など皆無といってよい。しかも、その叙事詩を口誦で美しく歌い上げる風習は古代から途絶えたことがないし、その一方で古代から様々な哲学的解釈がなされているのはよく知られたこと。本朝には、そのような伝統は無い。(ちなみに、動物が登場してくる仏教説話集「ジャータカ」は、釈尊の語りなので、≪非大乗仏教の社会≫では最高経典である。インド国内信仰者の割合は微小だが。)

天竺の叙事詩と比較すれば、「古事記」は独特であり、同類とは言い難いのは確か。あくまでも系譜が中核で、ストーリー性は二の次だからだ。時間軸や血縁関係がよくわからないインドの神々の話とは大きく異なっている。
しかも、系譜重視であるものの、半島を含めた大陸の宗族第一主義とは相反する。(小生には、フラグメントに棲み分けていた島嶼部族が共通言語化社会を作り上げただけに映る。・・・中華帝国樹立以前の東アジアの土着文化をママ引き継いでいる、雑種社会という風に読むだけのこと。)
・・・この辺りに全くふれず、西洋と比較してどういう意味があるのかさっぱりわからない。

・・・と云うことで、上記は感想という程の内容ではないが、ここまでにして、今迄取り上げて来た部分を転記するなどし、この本の体裁に合わせて序文全文を記載しておくことにした。(赤字句末注【○句】は「古事記序文講義」に示されたもので、「作文大體」に依るとのこと。)

何處が気になっていたか等々の話は、別稿で。

臣 安萬侶 言
《混沌》  [「老子」 (匯校版)]
  【發句】・・・<夫それ
混元既凝
氣象未效
無名無爲
誰知其形
  【漫句】
┌─<混元> ≒元氣
│  道⇒混元の一氣(元氣)⇒陰陽二氣⇒萬物生成
│  道生一,一生二,二生三,三生萬物。
│    萬物負陰而抱陽,沖氣以為和。[四十二章]
│  有物混成,先天地生。[二十五章]
│┌──<既>
││┼┼┼<凝> こ-る
└│<氣象>
└──<未>
┼┼┼┼┼<效> なら-う ⇒ {俗字}き-く
 ・・・<無名>
   道常無名,樸。[第三十二章]
   道隱無名。[第四十一章]
    <無爲> 自然のママ(無作為)
      人法地,地法天,天法道,道法自然。[二十五章]
 ・・・<誰知其形>

《造化3神⇒二靈(伊邪那岐命+伊邪那美命)⇒群品之祖(国生み・神生み)
  【傍句】・・・<然そのように
乾坤初分 參~ 作 造化之首
陰陽斯開 二靈 爲 群品之祖
  【雜隔句】
┌─<乾坤> 八卦の天地
│┌──<初
└│<陰陽>
└──<斯> か-く(これまで/終局)

《洗目(天照大御~+月読命)⇒滌身(海神)
所以  【傍句】・・・<所以ゆえになり
出入幽顯 日月彰 於 洗目
浮沈海水 ~祇呈 於 滌身
  【輕隔句】
伊邪那岐命┬(穢れ)伊邪那美命
┼┼┼┼┼(禊 1…滌身)
┼┼┼┼┼├─神々☚順番が後回し
┼┼┼┼┼(禊 2…洗目鼻)
┼┼┼┼┼├─天照大御神@目・・・日
┼┼┼┼┼├─__命@目・・・月
┼┼┼┼┼└─須佐之男命@鼻・・・海原☚無視

《太安万侶の解説》
  【傍句】
太素杳冥 因本教 而 識 孕土 產嶋之時
元始綿邈 頼先聖 而 察 生~ 立人之世
  【雜隔句】
┌─<太素> 最原始的物質
│  太素者,質之始也。[「列子」天瑞]
│┌──<杳冥> ≒幽暗 くら-い/はるか+くら-い
└│<元始> 起始
└──<綿邈> ≒悠遠 つら-なる/こま-かい+とおい

🈚須佐之男命狼藉追放〜天岩戸☚無視
🈚出雲(須佐之男命〜大国主命)☚無視

《継承の基本思想》
寔知  【傍句】・・・<寔まことにしる
懸鏡吐珠 而 百王相續
喫劒切蛇 以 萬~蕃息
  【長句】
  【送句】・・・<與ともに
議安河 而 平天下
論小濱 而 淸國土
  【長句】
┌─┬<懸鏡> ③天岩戸
└<吐珠> ②誓約(天照大御神の珠)
│┌──<百王相續>☚王≠天皇
└│┬<喫劒> ①誓約(須佐之男の剣)
│└<切蛇> ④八岐大蛇
└──<萬~蕃息> 繁殖搗ス
┌─<安河> 八百万神々@高天原
│┌─<天下>
└─<小濱> 遣使 建御雷神@出雲
└─<C國土>
天照大御神差配の地の神々と出雲の神々の対比として描かれており、前者は永続的に順次継承されるが、後者は滅茶苦茶な乱立状態ということか。

