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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.11.28] ■■■
[514] 懐胎の夢
💭🚼懐胎の夢と言えば、巻頭譚の釈尊誕生。・・・
  【天竺部】巻一天竺(釈迦降誕〜出家)
  [巻一#_1]釈迦如来人界宿給語📖仏伝📖釈尊誕生本生譚
 丑の歳の七月八日、摩耶夫人の胎に宿り給ふ。
 夫人、夜寝給たる夢に、菩薩、六牙の白象に乗て、虚空の中より来て、
 夫人の右の脇より、身の中に入給ぬ。
 顕はに透徹て、瑠璃の壺の中に物を入たるが如也と。
 夫人、驚覚て、浄飯王の御許に行て、此の夢を語り給ふ。
 王、夢を聞給て、夫人に語て宣はく、
  「我も又此の如くの夢を見つ。
   自ら此の事を計ふ事能はじ」と宣て、
 忽に善相婆羅門と云人を請じて、妙に香しき花・種々の飲食を以て、婆羅門を供養して、
 夫人の夢想を問給ふに、
 婆羅門、大王に申して云く、
 「夫人の懐み給へる所太子、諸の善く妙なる相御す。・・・」


【天竺部】では、夢告譚は数えるほどしかない。にもかかわらず、釈尊の出家前に妃が見た夢の話が収録されている。釈尊は表向きは妄想とするものの、実際は予告だったと示唆している。夢告は真なりとの例として、「今昔物語集」編纂者が、是非にも入れておきたかったのであろう。
  [巻一#_4]悉達太子出城入山語 📖仏伝
 太子の御妻、耶輸陀羅、寝たる間に三の夢を見る。
 一には、月、地に堕ぬ。二には、牙歯落ぬ。三には、右の臂を失ひつと。
 夢覚て、太子に此の三の夢を語て、
 「此れ何(いか)なる相ぞ」と。
 太子の宣はく、「月は猶天に有り。歯は又落ちず。臂猶身に付り。
 此の三の夢、虚くして実に非ず。汝ぢ、恐るべからず」と。

 悉達太子妃耶輸陀羅は3つの夢を見た。
   月が地に落ちた夢、
   歯が欠け落ちた夢、
   右臂を失った夢。
 太子は恐れることはなく、妄想だと言う。
   月は依然として天にあり、
   歯は落ちず、
   臂も身についている。
 しかし、悉達太子はすでに出家の決意を固めており
 その後、宮殿から出奔するのである。


時間的に巻一に繋がる、巻二〜三には夢譚は無いようだ。
  【天竺部】巻二天竺(釈迦の説法)
  【天竺部】巻三天竺(釈迦の衆生教化〜入滅)

ところが、釈尊入滅後の巻四になると、懐胎の夢が登場してくる。但し、聖人ではないし、瑞兆とは正反対。夢での蛇霊感応で懐胎するのだから。もっとも、それは本朝的見方であって、仏教以前から転生観念が定着している社会では特殊例とは言えないかも。
  【天竺部】巻四天竺 付仏後(釈迦入滅後の仏弟子活動)
  [巻四#31]竺国王服乳成嗔擬殺耆婆語📖瘤牛の力
 「我れ、夢に大きなる蛇来て、我れを犯すと見てなむ、此の王を懐妊したりし」

少数だが、他のタイプの夢譚がバラけて収載されているので比較に見ておこう。

  [巻四#22]波羅奈国人抉妻眼語📖天竺の法花経霊験
 盲女、夏の終に至るに、夢に見る様、
 「我が読奉る所の"妙法"の二字、
  日月と成て、空より下りて、我が二の眼に入る。」
 と見て、夢覚ぬ。


  [巻四#38]天竺貧人得富貴語📖震旦の藥師如來信仰 📖薬師の霊験の寺
 薬師の霊験の寺に詣でて、
 実の心を至して、仏を廻り奉て、前世の悪業を懺悔して、
 五日食を断じて、仏の御前に合掌して有るに、
 夢の如くに、妙に厳し人、出来れり。
 小さき比丘に似たり。
 此の人に告て宣はく、
 「汝ぢ、心を至して前世の悪業を懺悔するに依て、
  忽に宿業滅して、必ず富饒を得べし。
   汝ぢ、速に父母の旧宅に返行くべし」と。
 夢め覚めて後、・・・


  【天竺部】巻五天竺 付仏前(釈迦本生譚)
  [巻五#17]竺国王依鼠護勝合戦語📖"鼠王"
 其の夜の夢に、金の鼠来て云く、
 「王、騒給ふべからず。我れ、護りを加へて、必ず勝たしめ奉らむ。
  只、夜曙むや遅きと合戦を始めて、圧はせ給へ」
 と云ふと見て、夢覚ぬ。


  [巻五#18]身色九色鹿住山出河辺助人語📖動物ジャータカ
 其の時に、其の国の后、夢に見給ふ様、
 大きなる鹿有り、身の色、九色也、角の色白し。
 夢め覚て後、「其の色の鹿を得む」と思ふに依て、后、病に成て臥しぬ。
 国王、「何の故に起きざるぞ」と宣ふ。
 后、国王に申し給ふ。「我れ、夢に然々の鹿を見つ。・・・


子宝にまれない人が神仏に祈願し、授かる夢を見て妊娠というのは、本朝では定番的ご利益であり、現代でも通用していそうだが、聖人には、この懐妊奇瑞譚は必須といえよう。
最澄には、そのような話が伝わっていないようだから、なんらかの理由があったということだろうか。
  【本朝仏法部】巻十一本朝 付仏法(仏教渡来〜流布史)
  [巻十一#_1]聖徳太子於此朝始弘仏法語📖本邦三仏聖 📖弥勒菩薩 📖尼紫雲御来迎

  [巻十一#_9]弘法大師渡唐伝真言教帰来語📖弥勒菩薩 📖文殊化身
弘法大師の母阿刀氏は、夢に聖人が来て胎内に入ると見て懐妊した。

  [巻十一#12]智証大師亙唐伝顕密法帰来語📖琉球國 📖文殊化身
 母の夢に、朝日初て出て、光耀て流星の幾程を経ず。

  【本朝仏法部】巻十二本朝 付仏法(斎会の縁起/功徳 仏像・仏典の功徳)
  [巻十二#32]横川源信僧都語📖源信物語 [1:インターナショナリズム]
 女子は多有りと云へども、男子は無かりければ、
 其の郡に高尾寺と云ふ寺有り、
 寺に詣でて男子を生むべき事を祈り申けるに、
 夢に其の寺の住持の僧有て、一の玉を得しむと見て、
 即ち懐妊して男子を生ぜり。


  【本朝仏法部】巻十五本朝 付仏法(僧侶俗人の往生譚)
  [巻十五#16]比叡山千観内供往生語📖千観内供 📖比叡山僧往生行儀 📖弥勒菩薩
千観内供の母は、観音に「子を授けよ」と祈り、夢に1茎の蓮華を得たと見て懐妊した。

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