《天孫降臨⇒東遷》
是以  【傍句】・・・<是以ここをもちて
番仁岐命 初降 于 高千嶺
~倭天皇 經歷 于 秋津嶋
  【長句】
化熊出川 天劒獲 於 高倉
生尾遮徑 大烏導 於 吉野
  【輕隔句】
列儛攘賊
聞歌伏仇
【緊句】
┌─<[祖]番仁岐命> 
│┌<初降→><高千嶺> 【降臨】
└│<[初]~倭天皇> 
<經歷→><秋津嶋> 【東遷入畝傍】
┌─<化熊出川>
│┌─<天劒獲><高倉>
└│<生尾遮徑>
└─<大烏導><吉野>
┌─<列儛>☚該当シーン不明
│┌─<攘賊>
└│<聞歌>
└─<伏仇>

🈚海神宮(山幸彦海幸彦)

神功・仁徳成務・允恭》
  【傍句】・・・<卽すなわ-ち
覺夢 而 敬~祇 所以 稱賢后
望烟 而 撫黎元 於今 傳聖帝
定境開邦 制 于 近淡海
正姓撰氏 勒 于 遠飛鳥
  【雜隔句】
    📖近淡海と遠飛鳥に注目する由縁
┌─<覺夢>→~祇> 【祭祀】
│┌─<賢> [14皇后]息長帯日売命/神功皇后/仲哀天皇后
└│<望烟>→黎元> 【善政】[黎元≒民]
┼┼┼思安黎元,在于建侯,分州正域,以美風俗。[「漢書」王莽傳中]
└─<聖帝> [16]大雀命/仁徳天皇
┌─┬<定境開邦> 【行政区画制定】
└<制> 規定
│┌──<"近"淡海> [13]若帯日子天皇/成務天皇
└│┬<正姓撰氏> 【氏姓改革】
│└<勒> 統率/強制
└──<"遠"飛鳥> [19]男浅津間若子宿禰王/允恭天皇
壬申の乱[近江朝(大友皇子)⇒飛鳥朝(大海人皇子)]を想起させる地名でもある。

[結論]速度・手法は色々だが対応怠らずの歴史》
  【傍句】・・・<雖いえども
步驟各異
文質不同
  【緊句】
莫不  【傍句】・・・<莫不> しないものはない
稽古 以 繩風猷 於 既頽
照今 以 補典教 於 欲絕
  【長句】
┌─<步驟> 指緩急 ある-く/あゆ-むにわか/はせ-る
│┌──<各異>
└│<文質> 文華&質朴☚儒教用語
子曰:"質勝文則野,文勝質則史,文質彬彬,然後君子。"[「論語」雍也第六]
└──<不同>
┌─<稽古> 考察古事☚日本の現代四字熟語
┼┼然胡不審稽古之治為政之說乎。[「墨子」尚同下]
│┌─<繩> ただ-す
││└<風猷> 風教コ化
││┼┼風猷被有截,聲教覃無外。[中宗祀昊天樂章 凱安@「全唐詩」卷10郊廟歌辭]
││┼┼└<既頽> すで-に くず-れる/すた-れる
└│<照今> 
不知娉婷色,回照今何似。 劉長卿:「雜詠八首上禮部李侍郎」@「全唐詩」卷148
└─<補> おぎな-う
┼┼┼└<典教> 典章教化
┼┼┼┼今吳承闔閭之軍制,子胥之典教,政平未虧,戰勝未敗。[「吳越春秋」]
┼┼┼┼└<欲絕>
┼┼┼┼┼┼塞其兌,閉其門,塞閉之者,欲絕其源。[「老子」河上公章句]

曁飛鳥清原大宮 御大八洲天皇御世
 <曁>  【呉音】ケ 【唐音】キ 【訓】およ-ぶ[≒及ぶ] い-たる[≒至る]

濳龍體元
洊雷應期
  【緊句】
聞夢歌 而 想纂業
投夜水 而 知承基
  【長句】
 ・・・易経 乾為天の卦に当たる用語<潜龍>
  潜水し隠れていて、昇天しない龍。
  つまり、皇帝位に着くのを避けている状況。

(乾元亨利貞)⇒初九濳龍勿用⇒九二見龍在田利見大人⇒九三君子終日乾乾夕タ若持ル咎⇒九四或躍在淵无咎⇒九五飛龍在天 利見大人⇒上九亢龍有悔 [「周易總義」卷一@欽定四庫全書]
 ・・・易経 震の卦に当たる用語<洊雷>
  畏れの極限の災禍。
  つまり、恐ろしい威力の発揮。
  象曰:
洊雷震。君子以恐惧脩省。 [五一震]
  道教的には、龍は天に昇って雷神になる。
 ・・・<體元>
  天地之元気為本。
  つまり、根本的な存在。

 ・・・ <應期>
  猶 如期
  つまり、まさにその時期。

 ・・・太祖継業<纂業>
  継承大業
 ・・・世宗承基<承基>
  承継基業
 ・・・夢のお告げ<聞夢歌 而 想--->
  夢で歌を聞き、皇位継承を想うことに。
   
(占夢書は数々ある。唐代、解夢は当たり前の風習。盧重玄版が道教系。)
    📖夢とは@「酉陽雑俎」の面白さ
 ・・・水占い<投夜水 而 知--->
  夜水を投げ、皇位承継できることを知った。
   
(上六井収勿幕有孚元吉 [井]だろうか。)
殆ど"壬申の乱"
     吉野山に入山し脱皮することで天子に。霊虎と化し、東国の力を束ねた。
  【傍句】
天時未臻 蟬蛻 於 南山
人事共給 虎步 於 東国
  【雜隔句】
 ・・・天帝命天子の観念<天時>
  天が与えた時期。 上応二天時一 下参二人事一 [易経 乾卦文言]
 ・・・しかし時熟せず<臻>
 【呉音】シン 【唐音】シン 【訓】いた-る[≒至る] きた-る[≒来たる] おお-い[≒多い]
 ・・・道教の真人・仙人観念<蟬蛻>
  得道成仙(脱去肉體軀殼)
 ・・・吉野入山 さらに東へ脱出<南山 & 東国>
   都⇒(出家)⇒吉野⇒(脱出)⇒伊賀⇒鈴鹿⇒・・・
 ・・・圧倒的な軍事的示威<虎步>
  矫健威武的脚步
 ・・・勢力は人的に膨れる一方<人事>
  人力資源管理
 ・・・<共給>≒供給
行軍賛歌
皇輿忽駕 凌渡山川  【漫句】
六師雷震
三軍電逝
  【緊句】
 ・・・<皇輿> ≒神輿
   人が担ぐ皇(子)の乗り物 物事の始めの暗喩的表現
 ・・・<忽>
   たちまち
 ・・・<凌渡>
   越え渡る
   駕は天子の乗り物だが、駕淩≒超越であり、それをを暗示。

 ・・・<六師>   周天子所統六軍之師
 ・・・<雷震> ≒雷鳴  動如雷震 [孫子兵法軍争篇]
 ・・・<三軍>   諸候軍
 ・・・<電逝>   閃電(光)つまり稲妻
敵軍殲滅 意気揚々
杖矛擧威
猛士烟起
絳旗耀兵
凶徒瓦解
  【平隔句】
未移浹辰
氣沴自清
  【漫句】
 ・・・<杖矛>
   杖は"持也"。 [説文] (名詞化⇒歩行用補助棒・呪術者の特殊棒)
   柄付き両刃刺突タイプの攻撃用武具
(矛/鉾/戈/鋒/戟)
    はレガリアあるいは呪器でもある。
   その存在は威勢を挙げることになる。

 ・・・<烟起>
   起烟(火燃起時冒烟)の倒置で
   猛士が引き起こすのだから、烟は火でなく土煙か。

 ・・・<絳旗>
   絳は染爲絳色(赤色化)ということだが
   天子を示す旗である。それが兵を輝かせた訳だ。

 ・・・<凶徒> ≒兇徒
   凶悪的暴徒
 ・・・<浹辰>
   浹はひとめぐり 辰は干支の総称
   つまり、短期
(12日間)を示すのだろう。
 ・・・<氣沴>
   妖気
   自ずから消えていったというのである。

完璧な勝利をおさめ、飛鳥浄御原宮で即位。
  【傍句】・・・<乃/すなわち(そこで)
放牛息馬 ト悌歸於華夏
卷旌戢戈 儛詠停於都邑
  【輕隔句】
歳次大梁
月踵俠鍾
  【緊句】
清原大宮 昇即天位  【漫句】
┌───<放牛息馬>
    牛馬は戦乱の労役に投入されていたようだ。
    (余剰だったか。…天武4年肉食禁止令[初])
│┌──<ト悌>
││   和楽平易(愉しく安らか)
││   戦乱は収束を見て平和が帰って来た訳だ。
││┌─<歸>
│││┌─<華夏>
││││ 中華帝国の中原地区の漠然とした呼び名だが、
││││ 文化中心を意味する。
││││ 当然ながら、宮のある地、大和となる。
└│──<卷旌戢戈>
│││ 戦旗[旌]を巻いて収納し
│││ 武具[戈]を戢めた。(≒収めた)
└──<儛詠>
┼┼└─<停>
┼┼┼ "やめる"ではなく、"とどみ"(潮が満ち留まる。)の意。
┼┼┼└─<都邑>
┼┼┼┼ 国都
 ・・・<歳次大梁>
   歳星/木星紀年法(12次)は十二辰に対応し、
   大梁は酉年となる。

 ・・・<月踵夾鐘>
   古代楽12律の一名称だが(黄鐘 大吕 太簇 夾鐘 姑洗・・・)
   農歴にも使われ、夾鐘は2月。
(11月が頭)
   …即位
@飛鳥浄御原宮は天武天皇2年(673年癸酉)2月27日
本朝天皇は中華帝国皇帝と同格と言うか、それ以上。
道軼軒后[黄帝]
コ跨周王
  【緊句】
握乾符 而 ハ六合[東西南北天地]
得天統 而 包八荒
  【長句】
乘二氣 之 正
齊五行 之 序
  【長句】
設神理 以 奬俗
敷英風 以 弘國
  【長句】
┌──<道> 道徳を2つにわけている。
│┌─<軼> 過ぎる 抜け出る
││┌<周王>
└│─<徳>
└─<跨> 跨ぐ 跨る
┼┼└<軒后>黄帝
┌──<握>
│┌─<乾符>天が皇帝に授けるお印
││┌<六合>天地四方(宇宙全体)
└│─<得>
└─<天統> ≒皇統(天の秩序)
┼┼└<八荒> ≒八紘 八方の果て(全世界)[末尾注]
┌<二気>陰陽
└<五行>
┌<神理>
│  不測不可思議な人知を超えた優れた理路
│  靈異顕示能力があるということでもあろう。
└<英風>
   下の者を導く優れた教え
   我來圯橋上,懷古欽英風。[李白:「經下邳圯橋懷張子房」]
(この箇所はよくできている。中華帝国で通用する観念を網羅的とも思えるほどカバーしているからだ。しかし、本朝で支配階層が積極的に取り入れているのは、この漢詩の冒頭で示された易経であろう。中華帝国のゴチャマゼ感覚をママ受け入れている様子がよくわかる。
しかも、一歩踏み込んだ書き方をしている。倭に全く無い観念の天帝授与の"乾符"を登場させているからだ。これは、高天原由来のレガリアと同類とは言い難い。このことは、高天原の存在を組み入れようが無い思想として、仏教以外も流入していることを示していると言えよう。と言うことは、そのような宗教とも併存可能な社会と言い切っているようなもの。実に鋭い指摘。
実際、天武天皇は仏教の取り入れ姿勢も見せており、その辺りは極めて柔軟なのである。

最後はベタ褒め。
官僚としてよくある姿勢と言えなくもないが、法治中央集権国家を樹立した天皇であり、特別な存在として認識していたと見るべきだろう。
重加  【緊句】・・・<重加/しかのみにあらず
智海浩瀚  潭探上古
心鏡煒煌  明覩先代
  【平隔句】
┌────<智海> (仏教用語:"漸次趣入深廣智海。")
┼┼┼┼┼ 智慧廣大,譬如海也。
│┌───<浩瀚> ("載籍浩瀚"として使われる言葉)
││┼┼┼┼ 広大で大量。
││┌──<潭探 上古> (浮かび上がれず脱出が難しい。)
││┼┼┼ 水が淀んで深い場所。
└│───<心鏡>
┼┼ 鏡のように曇りなく澄んだ心
└───<煒煌> ≒輝煌(e.g. 戦果輝煌)
┼┼┼┼┼ 明らかに輝く様子
┼┼┼└──< 先代> =睹
┼┼┼┼┼┼┼ じっと見つめる。 (e.g. 聖人作而萬物覩@易-乾)
┼┼┼┼┼┼┼ 先代の時代が見える訳だ。

 📖稗田阿禮に不可思議な点なし
於是  【傍句】
天皇詔之  【傍句】
朕聞  諸家之所齎帝紀及本辭  【漫句】
既違正實
多加虛僞
  【緊句】
當今之時不改其失 未經幾年其旨欲滅  【漫句】
斯乃  【傍句】
邦家之經緯
王化之鴻基
  【長句】
    焉  【送句】
故惟  【傍句】
撰錄帝紀
討覈舊辭
  【緊句】
削僞定實 欲流後葉  【漫句】
時有舍人  【漫句】
姓稗田
名阿禮
  【壯句】
年是廿八 爲人聰明  【漫句】
度目誦口
拂耳勒心
  【緊句】
  【傍句】
勅語於阿禮  令誦習帝皇日繼及先代舊辭  【漫句】
  【傍句】
運移世異  未行其事  【漫句】
         矣  【送句】
 📖元明天皇は武則天を目指したか
伏惟  【傍句】
皇帝陛下  【漫句】
得一光宅
通三亭育
  【緊句】
御紫宸而コ被馬蹄之所極
坐玄扈而化照船頭之所逮
  【長句】
日浮重暉
雲散非烟
  【緊句】
連柯并穗之瑞  史不絶書
列烽重譯之貢  府無空月
  【重隔句】
可謂  【傍句】
名高文命
コ冠天乙
  【緊句】
   矣  【送句】

於焉
惜舊辭之誤忤
正先紀之謬錯
  【長句】
 📖[附]≪序文≫記載方針
以和銅四年九月十八日 詔臣安萬侶撰錄稗田阿禮所誦之勅語舊辭 以獻上者  【漫句】
謹隨詔旨  子細採摭  【漫句】
  【傍句】
上古之時  言意並朴  敷文構句  於字即難  【漫句】
已因訓述者詞不逮心
全以音連者事趣更長
  【長句】
是以  【傍句】
  【傍句】
或一句之中交用音訓
或一事之內全以訓錄
  【雜隔句】
  【傍句】
辭理 叵見以注明
意況 易解更非注
  【長句】
  【傍句】
於姓日下謂玖沙訶
於名帶字謂多羅斯
  【長句】
如此之類  隨本不改  【漫句】 📖日下と帯の読み再考
大抵所記者 自天地開闢始 以訖于小治田御世  【漫句】

天御中主~以下 日子波限建鵜草葺不合尊以前 爲上卷
  【漫句】
~倭伊波禮毘古天皇以下 品陀御世以前 爲中卷  【漫句】
大雀皇帝以下 小治田大宮以前 爲下卷  【漫句】
 📖書誌的事項から想像すると
  并錄三卷  謹以獻上
  【漫句】
    臣安萬侶 誠惶誠恐 頓首頓首
  和銅五年正月廿八日
  正五位上勳五等太朝臣安萬侶

--------------
[注]八荒≒八紘[「淮南子」堕形訓] 道教的中華帝国の世界観である。

《九州》
 西北台州肥土 正北泲州成土 東北薄州隱土
 正西弇州並土 正中
冀州中土 正東陽州申土
 西南戎州滔土 正南次州沃土 東南神州農土

 【土:九山】會稽 泰山 王屋 首山 太華 岐山 太行 羊腸 孟門
 【山:九塞】太汾 澠厄 荊阮 方城 肴阪 井陘 令疵 句注 居庸
 【澤:九藪】越之具區 楚之雲夢澤 秦之陽紆 晉之大陸 鄭之圃田
   宋之孟諸 齊之海隅 趙之鉅鹿 燕之昭餘
 【八風】
   西北麗風 北方寒風 東北炎風
   西方飂風 ____ 東方條風
   西南涼風 南方巨風 東南景風
 【六水】河水 赤水 遼水 K水 江水 淮水

《八殥》
 西北大夏海沢 北方大冥寒沢 東北大沢無通
 西方九区泉沢 __
九州__ 東方大渚少海
 西南渚資丹沢 南方大夢浩沢 東南具区元沢

《八紘》
 西北一目沙所 北方積冰委羽 東北和丘荒土
 西方金丘沃野 __
八殥__ 東方棘林桑野
 西南焦僥炎土 南方都廣反戶 東南大窮眾女

《八極》
 西北不周之山幽都之門 北方北極之山寒門 東北土之山蒼門
 西方西極之山閶闔之門 ___
八紘___ 東方東極之山開明之門
 西南編駒之山__白門 南方南極之山暑門 東南波母之山陽門


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